L'art de croire             竹下節子ブログ

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マクロン、プーチンと会う

ロシアのピョートル大帝がはじめてパリにやってきた1717年から300年、ピョートル大帝をテーマにした展覧会がヴェルサイユのグラン・トリアノンで開催され、その開幕にプーチンがやってきた。

プーチンは選挙運動期間にル・ペン女史に会ったり、フィヨンを支持するコメントを出したりしているのでマクロンとは微妙だ。

朝のラジオでフランスのロシア大使は、ロシアとフランスの今の緊張はウクライナ、シリアと、すべて別の国が原因になっているので、ロシアとフランス自体の昔からの絆は変わらない、と強調していた。

プーチンの保守主義とマクロンのリベラルという価値観の違いはあるけれど理解し合える、と。

そして今になって、ちょうど10年前にサルコジがG8サミットではじめてプーチンと会談した直後に記者会見の場に現れた時の様子が何度も流された。


明らかにふらついていて話すこともしどろもどろ、当時は、ウォッカを飲まされたに違いない、と言われていた。

しかし、プーチンもサルコジもアルコールを飲まない。

それが今になって、あの時は実はサルコジはプーチンに脅迫されてショック状態にあったのだと暴露され始めたのだ。それが単に「言葉だけのものではなかった」とも言われているのだけれど、完全には説明されない。

その時のG8におけるサルコジについて、ベルギーのテレビがまさに「上級生のいる運動場に入って興奮している下級生のようだ」と揶揄して、後から謝罪している。

そのために、先日のG7でのマクロンのパフォーマンスが注目されたのだ。

マクロンはうまく立ち回った。

で、次は注目のプーチン。「力関係」が決め手だとはマクロン自身も言っていて、用意周到だろう。

まず、最初の出会いの握手

握手しながらマクロンがすぐに左手でプーチンの腕に触れると、プーチンもすかさず触れ返した。

さて、午後、ヴェルサイユ宮殿の「戦いの間」での記者会見の中継をネットで全部見た。会見が終わって握手して2人がカメラに背を向けて去る時にマクロンの腕がプーチンの背にあてられた。マクロン得意の、「上から労り」ジェスチャーだ。

すごいなあ、大した度胸だ。

プーチンはヴェルサイユに来たのは初めてで感嘆している、と言った。

場所の選定も、ピョートル大帝の記念という口実も、G7の直後というタイミングもうまい。サンクトペテルブルク生まれのプーチンはピョートル大帝を尊敬しているし、ロシアはフランス文化に憧れていた。

記者会見でより多くしゃべっていたのはマクロンで、ロシアの触れてほしくないチェチェンでのLGBT迫害だの、大統領選中にスプートニク通信社が報道したマクロンがゲイでゲイのロビーに支えられているという噂についても、デマやプロパガンダを垂れ流すものはジャーナリズムだとは見なさないと言って名指しで批判した。

シリアやウクライナ問題についても言うべきことは全部言い、それでもことを進めるためにプラグマティックに解決する用意があるとも言った。

選挙運動中に言っていたことをすべてそのまま口にしている。

もとがトランプのような暴言ではないので、一貫しているという意味だ。

会見の様子を見て、マクロンはプーチンと対等に話した初の大統領だ、などとコメントした人がいた。

もしマクロンの対ロシア外交がアメリカへの従属に終わるなら大失敗だと言われていたが、これはまず成功の部類だろう。

会見の背景に映る両国の国旗も、ロシアも三色旗(上から白、青、赤)なのだが、白を真ん中にするフランス国旗の方がはっきりしていたし(マクロンの顔が白地の前になる)、その後ろに並べられたヨーロッパ旗が、フランスはフランス一国でなくてヨーロッパが背後についているという威嚇と同時に、フランスがヨーロッパの旗手であるという風にも見える。いや、そう見せる意志が伝わってくる。

10 年前、何があったのかは知らないがあのサルコジをすら打ちのめしたプーチンに対してともかく「対話」をした。(オランド大統領にいたっては建設的なことは何もできていない。)

こんな風に書いているとまた私は「マクロンびいき」だと言われるかもしれないが、実は、日本のことを考えていた。

マクロンとプーチンの会見を見ていて、安倍首相とプーチンの会見のことを思い出して暗澹としたのだ。日本の政権とメディアをめぐる今の状況を憂えているので、記者会見でのやり取りを聞いて、そのことも考えずにはいられなかっのだ。

