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L'art de croire             竹下節子ブログ

ジョゼフィン・ベーカーのパンテオン入り

11/30、ジョセフィン・ベーカーがパンテオン入りした。共和国の「神」認定のようなものだ。

彼女についてはもうだいぶ前に「孤児たちの城」の証言についていろいろ書いた覚えがあるのだが、どこでどう描いたのかおぼえていない。

このブログ内で検索しても出てこず、この記事しかなかった。



このユートピアづくりには私は批判的だった。Wikiによると「ベーカーはさまざまな人種の12人の孤児を養子とし、しばしば経済的な危機に瀕しながらもフランスの古城で生活を共にした。エリザベス・サンダース・ホーム沢田美喜とは同志かつ親友と呼べる間柄で、養子をサンダースホームから譲り受け育てるとともに、来日した際の公演収入をホームに寄付するなど惜しみない援助を行っている」とあるが、

孤児とはいえ、自分の母国や母語と切り離されるというのは「僥倖」ともいえない。「見た目」や文化の違う子供同士のグループ内での嫉妬やいじめや力関係だって生まれる。ベーカーそのものは忙しくて子供の面倒を直接みていたわけでもない。理念だけで決めた「数」で、実際の世話は一人では不可能だったろう。どんな崇高な目的があったとしても、すでに赤ん坊ではない子供をたち巻き込むのはよくない。

私がこの話を知ったのは、高山 文彦孤児たちの城―ジョセフィン・ベーカーと囚われた13』という本(雑誌連載記事だった)で、日本から「選ばれた」二人のうち一人が、多様性確保のため成人するまで「韓国人」だということにされたなど、とても好感の持てないエピソードがあった。

ペリゴールの彼女の「城」は破産して、モナコのグレース公妃が助けの手を差し伸べたことは有名で、ベーカーはモナコに埋葬された。(ベーカーがカトリックであったことと無縁ではない)

今回パンテオンに運ばれたのは棺や遺骨ではなく、彼女の功績をたたえる碑と「場所」だ。

何度も、黒人女性最初のパンテオン入り、と言われるのにも違和感がある。

たとえばもし、中国人のクォーターであるフランス人がパンテオン入りした時、「アジア人最初の」などと形容されるものだろうか。BLMの運動も、ただ見た目のメラニン色素の多さで決まるわけで、オバマ大統領の「黒人初の」という形容に違和感を持ったのを思い出した。





「黒人」とか「女性」とかを強調するのって、犠牲者主義のバイアスがかえって目立つような気がする。

アングロサクソンの、というよりアメリカの歴史に根差した差別への対応が世界のスタンダードになっていくことで切り捨てられているものが、必ずある。


# by mariastella | 2021-12-02 00:05 | フランス

カフェ・ソスペーゾ

カフェ・ソスペーゾ( caffè sospeso 保留コーヒー)というナポリ発祥の習慣がある。


日本のwikiには「裕福ならば」とあるけれど、たとえばパリのカフェのカウンターで飲むコーヒーは300円くらいだから2人分払うことは、裕福でなくてもできる。

この習慣は20世紀半ばに始まって、20世紀末にはすたれたけれど、2010年代にまた復活したそうだ。フランスには2013年から広まったけれど、カフェのオーナーの正直さにかかっているので、NPO仕様になっているようだ。よりフランスらしいのは「baguettes suspendues(保留バゲット)」で、フランス人が毎朝焼き立てを買うバゲットは100円くらいだから、この動きも出てきた。

特にボランティアの労働力もいらないのだから効率のいい助け合いだと思うのだけれど、日本だったら何に当たるのだろう。寒い季節には、立ち食いソバなどの「保留」があればホームレスの人にあたたまってもらえるかも。

フランスではこの秋に、ガス、電気、ガソリン、それにパンなど小麦粉製品が一斉に値上げで、悲鳴をあげている「庶民」の声があふれている。私はもちろん富裕層でない普通の中流なのだけれど、「ロックダウンでバカンスや劇場などに出かけなかったので可処分所得が増えてしまった」部類に属する。生活必需品が10%値上がりと聞いて深刻になることはない。それなら、たとえば、毎朝100円のバゲットを買うと仮定して、それが110円になったのを「保留パン」として220円払うとしたら、月に3600円の超過となる。家計を圧迫するような数字ではない。そのパンを食べる人が誰かは知ることもない。これって、私にとっては精神衛生にいい。

パリのメトロではいわゆる「物乞い」が回ってくるし、郵便局や教会の出入り口にも道端にも、時として子供と一緒にうずくまる女性などから「喜捨」を請求される。

メトロで自分の窮状やこれからの見通しまで滔々と述べる人などは説得力があるので、小銭を渡す人もいるけれど、私は、いつもスリに注意しているメトロの中でバッグから財布を取り出して開けるという動作がなかなかできない。小銭がポケットに用意してあればいいけれどそんな習慣はないし。

でも、窮状にあって助けを求める人と「対面」の関係で何かを渡す心理的負荷は私には大きい。「施す」という立場に無意識の権力勾配を感じるからだと思う。すなおでないからとも言えるけど。

税金控除のある公的な団体への寄付はたまにする。100€寄付しても税金優遇があるから実質30€ですよ、というやつだ。でも私が払わないで済む税金は社会に還元できないわけだから、微妙なところもある。

一方、例えば「保留パン」なら、どこの誰が食べてくれるかは知らないし、ある寄付金が実際どのように使われているかなどを気にすることなく、焼き立てパンを食べてくれる人の一時の満足を想像することができる。精神衛生にとてもいい。

