L'art de croire             竹下節子ブログ

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ド・ヴィリエ将軍の辞職

マクロンとド・ヴィリエの金曜の会談がどうなるのかと思っていたら、将軍が水曜の朝に自ら辞職した。そのせいで水曜は一日中、SNSでコメントが飛び交った。

フランスの「労働者」で唯一、デモ行進などの抗議行為を禁じられているのが軍隊だから、マクロンの強権的態度がくやしい、という匿名の兵士。

マクロン政権樹立の後バイルーやふぇろんなどの重鎮が次々辞任することになった。マクロンの任命責任はどうなる。

ド・ヴィリエは抗議のためでなく、屈従でもなく、ひたすら軍隊のために辞任した。軍人のトップである自分と文官のトップである大統領に完璧な合意がない状態というのは兵士たちを動揺させるからだ。

etc...

私は前にも書いたようにド・ヴィリエを支援する立場だけれど、感心したのは、マクロンがすぐに後任に使命したのがフランソワ・ルコワントル将軍という、これも完璧な人材だったからだ。(見た目はなんだかブリュノー・ル・メールに似ている

ド・ヴィリエ将軍と同じく、文句のつけようのない立派なキャリアと人格と知性があるという。柔軟でユーモアも備えているが何よりもカリスマ性があるようだ。

ボスニア戦争で若くして実践での「英雄」にもなった。

55歳で4人の娘の父で敬虔なカトリックだそうだ。

軍のトップの武官に知的エリートが不足していないことがすごい。
ブリス・エルブランの著作について書いたこともある。)

今回の対立に関しては、ずっと沈黙を守っていた軍事大臣であるフロランス・パルリーは水曜午後の議会で共和党に意見を求められて、通り一遍の応答をしたがヤジも飛ばされた。
パルリーは総選挙後に就任したばかりだし、マクロンの演出の一部だと思うが大臣に女性を任命することで「軍の総帥」は男の自分であることをいっそう印象付けていた。
今回も、マクロン対ド・ヴィリエという「二人の男の対決」という図になり、

「憲法で規定されている通り、軍の最高指揮権はボク」というのに支えられてマクロンが「勝った」形になる。

若いマクロンの強権発動ぶりを批判したり揶揄したりする人も多いし、マクロン新党の議員空すら異論も出てきた。
けれどもオランド大統領のカリスマ性のなさにうんざりしていた人も多いので、その反動もあって、マクロンのパフォーマンスを好意的に見る人も少なくはない。。

私は時々パリのミリタリー・サークルのコンサートやパーティに出ることがある。

フランスの軍人と最も深い付き合いをしたのは2011年の東日本大震災の後にチャリティコンサートを開催した時だった。
に少し書いている。

海軍参謀総長は最初から最後まで完璧に協力してくれた。

コンサート後のパーティに私がすしの配達を手配したら、参謀総長が、自分が個人でシャンパーニュなどを提供すると言ってくれた。

日本でコンサートをしたら、いつもどこでも、楽屋もちゃんとしていて、飲み物や軽食も用意してくれ、主催者側が至れり尽くせりで対応してくれる。私たちは感激する。

けれども、フランスでコンサートをすると、楽屋の準備ができていなかったり舞台とのアクセスが悪かったり、こちらでいろいろ工夫して自衛しないと大変だというのがまず標準である。
普段は贅沢をしない私たちだけれど、コンサートの前というのはストレスがかかっているから、小さな不都合や不満が重大なマイナスになり得る。
トリオのふたりの精神的な弱点も知り尽くしている私にはかなりのプレッシャーだ。

海軍サロンでのコンサートにはトリオだけではなく、知り合いのフルート、琴、カウンターテナー、ハープ奏者、バロックダンサーなどが参加してくれたから、当日のリハーサルなどがうまくいくように私は飲み物や軽食も用意していった。ビデオの撮影も依頼していた。
ところが、サロンには、すでに、パーティの用意とは別に出演者たちのために飲み物と食べ物が置かれていた。
パーティでも、私はセルフサーヴィスのつもりだったのだが、制服姿の回軍兵士たちがすべての給仕をしてくれた。
参謀総長が手配してくれたカメラマンが撮影もしてくれて、後日、写真を送ってくれた。