日本の為政者にとって他国の為政者と対等でいられるということはどういうことなのだろう。

G7の首脳を伊勢神宮に連れて行っても、それはヴェルサイユのような意味は持たない。ロシアに関しては、プーチンをわざわざ地元の宇部に迎えてその後に山荘に招いて「温泉でゆっくりどうぞ」なんてあまりにも…敵を知らなさすぎる。

ロシアとの歴史と言えば日露戦争だったりするし、一度だって憧れを持たれたことがないと思う。

欧米の国で伝統的に日本文化に「憧れ」を持っている唯一の国はフランスなんだけどね。

表現の自由、メディアの独立性、外交においても言うべきことをきっちり言うこと、説得力を持たせること、展望があること…。

スポーツの試合では対戦相手のプレイのビデオを何度も見て、相手の弱点などを分析して戦略を立てるなどということがよく知られている。

国際関係に携わる人はなおさら、歴史の経緯も含めて勉強、研究が欠かせない。内向きのポピュリズムで満足している場合ではない、とつくづく思う。


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by mariastella | 2017-05-30 02:18 | フランス

マクロン、マリヘ行くーー女性国防大臣の意味は?

マクロンのはじめてのヨーロッパ外の訪問は、アフリカのマリのフランス軍駐留地で、7時間いて、閲兵した後は兵士たちといっしょにセルフサービスのテーブルについた。

フランスの国防大臣はオランド政権の5年間、ジャン=イーヴ・ドリアンが続けて存在感を示していた上に、早くからマクロンを支持していたので、続投かと思ったら、欧州・外務大臣に任命された。
要職だから文句はないとしても、新国防大臣にシルヴィー・グラールを当てたのはなんとなく分かる。

マクロンは「大統領は軍の総帥」だということを強調したかった。
もともとナポレオン路線をたどっているから、「軍隊を率いる」というイメージはもっともシンボリックなものである。
就任式の後、シャンゼリゼでパレードした時に普通の車でなく軍用車に乗り込んだのも明らかにそのための演出だった。
年長者に対してやたら「父性的」なしぐさをすることは前に書いたけれど、兵士たちの前をゆっくり歩く足取りも、それを意識している。

そんな「ナポレオン」に、ドリアンのようなベテランの国防大臣は「不都合」だろう。

シルヴィー・グラールは首相候補だともささやかれていたベテランの欧州議員だ。
実績、実力は問題ない。「国防」大臣のポストは、「戦争」大臣、「軍隊」大臣(今回はこれに戻った)など名前はころころ変わるのだが、やはり圧倒的に男性が占めてきた。

フランス史上最初の女性国防大臣はシラク時代のミッシェル・アリオ=マリーで、この人は最初の女性大統領になるかもと言われたくらい見た目もなかなか堂々としていた。彼女がこのポストに就いたのは、2002-2007で、シラクとル・ペン(父)が決選投票した後だ。その後はまた男性が続き、マクロンがル・ペンと決選投票になった後でふたたび女性国防大臣が登場したのは偶然だろうか。
ル・ペンと言えば、ジャンヌ・ダルクを政治利用することで有名だ。
ル・ペンを選挙戦で敗退させた後で、軍隊に女性大臣を配することには隠れたメッセージがあるのかもしれない。

何かと男女の同権や平等が言われる時代だ。女性大臣と言えば教育とか文化、健康、厚生などのポストを受け持たされることが多いことも批判される中で、「軍隊」という伝統的に男の世界のトップに女性を据えること自体の「政治的効果」はもちろんあるだろう。日本でも、稲田朋美防衛大臣が女性初の小池百合子(2007)に続いて2番目だ。

マクロンの場合は、女性国防大臣を置くことで、やはり「真のリーダーは男である自分」、ナポレオンのように軍の先頭に立つリーダーなのだ、ということを「自然に印象付ける」という効果もあって一石二鳥というところか。

この人のやることはすべて計算し尽くされている。
果たして計算通りにどこまでうまくいくのだろう。

しばらく姿を見せなかったル・ペン女史もピカルディの選挙区に姿を見せた。
決選投票で58,2%を獲得したエナン=ボーモンだ(すでにFNのスティーヴ・ブリオワが3 年前から市長をしている。この人は大統領選の間FNの臨時代表をしていたが、TVでのコメントを見ているとまるでFNのイメージのカリカチュアみたいだった。16歳からFNに入ったというからすごい)。