と言っても、今の私は毎日バゲットなど買わないし、カフェにも行かないし、ごく近所に「保留ナントカ」の店も見かけない。でもこういうシステムが存在するということだけで社会の善意への信頼が取り戻される思いにつながり、実践者に敬意と謝意を表すばかりだ。


# by mariastella | 2021-12-01 00:05 | フランス

エリック・ゼムールのこと

フランスの大統領選に出るとかで、今、急激に一部の人気を集めているエリック・ゼムール。

フランスのトランプとか、インテリのトランプなどと言われているようだ。

中道化して票を失い始めているマリーヌ・ル・ペンの国民連合に代わって、アンチ移民、フランス・ファースト、フランス文化への統合政策を掲げて、ポピュリストだと言われている。

「見た目」が私の嫌いなタイプなのでメディアに出てくるとげんなりするけれど、ある意味でとてもフランス的、共和国的な人でもある。トランプなら金髪碧眼、典型的WASP風だけれど、ゼムールは祖父の代にアルジェリアからフランスに渡ったユダヤ人だ。

祖父は名前もフランス風に変えた。その頃のアルジェリアはフランスの植民地で、ユダヤ人はムスリムと違ってフランス人と同じ権利を与えられていた。

しかも、ゼムールは、アラブ系ユダヤ人でなくベルベル系ユダヤ人で「地中海系白人」の「仲間」だ。

モロッコやチュニジアからフランスに渡って「フランス化」した人が出身国から揶揄したり批判されたりするのと違って、アルジェリア出身のフランス人はまた特殊なアイデンティティを持っている。

で、ゼムールが言うように、彼はフランスの公教育を受けるのと並行して、ユダヤのシナゴクにも通って宗教教育も受けたけれど、ユダヤ教とは「信仰」ではなくて「儀式」「典礼」「慣習」の体系なので(ゼムール自身の言葉)、フランス文化の基礎をなすキリスト教やカトリックと自然になじんだ。フランス文学を学ぶことで「フランス」の伝統擁護者となったわけだ。


ところが、彼は政治学院で超優秀だったのに、なぜかENA(国立行政学院)の試験を2 度落ちてしまった。それがずっとコンプレックスになっていた。1981-85頃のことだ。その上、ジャーナリストとして成功した後も、フランスのエリートグループであるLe cercle de l'Union interalliée に入会を拒否された。(1917 年に結成されたもので、フリーメイスンなどよりよほど強力なロビーを形成している。軍人、業界人、貴族の男ばかりが正会員で、パリの一等地にハマムやプールもある建物を有しているサークルだ)

ゼムールはそこで講演した時、してはならない政治的プロパガンダをしたことで入会を拒否され、その後メンバーのことを「ヴィシー政権のブルジョワ」などというSNSを送ったそうだ。


こういう背景を見ると、現在ル・ペンからゼムールに乗り換えたような有権者というのは、アメリカのトランプの人気とは全く別のコンテキストにあると言えるだろう。

彼が実はエリートたちからの差別の対象になっているのか、資産との関係も含めて、「フランスらしさ」「フランス・ファースト」がどう作用するのかは興味のあるところだ。


# by mariastella | 2021-11-30 00:05 | フランス

カテドラルの石垣の言葉

ル・マンのカテドラルの石垣に掲げられていた一コマ・イラストの大型パネル。気に入った。
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「生きることは、嵐が通り過ぎるのを待つことではない。生きるとは、雨の中で踊ることを学ぶことだ。」とある。セネカの言葉だ。
マスクや赤十字マークがあるから、「コロナ禍」という嵐のことを言っているのがフランスっぽいと思う。フランス革命と共和国のシンボルマリアンヌもマスクをつけて踊っている。
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「全ての学校で音楽を教えよう、そうすれば、みんなぎすぎすしなくなるだろう。」とある。
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フランスの小学校ではほとんど音楽の時間がなくてみんな地域の公立コンセルヴァトワールまかせだから大きなことは言えないと思うけれど、これはやはりイスラム原理主義者の音楽教育禁止や敵視のことが念頭にあるから「すべての」が赤線で強調されているのだろう。



# by mariastella | 2021-11-29 00:05 | フランス

ル・マンのカテドラルの朝市

11/7はル・マン旧市街のカテドラルのそばで開かれる朝市に行った。この季節にこのカテドラルを見るのは初めて。

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秋の風情を感じるのはやはりキノコ類。
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雨よいだったけれどカフェのテラス席もあいている。
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英仏海峡の青ジャガイモ、1900年以前にのフランスの創作。ル・マン近郊のプレヴェルで栽培、とある。どんな味なんだろう。
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これは手前が「牛の心臓」と呼ばれるトマト、後ろが長トマト、
どちらもイタリア原産だがフランスではこのあたりやブルターニュで栽培されているらしい。
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これも初めて見た。絨毯のビンテージというのだけれど、いかにも擦り切れて、元のモティーフが全然分からなくなっていて、それが抽象的なモティーフになっていると言われればそうかとも思う。周りの縁を強化しているのだそうだ。でもなんだか使う気になれない。
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ゲランドの塩に何種類もの香辛料を混ぜたもの。これは少し購入した。
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他に買ったのは、前から好きなノネットというお菓子。日持ちするのでクリスマス用にも、
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帰りにはサルトの地元特産物ショップによる。
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最近日本に帰っていないから、日本の空港でお土産用に買う抹茶クッキーとかがもう手元にないので、ちょっとした手土産用にもなるかもと、サブレーっぽいものなどいくつかみつくろった。
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ヘーゼルナッツとココアを詰めた巻きウェファース
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# by mariastella | 2021-11-28 00:05 | フランス



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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