まるで、日本で日本人の主催者とコンサートをした時のようだった。

当日の主催は公式には私のNPOであり、私が参謀総長らを「招待」するという形をとっていたのだけれど、実際はすべてのロジスティックをケアしてくれた。

参謀総長につなげてくれた海軍士官クラブの人たちとはあまりにも感覚が違うので招待状の発送などの段階ではひどいストレスにもなったけれど、あの日の記憶はひたすら、演奏者やダンサーたちの善意と共に、全海軍のトップである参謀総長の人間性と確固とした支援と好意の思い出となった。

軍のトップには「権力」でなく「権威」が必要で、それは豊かな人間性と知性と共感能力に支えられて築かれた信頼となって現れるのだということが理解できた。

軍の指導者や伝統宗教の指導者に、共和国のエリート中のエリートがかなりの層をなしているのは少しほっとできる。





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by mariastella | 2017-07-21 02:06 | フランス

マクロン VS 仏軍総司令官

マクロンが、引き続き、陸軍参謀総長で今フランス軍のトップの地位にあるピエール・ド・ヴィリィエ将軍との対立を深めている。

シャンゼリゼをパレードした時にマクロンのそばに立っていた人だ。

トランプ大統領を招いた7月14日のパレードの後では、マクロンはパリの軍司令官とことさらに打ち解けた様子を演出していたが、ド・ヴィリィエ将軍の目はごまかせない。

防衛予算削減をめぐってあらわになった食い違いだが、マクロンは問答無用でとにかく軍のトップは大統領のこの私、反論は一切許さないというスタンス。

それに対して将軍は、軍のような命をかける場所では、命令に服するに当たって、信頼関係が築けていることが必要だという。フランスで兵役のなくなった世代の39歳の男で大統領になってから2ヶ月のマクロンが居丈高に絶対権威を振り回すことの不健全さを堂々と口にしている。
「人々を盲目的に服従させてよい人間など存在しない」とFacebookで明言した。

私の立場は、もちろん、ド・ヴィリエ支持。


マクロンに堂々と反論して譲らないこの人。
こういう人がいることが私がフランスが好きな最大の理由だ。

金曜日に2人が会談するそうで、おそらくド・ヴィリエ将軍の辞任という結末になるだろうといわれている。

全能感にあふれた大統領、知性があるならド・ヴィリエ将軍のような人の存在する意味を考えてほしい。

シビリアンコントロールの大切さと、単に一時的に首長の座に就いた文官が「ぼくちゃん一番偉いから」と首領風を吹かせることとは全く別である。

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by mariastella | 2017-07-17 03:38 | フランス

シモーヌ・ヴェイユの死

アウシュヴィッツの生き残りで、二週間後に90歳を迎えるはずだったシモーヌ・ヴェイユが亡くなった。(Veilで、哲学者のWeilとは違う)

シモーヌ・ヴェイユと言えばフランスでは1975年に妊娠中絶を合法化した保健相として有名だ。

当時の国民議会には女性議員が9人しかいなかった。(今回の総選挙では223人、38,7%が女性議員)
彼女が中絶の選択の自由を訴えると、「アウシュヴィッツでジェノサイド(民族抹殺)を生き延びたのに胎児のジェノサイドをやるつもりか」などと男たちから揶揄されたという。

イギリス軍から解放される数日前に母親がチフスで死に、助かった妹も数年後に交通事故で死に、2005年のアウシュヴィッツ解放60周年に出席した時にもまだ、自分は死の床でもアウシュヴィッツの光景を思い浮かべることだろう、と証言していた。癒えることのないホロコーストのトラウマを社会変革のエネルギーに変え続けてきた人だった。

戦争を生き延びたユダヤ人少年だった故パリ大司教リュスティジィエ枢機卿と、とても親しかったという。

リュスティジィエ師が、ユダヤ人の「改宗カトリック」で枢機卿に上り詰めた人であることや、カトリック的には「妊娠中絶」なんて「罪」であることなどを考えると、この2人の友情の深さや質のさまを想像できる気がする。

ヴェイユ女史は欧州議会の議長にも選ばれ、「多様性の中の統一」を掲げた。

アウシュヴィッツで一度死を経験したから、「不死」の中に生きていたという。
「難しい人」だったという。絶えず「悪」へと傾く人間の社会では、「たやすくて戦わない人」でいれば「未来」はない、絶えず困難な戦いを続けなければならないと。
亡くなった後たった一晩でもう25000人が彼女の遺体の「パンテオン入り」を大統領に訴える署名をしたそうだ。一日後には20万人にもなった。