娘と敵対していた父のル・ペンも独自候補を出さずに支持に回った。笑顔を振りまく彼女の姿がまたメディアに登場した。

エナン=ボーモンに住んでいなくてよかった。

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by mariastella | 2017-05-20 06:58 | フランス

新内閣のスポーツ相とブラックフェイス

今回のフランスの新内閣の構成で、男女の同比率はきっちり守られたし、出身階層や学歴についてもいろいろ分析されていた。閣僚全部で88冊の著書があるとかいうのもフランス的だ。政治家の本はよく売れるし、フランス人は今でもクリスマス・プレゼントに単行本を贈り合うのが珍しくない。

でも、何しろ公の「人種別統計」が禁止されている国だから、閣僚の「人種」のバランスは問題にされない。

今回の唯一の黒人閣僚は、ローラ・フェッセルで、スポーツ大臣、過去のオリンピックで金メダル2度、世界チャンピォン6度を征したフェンシング選手(エペ)である。

黒人閣僚は、海外県担当大臣(別枠)を除くと、近年有名なところではラマ・ヤデやクリスティーヌ・トビラという大物がいたが、ローラ・フェッセルも含めてみな女性だというところが意味深長だ。

アメリカではオバマ大統領の登場も含めて黒人問題は今も重要テーマだけれど、フランスではかなり温度差がある。とはいえ、アメリカの影響で寄り注目されるようになっている。

3、4年前だったか、『エル』の女性ジャーナリストが黒人女性に扮した写真が差別だと問題にされた。

あるパーティで、ファンであるビヨンセの妹に扮した写真をインスタグラムにアップして批判されて叩かれ謝罪したのだ。

「黒塗り」はコスチュームではない、と抗議される。

アメリカとは歴史が違うから、差別への感受性も違う。

ヨーロッパでは「ナチスの仮装」の方が罪が重い。

1980年代初めのフランスでは黒塗りのコメディアンが「アフリカ人」というタイトルでコントをやっていた。

今なら完全にレイシストだ。

シェイクスピアの『オセロ』は16世紀以来白人俳優が黒塗りで演じてきた。ヴェルディの『オテロ』も白人歌手が黒塗りで歌う。

日本でも二期会の公演の写真を見ると、テノールの福井敬さんが黒塗りで歌っている。

劇団四季のミュージカル『ライオンキング』を東京で観たが、黒塗りではなく「アフリカ人」をメークしていた。

同じ『ライオンキング』がパリでは全員黒人歌手やダンサーだったことに驚いて、なるほどなあ、と思ったことがある。

オペラ『蝶々夫人』での白人歌手の「日本人メーク」の歴史もいろいろありそうだ。

アメリカでは白人が黒人を演じる「ブラックフェイス」というのが19世紀にジャンルとして確立した。

映画で有名なものに黒人歌手を描いたものがある。


1964年からはもちろん自粛された。

今はいわゆる「仮装大会」でしか見られないが、それでも問題になるわけだ。

フランス映画のコメディで女性のブラックフェイスを描いたのもあったっけ。

で、その逆のホワイト・フェイスというのはない。

一般に、女性の男装は、男性の女装よりも社会的に容認される。

女性として生まれてしまったにかかわらず、男性という「上位」に倣い、希求するのは上昇志向でOK。

せっかく男性として生まれたのに、女性という「下位」に身をやつすのは脱落者。

黒人の場合は、それが少し歪んで、

白人が黒人に扮するのは動物に扮するのと同じファンタジー(差別)、

黒人が白人のふりをするのは越権で許せない。

あるいは、社会的な差別体系の中で上位の者が被差別者に扮するのはそもそも「差別」の一形態であるから、逆のケースはあり得ない。

ローラ・フェッセルの場合は、競技種目がそもそも剣を使って戦う剣術だ。

そしてフランス語がつかわれるフランスっぽい競技。

記録を競う競技でなく相手を破って勝ち取る競技。

そこでチャンピォンでオリンピックの旗手も務めたローラ・フェッセル。

で、黒人。

で、女性。

2024年のオリンピック開催を目指すフランスにとっていろんな含意がありすぎる人選だ。






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by mariastella | 2017-05-19 03:00 | フランス

ニコラ・ユロー環境相の意味、マクロン政権への私のスタンスなど

今朝のラジオで緑の党のダニエル・コーン=ベンディットが、ニコラ・ユローの、環境相就任についてコメントしていた。

これまでサルコジからもオランドからも誘われていたのに断ってきたポストをどうして受けたのか、
どうみても原発推進派の首相のもとでこの人選は、「アリバイ大臣」と言われているがそうなのか、

