L'art de croire             竹下節子ブログ

カテゴリ:アート( 78 )

ウィーンの話  その24 美術市美術館 2

美術史美術館で興味を掻き立てられたのは、天使たちの造形。
天使といっても、大天使ナントカではなくて、子供型のいわゆるキューピッドというやつだ。



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保育園でもめている子供たちですか。


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なんか凶器を作っている天使のそばで、もう一人が嫌がる子の手を無理やりにひっぱって、いじめの現場みたいな光景。実際はアトリエで作業している様子らしいが、絶対に何かの含意がありそうだ。こんな絵、誰が注文したのだろう。

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by mariastella | 2017-09-18 02:38 | アート

ウィーンの話 その23  美術史美術館

日本人にとって、美術の教科書に載っている有名な絵の実物がたくさんある、という不思議な気持ちを抱かされるヨーロッパの美術館のひとつがウィーンの美術史美術館だ。

しかも、例えばイタリアだからイタリアの、フランスだからフランスの、スペインだからスペインの、イギリスだからイギリスの、ウィーンだからオーストリアのアート作品の収集というのではなく、ヨーロッパの中で、王侯貴族やカトリック教会の姻戚関係やネットワークが国際的で錯綜していて、コレクターもボーダーレスなので、どこでも「美術の教科書」っていう感じになる。

美術史博物館の目玉展示物もラファエロやフェルメールやブリューゲルだったりするのだ。
でも、いわゆる有名作品に惹きつけられるよりも、

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カラヴァッジョの大作の貧しい人々の足の裏の汚れのリアルさになぜか感動したり、


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こんな聖母子像の異様な愛らしさに驚いたり、

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このような象牙細工(下はヨーゼフ一世。70cmくらいの作品)の職人技の造形に圧倒されたりした。

これは、パリのブランリー美術館でアフリカの装飾品を見てもそう思うのだけれど、日本にいればとても繊細な職人技はなにか日本人独特のものかと思うのに、実際は、「細部への偏愛」というか偏執みたいなものは、古今東西、人類共通なんだなあとあらためて感心する。

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こういう不思議な小物もあった。

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by mariastella | 2017-09-17 07:51 | アート

ウィーンの話 その22  ベルヴェデーレ宮美術館 4


(これは前の記事の続きです。)

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メッサーシュミットは若くして王立アカデミーの助教授ともなり、ウィーンの貴族や知識人らの肖像の注文を受けた。その腕は高い評価を得ていたのに、やがて人間関係が破綻して解雇され、ウィーンから去らざるを得なかった。

彼の病が何であったのかについては、言行録があまり残っていないので確定はできないが、1932年に美術史博物館長で精神分析家でもあったエルンスト・クリスが統合失調症だと診断した。頭像における様々な感情の表現は、無意識の自己治療なのだという。

さらに、1981年に、オットー・グランディエンが、メッサーシュミットが47歳で肺炎で死ぬまで最後まで制作に破綻がなかったことから妄想性精神障害という診断を下した。


死亡記事には彼が超常現象に興味を持っていたと記録されている。

注目すべきは、メッサーシュミットが、ほぼ同世代のフランツ・アントン・メスメールと1766-70年にウィーンで同居していたことだ。メスメールからの注文で噴水用の彫刻も制作している。


メスメールといえば、「動物磁気」による治療でパリで一世を風靡した人で、催眠術や精神分析の先駆者ともなった。ウィーンで怪しまれたメスメールは1779年にパリに行き、宇宙の波動による治療で大儲けをした。1780年代に8000人の患者がメスメールのエネルギー治療を受けた。メスメールは450人の磁気治療師を養成し、フリーメイスン・ロッジのモデルを使ってヨーロッパ中や海外にまで支部を作ったという。


ウィーン時代にはもちろんモーツアルトとも交流があり、治療の時のバックミュージックをモーツアルトに依頼している。モーツアルトのオペラ・ブッファ『コジ・ファン・トゥッテ』(1790)の中にも「磁気療法」が出てくる。


すなわち、メッサーシュミット、モーツアルト、メスメールはフリーメイスンを通して交流していたというわけだ。

メッサーシュミットのような天才が、これほどの途方もない作品、当時としては商品価値を持ち得ようのない強迫的な作品群(70点以上)を残せたことの背景には、啓蒙の世紀の末期、革命前夜のフリーメイスン的デカダンスと韜晦があるのかもしれない。


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by mariastella | 2017-09-16 06:37 | アート

ウィーンの話 その21 ベルヴェデーレ宮美術館 3

ベルヴェデーレでクリムトやエゴン・シーレにあえて触れないとしても、やはりここでしか見られない目玉展示品は、フランツ=クサヴァー・メッサー シュミット (1736-1783) の『個性の顔』と呼ばれる不思議な頭像の表情シリーズが一堂に集められているものだろう。

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彼の作品の表情の誇張は、それが肖像として注文されたものではなくて、ただただ、人の表情の観察のために作られているということだ。

後世に残すための「よそ行きの顔」ではなくて人間の内面を表す様々な表情を研究したアーティストは別にメッサーシュミットだけではない。ダ・ヴィンチだって多くのデッサンを残している。