ひとまずは、マクロンも出席するアンヴァリッドでの葬儀が決まっている。

ヴェイユ女史が、苦しい過去の上に平和を建設したようにやはり少し前に亡くなったドイツのヘルムート・コール元首相も、大戦の確執を乗り越えて平和を築いた人だった。

けれども彼は家庭的には最悪だった。政治の最悪な部分にも関わった。彼の遺品(各国元首との書簡を含む貴重な歴史資料)は、現政権を恨む二度目の妻が絶対に渡さないと言っている。

それに比べるとヴェイユ女史は3人の息子に11人の孫がいる家庭にめぐまれたが、政治的に「中道」であったけれど2007年にサルコジを支援したことが記憶に残る。サルコジは忠実な友だと言っていた。同性婚にも反対していた。今回の大統領選ではバイルーがマクロン支援に回ったことを裏切りのように評していた。
ナチスの全体主義への絶対拒否を持ち続けていたから、何度かもちかけられた首相の座も断ってきたし、ジュピターと称される今のマクロンの神格化の演出にも抵抗があっただろう。

まあ、コールと同じで、亡くなった今となっては称賛の声ばかりが聞こえてくる。
コールやヴェイユをしのぶことによって、政治家たちが自分たちの正統性の印象付けに利用するのではなくて、二度の大戦で殺し合った独仏の連帯と平和を目指すヨーロッパの理念に立ち戻ってくれることを願おう

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by mariastella | 2017-07-03 00:13 | フランス

猛暑のフランスと新大臣とドレスコード

このところパリで35度を超す日が続いている。

6月の気温としてはフランス中で戦後最高記録の日々だ。

東京と違って交通機関にも事務所にもクーラーが少ないから、通勤者はつらい。

一般の人と接触する職場はたいてい男だけにドレスコードがある。サンダル、半ズボンが禁止だそうだ。

女性はサンダルにミニのワンピースでも何とも言われないから、圧倒的に女性の方が優遇されている。

それで、男性から性差別だと文句が出るのではないかと思っていたら、昨日、ナントのバス(と市電)の男性運転手たちがスカートで出勤したのをニュースでやっていた。

スコットランドのキルトなどがあるから、そうショックキングでもない。みんなデニムのような地味なスカートだし。

確かに、今の時代、女性の方が服装規定は自由だ。

公式の場所にズボンをはいていっても、どんな丈のスカートでも、上着があろうと肩を出そうと大丈夫だ。

男性のフォーマルは、イギリスのような気候のところがルーツだからいろいろと無理があるなあと思うが、軍隊の伝統と同じで男の方が「制服」っぽいものを受け入れるハードルが低かったのだろうか。

フィリップ首相の新内閣で、国防省の名がまた変わって今度は「陸軍省(と日本語訳で出てきたが、すべての軍が含まれる)」の大臣がフロランス・パルリーになった。史上二人目の軍隊の大臣グラールに引き続いての3人目。この人はジョスパン内閣の時に政権に関わり、その後エールフランスやフランスの国鉄の要職にもついていたという経歴の54歳だ。任命されたその日にさっそく引継ぎ式をしていた。

重そうで暑苦しそうな軍隊の前にスカート姿の二人の女性が立つ。グラールはさすがに上着を着ていたが、パルリーは半袖ワンピース。

記録的暑さの日なのだから正しい選択だけれど、ずらりと並ぶ制服組の方はさぞ暑いだろうと思うとなんとなく違和感を覚える。女性が軍のトップにいるのがおかしいとかいう問題ではなくて、全軍を率いるジュピターを気取るマクロンによる周到な「印象操作(この言葉、使い勝手がいいですね)」のような気がするからだ。

バイルーやフェランのようなベテランの後を埋めたのは、結局マクロンのお仲間で、例の同い年のバンジャマン・グリヴォーだとか「マクロンボーイ」と呼ばれる36歳のジュリアン・ドゥノルマンディなどだ。

マクロンに心酔している優秀な若者のようだが、どこの香水の宣伝のモデルですか、というような見た目だなあ。

まあ、ともかく徹底的に企業型成果主義でやっていくという新政権のお手並みを見るしかない。


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by mariastella | 2017-06-23 02:48 | フランス

マクロン・チームの最初の危機?