という質問に対するものだ。

ニコラ・ユローはフランス人の好きな人物のアンケートでいつも上位にある人気者で知名度は高い。
この人をついに入閣させたということは新内閣のイメージアップではある。
ヤニック・ジャドも歓迎していた。

(けれども、一方では、ディープ・エコロジストからは体制寄りのご都合主義者として批判されてもいるのだけれど。)

で、コーン=ベンディットの見立ては、マクロンはユローを守るだろうというもの。
というのは、ユローは、これまでのやり方を見ても、もし、自分が十分に動けないとか妨害をされたと感じたらさっさと自認するに違いない。

マクロンにとって、ユローを環境相にして親エコロジーを演出することのメリットよりも、
ユローに批判されて出て行かれることのデメリットの方がはるかに大きい。

だから、彼を起用するにあたっては絶対に辞任させないという自信がある、というか、彼の立場を守る、という合意があってのことなのだろう。

以上がコーン=ベンディットの見立てだ。わりと説得力があったので紹介する。

新内閣の組閣については、後は、

男女同数と言っても「格」としては女性(シルヴィー・グラール)は5番目に出てくるに過ぎない、
平均年齢がオランドの初期内閣よりも上である、

などがコメントされている。

政治畑以外からの入閣が半数を占め、
全体としては左派に傾いているが、
フィリップ首相の任命を聞いたピエール・ガタズ(フランスの経団連にあたるフランス企業運動MEDEFの会長)がいたく喜んだということからも分かるように、「経済リベラル」の路線は確実だ。

労働組合の緊張は高まっているし、マクロンが財政や失業問題の立て直しに結果を出さなければ、
また「取り残された庶民」の怒り、というシナリオになる。

全体としては、バランスが取れた巧妙な組閣だとも言われるが、国民議会の総選挙の経緯を見てみないと誰にも何も分からない未知数であるということは確かで、夏には例えばバロワン首相とのねじれ内閣になるなどの可能性もゼロではない。

付記: 古川利さんが私のことを名指しで「マクロンにメロメロ」だとブログに書いていた、と教えてもらった。
私の一連の記事でどうしてマクロンにメロメロなどという印象を与えるのか不思議だ。あらためてまとめておこう。

数年前から書いているように、個人的には彼の雰囲気は神経質でナルシスティックで好きではない。
教祖的演出も嫌いだった。
政策の新自由主義にも反対の立場だ。(しかも、ポピュリスト公約の住居税免除は私に関係ないしむしろ収入は低下する。)
政策的にはアモンを支持していたが、大麻の解禁のことで躊躇したし、メランションの言うことも、人間性は別としても基本線においては評価している。
マクロンを支持してもいいかと思ったのは第一次投票の三日前に起きたテロのテロリストがマクロンと同じ39歳だったので、同じ歳で国をリードしようとしている若い世代に希望を見出したくなったからだ。
その後はもちろん、ル・ペンよりもマクロンを支持した。彼が当選して「ほっとした」というのが本音だ。
結果的に、プーチン、メイ、習近平、トランプ、メルケルといった強烈な人達に対して、イメージ的に別のメッセージを発することができているようなので悪くはなかったと思う。
フランス語能力が高いことはもちろん評価できる。
全体としては今の私にとってはマクロンはOVNIだとしか言えない。
夫人が私と同世代であることなどどうでもいいが、そのカップルのありようが、例えばトランプ夫妻の逆であるような部分は痛快だとは思う。
私の周囲の若い世代はマクロン支持が多いので彼らへの連帯感はある。
前の記事でも書いたが目上の公人の頬を人前で軽くたたくような不自然な「父性演出」は個人的に不愉快。

とまあ、こんなところ。
サルコジやオランドと違って、内政では軽々しく「おことば」を発しないと言っているので(実際組閣についての説明もなかった)、まあこれからはそう目につかないだろう。食傷気味だ。
フィリップ首相の姿もあまり見たくない。やはりラジオと読み物中心で行くつもり。


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by mariastella | 2017-05-18 16:30 | フランス

マクロン内閣はやっぱり… ジェラール・コロン国務相

(注:タイトルの「コロン」はコロンブではありません。最初の打ち間違いが全部にコピーされてしまったのに今気づいたので訂正します。)