メッサーシュミットの残した頭像がすごいのはそのほとんどがブロンズ像だということだ。こんなものは、普通は、しかるべき権力者の注文によって作られる。

メッサーシュミットにそれを作らせたのは、「精神の病」だった。(続く)


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by mariastella | 2017-09-15 07:30 | アート

ウィーンの話  その20 ベルヴェデーレ宮美術館 2

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ちゃぶ台をひっくり返したサムソン。旧約聖書のサムソンとデリラで有名な話。

Johann Georg Platzer『サムソンの逆襲』1730-40頃 

怪力を取り戻してつながれていた柱を壊して建物を倒壊させたサムソン。
救いようのない話だけれど、構図がとてもバロックだ。

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こちらは怪力とは無縁の、苦悩するイエス。Paul Troger の『オリーヴ山』 1750年ごろ。後期バロック。

この両手の指の組み方がなぜか悲痛。イエスは、逆襲しなかった。

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by mariastella | 2017-09-14 05:49 | アート

ウィーンの話  その19 ベルヴェデーレ宮美術館

ベルヴェデーレ宮の美術館というと、世界最大のクリムトのコレクションとかエゴン・シーレの画を思い浮かべる。実際、この二人が出てきたのは、音楽に関して今回初めて意識したウィーン独特の退廃から抽出された毒を秘めた何かのせいだと思う。

学生の頃はドイツの小ロマン派などに傾倒していたから、クリムトやエゴン・シーレもかなり「好み」だったと思う。

でも今はすごく健全になったので実はこの2人にもう刺激を受けない。

もっと中世的なものの新しさの方に驚く。

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これはHans Klocker という人の1485-90年ころの作品で、イエスの誕生に集まった人々の群像の中から聖母マリアの夫ヨセフ。この人って、許嫁の10代の少女マリアが聖霊によって妊娠したって知って、悩み、それでも母子を守ることに決めた苦渋のお父さん。しかも、子供は、旅の途中の馬小屋で生まれちゃうし、こういう複雑な表情になるのもよく分かる。


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これは司教姿の聖人たち。1518年の木彫。Andreas Lacknerの作。
保存状態がいいのもすごいけど、この聖人たちの表情が、ちっとも聖人風でなくなんだかそこいらのおじさん連みたいなのがリアルだなあと驚く。しかるべき衣装や小道具をあしらえさえすれば、顔の部分はこんなに自由に表現してもOKなのだとは。









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by mariastella | 2017-09-13 06:20 | アート

ファム・ファタル

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プチパレの入り口ホールにある「猿をつれた婦人」という20世紀初頭のこの像、ブロンズやセラミック、エナメルなどを組み合わせた技巧的なものだが、ファム・ファタル(魔性の女、運命の女)をシンボライズしたものだとも言われる。

ネオ中世様式だという猿は、女に捕らわれ繋がれた男の姿だというのだが、なんだか、すごく身につまされるものがある。
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なにかにとらわれて、不本意ながら離れることもできない自己嫌悪みたいな恨み節が猿の視線にリアルにあらわれているからだ。

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by mariastella | 2017-07-06 05:40 | アート

啓蒙の世紀のバロック その3

(これは前回の続きです)
今回の展覧会は、教会ではたいてい暗くてはるか高いところにある数々の絵を身近でけれども雰囲気を壊さない環境展示風の工夫のある空間で観ることができたのはとても興味深かった。

けれども、特別展示会場を出て、常設展示を見て軽くショックを受けた。
常設展示は何度も見ているのだけれど、「啓蒙の世紀」からフランス革命とナポレオン時代を経た19世紀にはすべてが変わってしまったのだなあという衝撃だ。

社会派自然主義の数々の絵、クールベの絵を見るとテーマ自体の落差に驚くが、
宗教テーマの絵にしても、ギュスターヴ・ドレの大作が2点あって、『涙の谷』で十字架を背負って歩くキリストの遠景の光にはカルチャーショックすら覚える。
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さらにシスレーやドガやモネの印象派の展示に進んでいくと、いったい何が起こったのだろう、と思ってしまった。

最近、岡崎乾二郎さんの「抽象の力」という論文をネットで読んでいろいろ考えさせられたばかりだ。
啓蒙の世紀のバロック」の宗教画が人間性の深みに降りていこうとしているのに引きずられていた直後に印象派の作品を見ると、人は被造物の立場から「創造者の秘密」に迫るのを辞めて、「創造の秘密」に迫る試行錯誤を始めたんだなあ、と感慨を覚える。

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by mariastella | 2017-07-05 01:39 | アート

バロック美術展 (その2)