総選挙で悠々の過半数の議席を獲得したマクロン新党、選挙に参加した大臣たちも全員当選したのに、ここにきて、選挙後の内閣再編を前にして、ひと月半前の新閣僚4人が次々と振り落とされたり自分から辞退したりした。

まず、過去の金銭スキャンダルが出てきた野にもかかわらず無事に当選したことで選挙民の信任を得たはずのリシャール・フェラン(元社会党)が、新議員たちを導くためと言って辞職したのに続いて、マクロンの当選に大きな力となった中道MoDemのフランソワ・バイルー、マリエル・ド・サルネス(この人は42議席を獲得したMoDemのリーダーとして専念するために辞めるのだと言っている)、そして国防大臣のシルヴィー・グラール(欧州議員として専念するから、と言っている。この人については前にも書いた )らだ。

MoDemは、FN と同じく、EU議員に対して交付される秘書の費用を自国内の党本部の経費に回していた疑いをかけられた。ルペンなどは、もともと反EUだから、「EUの金をフランスに還元したのだ」と言って開き直っていたが、バイルーは議員のモラルについての法案を提出したばかりなので、タイミングが最悪だった。

共和党のフィヨンを落選させた金銭スキャンダルのもとになった「妻子など家族を議員アシスタントとして雇う」ことを禁止するなど、政治家が私腹を肥やしたり身内を優先することを防ぐ法案だ。脱税がないかなど私産の透明化も推進する。

こうしてマクロン大統領下の新政府の重鎮があっさりやめてしまったので、一見するとマクロンの人選が悪かった、任命責任があることで打撃を蒙ったかのように見えるが、実はあまりそういう印象はない。

この「重鎮」たちはいずれもマクロンより年長のベテラン政治家で、この道で何年もやってきたら、みんなが当然のようにやってきた暗黙の金の使い方をしていた経歴があること自体は不思議ではない。

しかも、スキャンダルのせいで議席を失ったのではなく、再選されているのだから投票者から弾劾された形でもない。野党に問い詰められて辞職を余儀なくされたのでもない。

でも、マクロン新政権に影を落とすのはよくないから、自主的にやめた、

という印象を与える。

マクロンやフィリップ首相から勧告されて辞退したとか、新内閣から「落とされた」というイメージでもなく、組閣発表前に次々と「より役に立つ場所で働くため」に少なくとも形としては自主的に辞意を表明している。

これを書いている時点ではまだ新内閣のメンバーは発表されていないけれど、新メンバーは、よりマクロン大統領やマクロン新党の新議員たちのイメージに合致する新鮮なメンバーという可能性もあるだろう。

政治経験が浅かったりなかったりする若い人たちや一般人はまだ「地位や権力」がもたらす「甘い汁」を吸う機会がないから身辺は比較的きれいだろうと期待できるかもしれない。

最初の内閣も任命前に十分「身体検査」をされたはずだけれど、個人でなくEUから党へというタイプの資金流用の疑惑などは視野に入っていなかったかもしれないし、彼ら自身も不正の自覚などなかったのだろう、と思わせる。(バイルーさん、短い間だけれどこのモラル法案提出にがんばって存在感を発揮してよかったね。)

もちろん、内側では、しっかりマクロンやフィリップから圧力をかけられて「粛清」されたのかもしれないけれど、ともかく、外側から見ると、「人々の誤解を招くことのないように自発的に辞職した」というスタイルなので、対面は保てた。

フィリップ首相は40代だが十分ベテランで、「甘い汁」の誘惑は今までになかったのだろうか。マクロン自身は??

この2人はいくら探られても公明正大なのだろうか。

まあ、そんなに潔癖に追求していっても、抗菌グッズに囲まれて育った子供たちみたいな公務員ばかりでは免疫力がなくなるかもなあ、とも思う。

結果さえよければタレラン(政局が変わる度に時の権力者の右腕となった)でもOKだと、やはりだれでも少しは思っているのではないだろうか。

「国内」でいくら潔癖に襟を正したところで、一歩「国際社会」に出れば「陰謀論」とはいかないまでも、どんなあやしいことだってまかり通っているかもしれないのだから、「海千山千」の手腕だって必要だろう。