任命前のモラルと資産の「身体検査」に時間をかけたということで遅くなった内閣のメンバーが発表された。

バイルーが法務相、
ル・メールが経済相、
ニコラ・ユローが環境相、
ル・ドリアンが欧州・外務相

と、中道、共和党、緑の党、社会党の大物が大方の予想通りちゃんと要職に…。

突っ込みどころは多いけれど、予想通り、ジェラール・コロンの名が真っ先に国務・内務大臣として上がったのは感慨深い。

マクロンの就任式で握手をされ、抱かれて、涙を流していたからだ。

私はマクロンの握手やハグの仕方が嫌いだ。
オランドに肩を抱かれたりするのが困る、というのは分かる。ル・ペンから揶揄されるような父と子のような印象を与えたくない。だから自分もオランドの肩や背中に手を置いた。

で、就任の時に握手に回った時も、かなりの人の頬や首にふれていた。ジェラール・コロンにも例外ではなかった。

大統領のイメージに、「父なる神」ならぬ「神なる父」を印象付けているように見えた。
握手やハグをしながら手を相手の肩や腕においたりポンポンと軽くたたくのは「父親的」だ。

トランプの強引な「引き寄せ握手」とはまた別の「慈愛に満ちた」上から目線。
もちろん彼が若く、若く見え、トランプやシラクやジスカールやドゴールのように高身長でもなく、恰幅がいいわけでもなく、ギニョールで「赤ん坊」扱いされてきたことを考えると、こういうちょっとしたしぐさのシンボリックな意味によって父性的なものを演出する必要は分かる。

でも、今年70歳のベテランで、マクロンを最初から支えたリヨン市長にことさら涙を流させるような演出は不愉快だった。私には広島でオバマが高齢の被爆者を父性的にハグする写真も不愉快だった。オバマも背が高いから誰と並んでも「上から目線」になるのは仕方がないけれど。

ほんとうに「大統領」にハグされたり頬にふれたりされることに感激する人がいるのだろうか。

メルケル首相との最初の公式会談ではまずメルケルに腕を回され



来るG20やG7でのトランプとの握手が楽しみと言えば楽しみだけれど…。


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by mariastella | 2017-05-17 23:33 | フランス

新首相への懸念と前の記事の追記

新内閣の発表は水曜日に延期されたそうだ。

共和党のフィリップ首相が任命されたのだからブリュノー・ル・メールなど何人かの共和党議員が入るだろうと言われていたのだけれど、フランソワ・バロワン(私はこの人の低音のファン)は分断を認めないし、なかなか微妙だ。

フィリップ首相を激しく弾劾するのは「共和党を裏切った」とかいうことではない。
もともとル・アーブルのような元来左派の拠点であるような街になんとか食い込んで市長をやっているのだから「保革」の間をうまく泳げる人であるのは確かだ。
問題は2007年から2010年の間にアレヴァ社の公務部門ディレクターをやっていたことで、持続可能エネルギーへのシフトや生物多様性に関するエコロジカルな法律にこれまで反対投票をしてきた過去だ。
アレヴァというのは言わずと知れた原子力産業のトップの複合企業で、もちろん日本の原発産業とも深いかかわりがある。

こんな首相のもとでは、マクロンを支持してきた前環境相セゴレーヌ・ロワイヤルなどとても閣僚にならないだろう。

マクロンが若者は仕事を覚えなくてはならないから週40-45時間労働は当たり前だ、今の35時間労働はシニア向け、などと議論しているシーンのyoutubeも試聴が増えている。

マクロンやフィリップのような人は、週100時間くらい働いても平気、って感じもするけれど。

昔、日本の企業や役所からフランスに来た人たちが、「フランス人は働かないって聞いていたけれど、エリートは日本人よりも働いていますね、」と驚いていた。

エリートが眠らずに働くのと、ブラック企業で働かされるとか、働かないと食べていけないとかいうのは意味が違う。

エリートが人一倍働いて、それなりに庶民に利益を還元するという時代も過去には確かにあった。

今や経済格差の問題というのは人の心を確実に蝕んでいる。

ああ、それから、前の記事の追記として書いておくと、『アエラ』のマクロン夫妻の写真のキャプションも間違っている。 

「北仏のリゾート地ルトゥケを訪ねた際の仲睦まじいマクロン夫妻。ここは彼らが結婚式を挙げた町だ」

とある。

ルトゥケにはリゾートで遊びに来たわけではなく彼らはここに住民登録をしている。
投票もこの町でしている。

まあどうでもいいことだし、他の雑誌のマクロン報道も的外れのものが多いのだけれど、朝日新聞系の雑誌の記事なんだから、少しは校閲というものがされないのか不思議だ。



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by mariastella | 2017-05-16 22:59 | フランス