(これは前回の続きです)
フランス革命前の「啓蒙の世紀」のパリで、教会から注文を受けた50人ほどのアーティストたちの作品が集められている。
後半はネオ・クラシックの時代の始まりで、改革カトリック以来のバロック芸術とネオ・クラシックが融合していく気配もおもしろい。
肖像画家のニコラ・ド・ラギリエール、ジャン・ジュヴネのマニフィカート(ノートルダム大聖堂が注文した珍しい正方形の絵)、ピエール・ペイロンのキリストの復活、フランソワ・ルモワンヌのイタリア風優雅な天使、ジャン・レストゥの聖書の絵。マドレーヌ、パンテオン、サン・シュルピス、サン・メリー、サント・マルグリット、サン・ジェルマン・デ・プレ、サン・ロックなどパリ中の教会から集められた絵画のうち30点はこの展覧会のために修復された。

原画が描かれた当時から、すでに、マケット的な小サイズの絵も同時に用意されていたのが展示されているのも興味深い。香や蝋燭の煙で黒くなり痛むことが分かっているので最初から「修復」を想定して元の色や形を記録していたわけだ。

群像の表情(特に、ノートルダム・デ・ヴィクトワール教会の聖アウグスティヌスの生涯の連作)、

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背景のだまし絵的な奥行き、バロック・オペラの舞台装置や演出とも共通している。

エマウスに向かう二人の弟子が復活のイエスを認めた時の視線が新鮮だ。
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これらの絵が最初に飾られた時は、そのわずか数十年後にパリのカトリック教会がフランス革命によってすべて没収されるなんて誰も考えてもいなかったろう。
教会音楽がかすかに流れるプチパレは、修道院とカテドラルを足したような不思議な空間づくりに成功している。「修道院の窓から漏れる光が床に映る」という照明の演出もしている。あるコーナーでは、ジャン=フィリップ・ラモーのオペラ『カストールとポリュックス』のTristes Apprêts(1764年、ラモーの葬儀ミサで演奏された)がかすかに流れていたのが私のツボにはまった。

啓蒙の世紀の特徴としては、ジャンセニズムの影響と典礼の変化が感じられる。教会が明るくなった。色彩が鮮やかになった。殉教者や奇蹟のテーマはぐっと減り、一七世紀のヴァンサン・ド・ポールのような人間的な活動、聖母やイエスの表現も周りの「普通の人間」の表情と親和性がある。
聖母マリアの誕生、イエスの誕生、子供たちに囲まれるイエスなど、「子供」のテーマも多い。それはルソーの教育論『エミール』などにもみられるように、この世紀には「子供の人格」というものが意識化され、見直されたからだ。

ジャック=ルイ・ダヴィッドの磔刑図のキリストは苦痛よりも自問の表情だ。手足の傷や十字架の木肌のリアリズムもロココ美術とは一線を画する。ネオ・クラシックがイタリア・バロックとフランス・バロックを融合させたということだろう。
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by mariastella | 2017-07-04 05:34 | アート

啓蒙の世紀のバロック その1

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プチパレのパリ市美術館で、「啓蒙の世紀のバロック」展を見てきた。
2年かけてパリ市内の有名教会の30点の絵画を修復したのを中心に集めたもので、なかなかすばらしい。

まず、テーマ的に啓蒙の世紀っぽくて面白いと思った、サンメリー教会で1722年に実際にあったという聖体パン(ホスティア)冒聖事件をテーマにした作品(1759年のサロン出品)を紹介。

聖体パン入れが落とされて、キリストの体であるご聖体が床に散乱。(実際は、器が何者かによって盗まれた後でチャペルの中で壊れて発見されたという)


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もちろん聖職者たちはパニック。

ああ、神罰が当たる。

もし犯人がいるならもちろん火炙りだ。

でも分からないから、毎年の復活祭後の最初の日曜(カジモドの日曜日)にこの事件を忘れないためのセレモニーをすることになった。その後、それを記念するためこの絵が納められたという。

で、この絵の上部では、怒り狂った大天使ガブリエルが剣を振りかざして「罰」を与える気満々でいる。

そのそばに浮かんでいる天使の顔も厳しい。
でも、何しろ、すべての罪びとの代わりに死んだキリストの十字架を持った「宗教(女性形なので女性に擬人化)」が、まあまあととりなして、父なる神が天使を制している。
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よかったね。

それまでは、「ご聖体」を貶めるなんて万死に値する冒瀆できっと管理責任も問われたのだと思うけれど、

それって、イエス・キリストが身をもって人の罪を贖ったという本来のキリスト教の精神に反しているのでは?

目には目を、歯には歯を、って良くないってことになったのでは?

すべての人は神の子で、典礼のグッズにすぎない聖体パンを貶めたからと言って命を奪われるなんておかしい。

などと、啓蒙の世紀の人々がひそかに考え始めていたのかもしれない。

いや、ホスティアがほんとうにキリストの体だとしたって、そのキリストはそれこそ自分の体を人々に差し出し、貶められ釘打たれ磔にされるままになることで「子なる神」の道を示したのだから、床に落ちたくらいで人々をパニックに陥らせるというのはいかがなものか、

と、啓蒙の世紀の「光」が問いかけたのかもしれない。

この絵が描かれた30年後に、フランス革命が起こって、教会も美術品も没収された。

この絵の所有者もパリ市だ。パリ市が、それぞれの教会やしかるべきところに返して飾っている。





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by mariastella | 2017-07-02 02:47 | アート



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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