昨年の東京都の舛添知事のバッシングを見た時にも書いたけれど、どんな立場にも曖昧ゾーンというのはある。本当に必要とされるのは、「絶対の清廉潔白」などではなくて、時代の流れを見て、文脈を読んで、危機管理をする能力なのかもしれない。





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by mariastella | 2017-06-22 02:26 | フランス

共謀罪成立とフランスと韓国

最近、フランスでも大統領選や総選挙、テロのニュースなどを連続して追っているのに加えて、日本でも内閣府にまつわるスキャンダルや共謀罪の成立や今度は都議会など、気になるテーマが続いたので、ついつい、いろいろなことを考えてしまう。

共謀罪が強引に成立したことで敗北感や恐れ、脅威を表明する人も多いが、私は正直言って、それ自体に限ったら、これだけ議論が生まれている状況についてはむしろポジティヴな印象を持っている。

それは、フランスの「緊急事態」がもうずっと続いているせいでもある。

アメリカの9・11後の「愛国法」などには危機感を抱いたけれど、
緊急事態宣言中、「テロとの戦争」宣言中であるはずのフランスにおける危機感は、実はあまりない。

「一般の人には適用されませんよ」、というやつだ。

もともと「表現の自由」や「生き方の自由」をイスラム原理主義過激派から守るというのが出発点であるせいか、戦争だ、非常事態だと言っていることとやっていることがだいぶ違って、そうとうヌルイ。

ジャーナリズムの言論は完全に枠外となっているし、もともとデモを規制する項目があったのに、フランス人が「外へ出てデモをする」ことを自主規制することも考えられず、全く変わっていない。「意思表示」の自由は共和国絶対の伝統だ。
2015年の無差別テロの後も、「外に出るな」みたいな指示があったようだが、あわてて日本人観光客や修学旅行生たちが日本大使館の指示でホテルにこもっていたという話は聞いたけれど、うちから出なかったなんていうフランス人の話は聞いたことがない。
「一般の人」が堂々と騒ぐのがフランスだ。

こういうと「さすがフランスだ」と思うかもしれないが、フランスだけではない。
私は韓国の民衆が昨年から今年にかけてパク・クネ大統領を大挙して糾弾し、ついに罷免に追い込んだのを見て、結局、どんな法律があろうとも、市井の人々の意志が強ければその表示はとめられないし、ついには国を動かすのだなあと思った。

なにしろ、韓国と言えば、いまだに北朝鮮と「休戦」状態だが戦争は終わっていないのだし、言い換えれば常に「非常事態」、戒厳令OKの国だ。
そして、日本の治安維持法をモデルにしたという「国家保安法」というのがある。共産主義を賛美する行為やその「兆候」まで取り締まりの対象になるというやつだ。
後はどうにでも拡大解釈可能で、実際、独裁政権からは恣意的に使われた。
「民主化」した後で廃止の動きもあったけれど、今もしっかり合憲とされ、有効だ。

1970年代に京大の医学部からソウル大学に留学していた私の知人は、この国家保安法を適用されたいわゆる「学園浸透スパイ事件」のでっちあげに巻き込まれて死刑判決を受けた。

彼が死刑囚として獄中にあった時に、今回失脚したパク・クネ大統領の父親であるパク・チョンヒ大統領(この人は大統領の直接選挙を廃止して永久政権化しようとした軍事独裁者だ)が暗殺された。
彼は13年も投獄された後、パク・クネ政権の時代にようやく再審無罪を勝ち取った。
もともと、確か彼が「北朝鮮」に行っていた、と断罪された時期には日本で国体に出場していた(陸上選手だった)ということで、冤罪は明らかだったのだけれど、当時は真実や事実で無罪を「立証」することなど無力だった。無法地帯で合法的な手立てを探しても意味がない。

その当時、私の話を聞いた周りのフランス人の方がはるかに積極的に彼の救援の手立てを模索してくれたことの驚きを私は今もはっきり覚えている。

その韓国の人たちが、今回は堂々と大統領を弾劾したのだ。

悪法があっても、その気になればそれを適用できる為政者を罷免することもできる。
その適用を不可能にすることだってできる。

悪法や悪法の成立事情やそれを可能にした為政者に異を唱え、
自由と尊厳を守る断固とした意志を、
持続的に、
忍耐強く、
表明するならば。

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by mariastella | 2017-06-21 01:39 | 雑感

総選挙後の声明を聞いて

(これはすぐ前の記事の続きです。)