フランスの新首相

大方の予想通り、アラン・ジュッペの側近だったル・アーヴル市長のエドゥアール・フィリップがマクロン政権の首相に任命された。がたがたになった社会党シンパの多いマクロンのLREM党には共和党の取り込みが必要で、しかも、「手垢のついていない」人が必要だから、共和党のこの人が選ばれた。

46歳と若いし、マクロンと同じく、労働者の階層から「共和国の聖職」である教師になった祖母や曾祖母に文学を学んだ。母はカトリックで教師の父は無神論自由思想家、自分は信仰はないが信仰のある人や聖なるものを尊敬する、と言う。月曜から木曜までパリ9区に夫人のエディット・シャーブル(一つ違い)と3人の子供(10代の二人の息子と7歳になる末娘)と住み、週末に母の住むル・アーヴルに行くという。
夫人とは政治学院で知り合い、行政学院では15位以内(マクロンは5位と言われるが、彼の年の順位は手続きのせいで無効になり訴訟も起こされた)のエリートだが、祖父が共産党員で、ジュッペに誘われるまでは自分も最初は社会党に席を置いた。ミッシェル・ロカールに心酔したのはマクロンとの共通点だ。経済よりも法律に詳しく弁護士でもある。
ボクシングが趣味で、マクロンのように「愛される」ことを標榜するタイプでなく嫌われるのは平気だそうだ。
フィヨンの選挙運動からは途中でドロップ・アウトしている。

マクロンとチームを組むのによくこういう「ぴったりな」人材がいたものだと思うが、それもマクロンの「運の良さ」かもしれない。

新首相は高身長で、小柄なカズヌーヴ首相との引継ぎは対照的だったが、マクロン政権の前衛で戦うには頼もしそうだ。

マクロンは予定通りドイツに。
サルコジ以前のように外交と軍事に専念して、内政は首相を前面に立たせる方針だそうだから、明日の組閣発表が楽しみだ。

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by mariastella | 2017-05-16 01:52 | フランス

『アエラ』のマクロン記事にびっくり 

フランスの大統領選についての日本語の記事を偶然、ネットの雑誌記事で見て驚いた。

日本の個人のブロガーなどが的外れなことを書いていても別に気にならないけれど、アエラって朝日新聞社の雑誌じゃなかったっけ?(5/22号 p58-59)
しかも、編集部とライターの署名記事。

突っ込みどころが多すぎる。

タイトルからして

《「ナチスの教訓」が勝った》

というのだ。

ドイツじゃあるまいし、フランスが極右を排除しようとするのは、口をそろえて「共和国精神に反する」からで、この建前だけは、なかなか外せない。

そしてサブのテキストが

「仏大統領選で有権者が選んだのは、同国史上最年少の大統領となる元銀行員。」

だって。

「銀行員」!!

政治家として官僚として最高のエリートのグラン・ゼコールを出た人なのに。
「銀行」と言ってもロスチャイルドの投資銀行に3,4年いて大口の買収を成功させて何億ユーロと稼いだ人。

その後、大統領の特別顧問、経済相になった男を「元銀行員」。
フランス語を本気で読み違えているのだろうか。「元銀行家」ならまだしも・・

>>無所属の「泡沫候補」でしかなかった人物<<

に期待が託されたのはまるでトランプ選出を見ているかのようだ、だって。

マクロンは社会党に属して大臣だった頃にすでに自分の団体を立ち上げて気勢を上げていた。
若いし確かに最初はまさかとは思われたが、知名度では「泡沫」どころではない。

「グローバリズムへの反発」が起こって、「傍流が主流になる選挙」だとも書いてある。

メランションが勝ったならそう言えるけれど、マクロンはグローバリズムの勝ち組で推進者だ。

「かろうじてEUに残ることを決めた有権者たち」

というのもおかしい。もともとEUに入ることをフランスから拒否されていたイギリスが抜けたこととはまったく意味が違うし。

記事の下のコラムもひどい。

例によってマクロン夫人のことで、まず、

「超・年の差婚」にも寛容な大人の国ですが…

というキャプション自体が不愉快。こんなところに「寛容」という言葉を使うのも嫌だ。

「高校生だったマクロン氏が、高校教師だったブリジットさんを前夫から奪った略奪愛。」

という解説も不愉快。女性は前の所有者から「略奪」されるものなのか。

>>7人の孫を持つ女性とは思えぬ美脚が自慢で、レザーパンツやミニスカート、ハイヒールがよく似合う。
微塵もコンプレックスを感じさせない熟女の星だ。
日本では「母のくせに」「妻のくせに」となどと非難されそうなものである。<<

