Dom Juan. operette de Jeener と ジャンヌ・ダルク
3月14日、Théâtre du Nord-Ouest のモリエール・シリーズで、ここの主催者である J-L Jeener の作であるオペレット『ドン・ジュアン』の初日を観た。
私はモリエールのドン・ジュアンは、読んだことがあるが、観たことはない。今回のシリーズでは、二人の演出家(Nicole Gros と Cyril le Grix)と劇団による2種類の競演があるので、本来なら、その二つをじっくり観てからこのオペレットを観たかったのだが、時間がなかった。でも、オペレットというスタイルが好きだし、後はJeenerに共感を持っているから、これは見逃したくなかった。 はじめは違和感があった。ドン・ジュアンと従者のスガナレルのコンビが、どう見ても、ドンキホーテとサンチョ・パンサみたいだったからだ。楽器はピアノ一台とギターで、曲は、モーツアルトから、役者兼ミュージシャンたちによる書き下ろしまで多彩で楽しい。 今の私の精神状態では、やはり、ドン・ジュアンにおけるリベルティナージュの扱いとか、反宗教とか反モラル、それについてのJeenerの扱いを知りたい、と思っていたのだが、結果的には・・・そんなことより、役者たちの技量に感心した。演技が上手いとすべて説得力が出てくるもので、演劇マジックというものに魅せられた。まあこの劇場では、いつも、舞台と同じ高さの席で役者から最短1メートルのところの席に座ることにしてるせいもあるけれど。 その日はJeenerの新作『ジル・ド・レの悲劇』を購入できたので、早速少し読んでみた。5月に朗読上演があるそうだ。 何となく、「清冽かつ鮮烈」などというイメージを抱いていたのだが、少し違うかもしれない。 言葉は美しいが、内容は審美的より心理的である。解説的でもある。 ジル・ド・レの子供時代から描き、彼の破壊衝動を生来のものとしている。 ジャンヌ・ダルクについてもそうだ。 ジャンヌは、イギリス軍と戦えとかフランスを救えという「神の声」を聞いたとされる。 しかし、すべてのものの創造主である神が、ある一国の側に味方して、もう一方を追い散らせなどと告げるというのはいかがなものか・・・というもっともな疑問を呈するものが出てきたので、ジャンヌもそれについて考えたことになっている。 いわく、普通の羊飼いの少女を男装させて立ち上がらせるためには、神は最初は、それなりの単純でインパクトのある言葉を使わねばならなかった。しかし、神の真意は、単純な「イギリス=悪、フランス=善」の2元論ではもちろんない。 では何か? 神は、人間が固有のアートや文化によって神の創造の業を引き継いで豊かにしてくれることを望んでいる。 だから神は多様性を望む。 しかし、15世紀のはじめ、イギリス王がフランスに進出して、フランス王を名乗った。 これでは2国は一つになってしまう。それでは文化やアートの多様性が失われて貧困になる。 神はそれを望まないから、イギリス軍に出て行ってもらいたかった、ということだそうだ。 これって、中国人がチベットを占領して漢文化を押しつけるのはよろしくない、漢人は出て行って、チベットはチベット文化を守るのがよろしい、というような、今のフランス文化人のマジョリティの考えを反映してるのか? 歴史に「もし」は意味がないが、もしジャンヌ・ダルクがあのとき「神の声」を聞かなければ、消滅してたのはイギリス文化のほうかもしれないし、ハイブリッドな何か新しいものが今頃できていたかもしれない。宗教改革だってヨーロッパだって、全く違う展開をしたかもしれない。 スランスにおける移民の「同化」政策はどうなる、ユニヴァーサリズムとコミュノタリスムの関係はどうなる、というつっこみもあるだろう。 Jeener の、カトリック知識人としての立場、自由主義的詩人で演劇人である部分、15世紀フランスに咲いた異端の華であるジャンヌとジル、悪と死と改悛の問題、これらがどういう風にこの演劇に結晶しているのかは、全部を読んでいない今は、まだ分らない。 演劇は、肉体を使った再現芸術である。 役者と演出家と脚本を入れた錬金術の釜を、ぐらぐら煮立てる熱が、必要だ。
by mariastella
| 2009-03-20 21:48
| 演劇
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