フランス国民議会選挙の決選投票の後、またもや記録的な棄権率の判明した日曜の夜、主な党の代表が最初のコメントをしたのをテレビで見て、いろいろなことを考えさせられた。

民主主義の選挙政治という文化はヨーロッパ系言語の中で生まれたものだということが影響するのかなあ、と思うほど、政治家のディスクールはよくできている。

前も書いたが、特にフランス語は、市井の人が中身が何もない屁理屈をいう時でさえなかなか立派な押し出しの構成で驚かされる。

日本語のように寡黙が言語文化の中にポジティヴに組み込まれている国とは根本的に違うのかなあと思う。
近頃見聞きする日本の政治家の弁舌の貧しさに愕然としていたが、そもそも、「論戦」や政治的雄弁に合わない言葉なんだろうか、と思ってしまう。

今回、最初にコメントしたのは、自分自身が第一回投票でまさかの敗退をした社会党の書記長カンバレデリスだった。

この人は見るからにカリスマ性のない人で、今までちゃんと話を聞いたことがなかった。予備戦にも出ていなかったし。
今回、自分も含めて社会党が大きく敗退したことを受けて、自分の辞意も表明したのだけれど、言っていることはすごく説得力があった。

自分たちが抵抗しているのは新自由主義(マクロン)とナショナリズム(ルペン)であること、

選挙戦には敗れたが(社会の)不平等との戦争は終わらない、ということ、

今こそ「集合知」が必要とされる時だということ、

自分の責任は引き受けること、

などだ。

なんだかとっても潔くかつ信念を感じさせるし、「集合知」という言葉が気に入った。
ポピュリズムの対極にある「知性」に訴えるところがフランスらしい。
自分たちの望むのは何よりもフランスの共通善であり政権の成功を祈るという態度もいい。

その次がルペン女史の声明。

今まで4度落選していて今回が国民議会初当選だそうでけっこうご機嫌だった。
先週は3議席とか予測されていたのに、声明を出した時点で7議席は固いということだった(結局前回の2議席から8議席に「躍進」)。
「マクロン新党の圧勝」という予測に反応した人が、棄権したり共和党やFNに回って全体のバランスをやや良くしたという感じだ。
マリーヌ・ル・ペンの伴侶アリオー氏も当選したが、右腕であるフロリアン・フィリポ(兄さんも出馬していた)は落選した(EU議会の議員ではある)。
彼女も堂々と戦いの継続をまくしたてたけれど、聞いていて気分が悪くなった。

その次に声明を出したのが、大統領戦の第一回投票の時の勢いに比べるとぱっとしなかったメランションの極左「不服従フランス」党(声明の時点では19議席の予測: 最終的にも19議席だった。メランション自身もルペンと同じく初当選であり、極右と極左の代表が国会に行くことになる)だ。でも今まで存在しなかった党だという意味ではマクロン新党と同じくメランション新党だ。この人もまくしたてたが、聞いていてやはり気分が悪かった。
これだけ棄権が多いというのは市民がシステムに対してストをして抵抗をしているということで頼もしい、と言い、今のシステムに正当性がないと叫び、マクロン新党の勝利は不当だという(それなのに自分が当選していることには正当性ありだ)。 

ここ何十年もフランス共産党でさえ、投票結果を否定するようなこういう煽り方をしないのに、メランションは自己陶酔しているようで、これも気分が悪くなった。

社会党のカンバレデリスが見せた品格がまったくない。

次の共和党のバロワンは、これも話の構成に品格があった。民主主義の結果を受け入れて大統領がフランスのために最善を尽くすのを支えるという基本を押さえている。声がいいのはいつも通りだが、なんだか一回り痩せたような。まあ、みんな疲労困憊なのだろうけれど。

共和党の別の政治家ペクレスが、次からはもう社会党をまねた「予備選」はしない、と言っていた。予備選が内部の亀裂をあらわにして脆弱にしたからだという。そしてフランスは聞かれた時に自分は「左派」だというのがシックな国だから、予備戦でわざわざ右派だとレッテル貼りをする結果になったこと自体が間違っていた、と。

フランスでは左派がシック、というのをこういう風にはっきり保守政治家が口にするのははじめて聞いた。
ともかく、なにしろフランス革命にルーツを置くことを国是と決めた共和国だから、右派左派(この言葉自体がフランス革命政権にルーツを持つ)はともかく、「革新」というのが「保守」よりも知的、文化的、啓蒙的なイメージと結びついているのだ。