これもひどい。孫は自分で生むのではないから年のとり方とは関係がない。
コンプレックスを感じさせないところが「熟女の星」だなんて。

彼女は、インスタグラムにアップしようと高校の屋上で危険な写真を取っていた生徒数名が停学処分になった時に、彼らを負傷者のいる病院でボランティアで働かせることを提案したという。ほんとうに怪我をした人たちとその周囲の人たちがどういう状態になるのかを知らせることが最も教育的ではないかと考えたからだ。障害のある生徒にも積極的に関わってきた。

先日、娘のインタビューを聞いても、非常に好感が持てた。

私はシカゴ学派の別名のようなグローバリズムはフランスの「共和国主義」と伝統的な社会民主主義路線に反すると思っているので、マクロンのやり方そのものには賛同していない。

でも、アエラのこの記事の的外れ具合とコメントを見て、ショックを受けた。
コラムも署名記事で女性のライターのようだ。

こんなのでいいのか、日本?












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by mariastella | 2017-05-15 05:37 | フランス

マクロン大統領の就任(追記あり)

マクロンの就任セレモニーを中継で見た。

1月にトランプの就任セレモニーを中継で見てしまったことを記事にしたので、一応バランスをとっておこうかなと思ったのだ。

5年前に連れ合いのジャーナリストと手を取り合って現れてその後スキャンダラスな別れ方をしたオランドが1人で現れたので、マクロンもすべて一人で仕切った。

フランスはひとりの「人」を選んだのでカップルを選んだのではない、というシンボルをきっちり踏襲している。(ビル・クリントンが当選した時は一人で二人分だからお得、みたいな言説があったことを思い出す。リーダーの夫人が家庭内野党と称されていた国もあったようだけれど…)

すべてにそつがない。

就任の演説も、オランドがサルコジに触れなかったのと違って、歴代の大統領の功績にちゃんと触れて、模範的によくできていた。
まあこれは当然予想されていた範囲だ。
失敗は許されない。

すばらしかったのは、そのすぐ前のローラン・ファビウスによるスピーチだった。
社会党ミッテランの秘蔵っ子で37歳で首相になったファビウスは社会党オランドの秘蔵っ子で39歳で大統領となったマクロンを前に感慨深いものがあっただろう。

大統領に与えられるレジオンドヌールのグランドマスターのメダルにはHP(honneur et patrie)つまり名誉と祖国、と軍隊らしい標語が入っているが、ファビウスはきっちりと共和国の標語、

自由、平等、同胞愛 を出して、

自由には大胆さが、
平等には厳律が、
同胞愛(これは人類皆きょうだいの意味)には意志、意欲が必要、

という言葉を引いた。

すなわち、

自由を得るには、恐れていてはならない、思い切った大胆さが必要だ、

平等を実現するには、事なかれ主義やなれ合いや建前だけではいけない、客観的にきっちりと厳しくチェックしなくてはならない、  

すべての人ときょうだいのように共存するには、それを望み、志すことが必要だ。

ということだ。そして、

それを通して「持続する平和」を実現しなくてはならない。

ということをちゃんと言葉にしていた。

このファビウスの言葉とマクロンのスピーチの組み合わせは、フランス語と、フランスの共和国主義と社会民主主義の「建前」が揺るがないことを見せてなかなか感動的だった。

壇上でペーパーを参照できたマクロンと違って、70歳のファビウス、このスピーチを全部そらで言えたのだから、それも大したものだと思った。

さすが百戦錬磨。

百戦錬磨と言えば、マクロンの外交顧問になったフィリップ・エチエンヌも頼もしい。

ファビウスもそうだが、マクロンが2度一次試験で落とされたパリ高等師範を出ている。しかも数学のアグレガシオン保持者で、経済学の学位、セルビア=クロアチア語の学位も持ち、
ENA(行政学院)では、オランドやドヴィルパンやセゴレーヌ・ロワイヤル女史らを輩出した有名な「ヴォルテール同窓生」の学年だ。ENAの卒業順位は公表されているが、総合部門ではオランドが117名中の8番、エチエンヌは経済学部門の42人中8番だった。(ちなみに総合部門でロワイヤルは64番、ヴィルパンは25番)。