最後にマクロン新党のフィリップ首相の声明。
共和党から引き抜かれたこの人も、信頼のおけそうな力強い話し方をする。
「大きな謙虚の気持ちと大きな決意を持って」という言葉の並べ方もうまい。

この人の政府は、大臣たちにやるべきことのリストを与え、それがいつまでにどこまで進んでいるかを細かくチェックして、怠けていたり目標に達していなかったりしたら馘にする、というマクロン流の分かりやすい成果主義だ。
その手並みは見てみたいが、やり方を聞くと、なるほどこういう風にやったら確かに改革が進むのだろうなあ、私はこんなチームの一員になるのはまっぴらごめんだなあ、などと思ってしまう。まあ、ほんとうに「やる気満々」の人たちが憑かれたように国を動かすのならそれはそれで見ものだけれど。

マクロン新党は当選した人を集めて来週末にミーティングをして、政治家としての心得を伝授するのだそうだ。政治の素人が半数を占めているからだ。

蜘蛛のブローチの数学者も無事当選したので、今度は「政治家研修」に出るのだろう。
日本の政党が「有名人枠」で政治の素人を選挙に立てて票を取ることがよくあるけれど、その後にプロの政治家としてのレクチャー、研修ってどのくらいやっているのだろう、などと思ってしまった。

(昨日はまたロンドンでテロ、今日はまたシャンゼリゼでテロがあったらしい。ロンドンのものはイスラム教徒を狙ったそうで、アメリカで民主党支持者が共和党議員を狙ったように、なんだか、報復という負の連鎖の始まりのようなイメージだ。シャンゼリゼのものはここ最近のものと同じく「無差別テロ」ではなく警察とか警備の兵士とか治安車両などに「特化」したものだから、相対的にインパクトは少ないけれど、ノートルダムとかルーブルだとかシャンゼリゼだとかいうブランドイメージを攻撃するという意味では効果絶大なのだろう。ラマダンはまだ続く。
新展開として本当に衝撃的なのはテヘランでのテロだと思う。)

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by mariastella | 2017-06-20 02:35 | フランス

フランスの総選挙が終わった

フランス国民議会の総選挙の決選投票、
予想よりもさらに棄権が多く、
しかし予想よりもマクロン新党に対する「野党」勢力が生き残った。

これは、極右や極左の支持者は棄権率が少ないこと、
マクロン新党の独裁はまずいと判断した人たちが「どちらにしても過半数は占めるマクロン新党」にわざわざ投票することをしなかったこと

の相乗効果らしい。

実際、わざわざ投票所に行き、いろいろ議論しながら、投票はしないという人にも出会った。

新議員は23歳から79歳まで、平均年齢が50歳を切っていて、学生1名、工場労働者1名 を含むあらゆる階層の議員が誕生、与党の首相ですらマクロン新党新議員の10分の1しか知らないのでこれから親睦と研修を始めるそうだ。

マクロン新党は、アメリカやイギリスでもあったような「国民の怒り」をオプティミズムに変えるのに成功した、というのが大方の見方だ。

昔ながらの右派と左派が解体するのか統合に向かうかの微妙な段階だが、ポピュリズムはしっかりと極右と極左で花開いている。

でもポピュリズムの煽動は、エネルギーを最大には見せない、という「フレンチ・エレガンス」の対極にあるから長い目で見ると大きな力にはならないだろうと期待しよう。

マクロン新党の党首になるだろうと言われているのがマクロンと同い年のバンジャマン・グリヴォーで、私はこの人が首相になるのかと一時は思っていたけれど、あまり似たような若者を立てることを避けたのは賢明だった。

このバンジャマン・グリヴォーは、マクロンのような過剰な教祖的カリスマがないけれど、すごく好感が持てる人で、話し方も気に入っている。「マクロン新政権」の主要メンバーの中で個人的に一番ほっとさせられる人だ。私の目からはほとんど「親戚の男の子」みたいなこういう感じ。

日曜の開票後の各党代表者のコメントについていろいろ考えさせられたことは、この続きに書きます。

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by mariastella | 2017-06-19 22:44 | フランス

ラッカでただひとり

シリアで「イスラム国」が「首都」として占領したラッカに住んでいた若い女性ニサン・イブライムさんという人が、2011から2015 年にかけて、日常をFacebookに綴っていた。

それを知ったISは激怒して2016年1月に彼女を「処刑」したと発表した。
ニサンさんは30歳だった。

その彼女の日記を編集したものがフランス語で出版されて話題になっている。

「アンネの日記」に匹敵する貴重な証言文学だという。
現代のアンティゴネだとも形容される。

また、これを読むと、ISだけでなく、アサド大統領の強権のひどさも自明のものとなるという。

けれども、そこには若い女性らしいユーモアも夢も希望も綴られているのだそうだ。

ユーモアも夢も希望も、ISが切り捨てたいものだろう。

アンネ・フランクも、もし今の時代ならFBで日常を綴っていたかもしれない。
当時多くのユダヤ人が情報を発していたら、その拡散力はすごかっただろうけれど、ナチスにチェックされてまたたくまに逮捕されていたかもしれない。
そうなるとSNSによる情報発信というのは両刃の剣だ。

でも、一度発信されたものはコピーされれば永遠に残る。


どんなジャーナリストの現場からの情報発信よりもすごい。

彼女の家族はこのFBの存在を知っていたのだろうか。

この本はぜひ読んでみるつもりだ。



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by mariastella | 2017-06-18 00:55 |

アドナン・カショギの死

1935年生まれのアドナン・カショギという世界一の富豪(1980年時点で個人資産40兆円? 桁がかけ離れているので間違っているかも)が6日にロンドンで亡くなったというので、プロフィールが次々と紹介された。

サウジ王家の創設者の主治医の息子だがいわゆるプリンスではないので、あちこちに出る写真も、サウジ風の服装でもないし、普通。小柄で小太りの髭のおじいさん。

当然のごとく、巨額な武器取引で財をなした。

カネの世界には国境もなく、文化も宗教も乗り越えたグローバルなものなんだなあというのにあらためて驚く。

カショギ氏の人脈や金脈にはビン・ラディンの父親の名も出るがロッキードの名も出てくる。個人ヨットとして最も大型(映画ホールやプールもそなえたクルーズ船みたいなやつ)な「ナビラ」号を持っていたことでも有名だけれど、後にその新所有者となったのがあのトランプで(彼もその後で手離しているが)、トランプはそれを改装して「トランプ・プリンセス」となづけたのだそうだ。金さえあればプリンスにもプリンセスにもなれる。

カショギはフランスにもたくさんの住まいを持っているが、パリで若い頃の高田賢三に出会って彼のデザインを気に入り、彼が瞑想できるようにとパリに800平米の住居を与えた、と言うのも読んだ。

それはあの有名な、茶室や日本庭園のある旧高田邸のことなのだろう。本当だとしたら何だか親近感も覚える。

片時も離れないガードマンの一人は韓国の空手家だとあった。

彼の甥はダイアナ妃と共にパリで自動車事故で死んだ人だけれど、子供は息子3人とヨットの名につけたナビラさんというひとり娘の4人しか名が挙がっていない。
でも前妻というソラヤさんの間にはもう一人娘がいると英語のネットに出ていた。

ソラヤというのはイスラム名で、もとはイギリス人のサンドラさんなのだそうだ。(こんなどうでもいいことを検索したのは、最初にヨットの名が「一人娘」の名だと聞いたときに、一夫多妻もOKのサウジアラビアの大富豪で子供が一人しかいないんだろうか、だとしたらそれはどういう姻戚関係を生んだのだろうか、などと考えてしまったからだ。

リヤドに行った時も思ったけれど、彼らは国内でどんなに戒律のある暮らしをしていても、「金」という万国共通のビザがあればどこでどんな暮らしでもできるのだなあ。

こういう人たちは、今のISだのカリフ国などを「本音」ではどう思っているのだろう。

いや、内戦が続いたり、外国が武力で干渉したり、戦火で損壊した地域を再建したりするたびに「金」が儲かる仕組みになっているのだから、そういうループから抜け出す思考はなかなか働かないのかもしれない。

富豪の中にはビル・ゲイツ夫妻のように「慈善」に目覚めて大活躍する人もいて、そのメンタリティについて考察している最中だったのでいろいろ考えさせられた。


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by mariastella | 2017-06-17 02:54 | 雑感



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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