ヨーロッパの様々な国の大使を務め、最後はドイツだった。選挙前のマクロンとメルケルの会合を手配したのも彼だ。(追記: 防衛相に任命されたシルヴィー・グラールが直接の手引きをしたそうだ。彼女もドイツ語、英語、イタリア語を自由に話す)

61歳の経験豊富なエリートのエチエンヌの他に、特別顧問として、なんと30歳の、戦略とマーケティングの天才イスマエル・メリアンという人もいる。
19歳でDSK(ドミニク・ストラス=カーン)の支援に入り、22歳でマクロンと出会った。この人は経験豊富とか百戦錬磨とか未来のマクロンという感じではなく、ただひたすら「ある部門の天才」という感じだ。

マクロンは人に恵まれている。いや、人に恵まれている人が成功するのだろう。

意志はオプティミズムで理性はペシミズムだ」と誰かがコメントしていた。

誰もが、39歳の大統領の中に「希望」を見ようとしている。
エリゼ宮のパーティ会場で演奏された曲にはモーツァルト、フレンチ・カンカン、ハンガリー舞曲など、独立記念日の祝祭のような陽気なものが流れていた。

想像するのも嫌だけれど、もしル・ペンが選ばれていたらどんなスピーチ、どんな就任式だったろうと思うと、やはり「あり得ない」としか言えない。ル・ペンはそもそも実際に選出されることを想定していないとしか思えない。トランプの就任を「悪夢」のように感じた多くのアメリカ人に同情の念を禁じ得ない。

ル・ペンの姪のマリオンも政治活動を停止したし、マリーヌも今のところ気配を消している。

週明けの組閣や総選挙の行方が注目される。


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by mariastella | 2017-05-14 21:49 | フランス

マクロンと陰謀論

フランスの新大統領について書くのはもうこの辺で終わりにしておこうと思っていたのだけれど、選出の夜の演出について「やはりそう来るか」、と予想した陰謀論が愉快だった。

夜空に赤く光るルーブルのピラミッドを背景に壇上に立った姿は印象的だった。
ルーブルのピラミッドと言えば、これはもうできた頃から、その三角形の数とか、場所とか、フリーメイスンだなんだと噂されていた。ルーブルも『ダヴィンチ・コード』などで怪しげなオカルトのイメージも作られ、マクロン自体が「神がかり」、「ミスティック」だと評され、本人も自分は超越的なものの存在を信じる、自分にはそこから発せられる使命があると感じる、などと発言している。

で、ピラミッドが赤く光り、頂点に「目」が光り、その前で両手を広げて掲げた(フリーメイスンの「コンパスと定規」の形)映像が、ネット上にすごい勢いで広がって、フリーメイスンだ、イルミナティだ、陰謀だ、ということになっている。

実際は、当初、マクロンはエッフェル党の前のシャン・ド・マルスを集会の場所にしようとしていたのをパリ市長のイダルゴに断られたのでルーブルは第二候補だった。

もっと笑えるのは、カトリック右派で、ル・ペンに投票を呼びかけていたクリスティーヌ・ブタンが、最初にマクロンが66.06%で当選というニュースを聞いたとき思わせぶりにtweetしたことだった。
もちろん、666が黙示録の獣(悪魔の数字)ということをにおわせて、マクロンはサタンの手先、アンチ・クリストだと言いたいわけだろう。(『キリスト教の謎第六章で少し説明しました)

残念?ながら、最終的には66.1%に落ち着いたので、ブタン女史の懸念が払しょくされてめでたい。
それにしても、「政治家」と名のつく人があまり考えなしにその場限りのtweetを残すのって、リスクよりもプロフィットの方が大きいからなのだろうけれど、デジタル環境は確実に政治も陰謀論も変えた。

人間が、自分たちの知覚できる「世界」とは別の「超越」的なものを感じるのは普遍的で、それをどのような表象を使って「シンボル」化していくかは、時代や場所の条件によって変わっていくものだ。
それが「教義」と「典礼」を備えると「宗教」になるし、イデオロギーが形成されると政治的党派にもなる。西洋近代はヒューマニズムの「大きな物語」を掲げることに成功したかに見えたけれど、「ポストモダン」はそれを「小さな物語」のひしめく多様性に解体した。
と言っても、人はいつも「大きな物語」の中に自分の居場所を求める。

マクロンの書いていく物語が始まる。

陰謀論について)

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by mariastella | 2017-05-09 18:08 | フランス



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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