バロック・バレーにおける身体感覚というものに、基本が三つあるというのは『バロック音楽はなぜ癒すのか』に述べた。
1、 前は前、後ろは後ろ、つまり体には厚みがあるということ。気の流れが全身を貫いて行くというような線的なイメージやぎりぎりに絞った体のイメージに捉われない。
2、 胸郭と骨盤を中心にした二つの丸い容器があるとイメージする。その容器には水が入ってちゃぷちゃぷしている。二つの容器は紐でつながっている。そのバランスを常に意識する。移動する時も、骨盤の容器の上方にどうやって胸郭の容器を乗せるのかを意識する。
3、 体は常に動いている。 バランスが取れていても、動的平衡というやつで、完全な弛緩はない。
で、胸郭と骨盤は分ったし、頭と腕の役割にもこの本ですこし触れた。
触れていなかったのは脚と足の関係だ。
体得したのは最近だからだ。
ピエール・ラモーを擦り切れるように読み込むクリスチーヌ・べイルとの実践のおかげで。
二つの容器が揺れる体重をどこで支えるかということであるが、
ずばり、足ではなく、足と膝から下が一体になった部分で支える。
膝は、必ず足の上にのっている。膝を曲げるプリエで曲がった膝は、足先上方にある。
この位置関係が動かない。骨盤と胸郭を含む「からだ」は、膝から上の腿まで含んでいる。
コアリズムという運動の変形をやってみよう。
足を腰と同じ幅に広げて立ち、足先は30度くらいに外に開く。
軽く膝を曲げる。その時に真上から見て膝が足をすっぽり隠すような角度になっていることが大事。
これをキープしたままで、頭の位置も足の真ん中の延長にキープし、後の全身をローテーションしてぐるぐる回すのだ。コツをつかめるだろうか。
これが、バロック・バレーの体重のかけ方の基本である。ジャンプした後も、膝を伸ばしていても、片脚でつま先立ちしていても、足と膝までが一体化している部分に体重がきれいに乗る。片脚の場合は当然体も頭も片脚に傾くが、足首で支えるわけではないので次のアクションに楽に入れる。
もちろん足首が柔軟であることは大事だが、膝と足の方向が一定しているということが条件なのである。
すでにこの件について試行錯誤してる人にでないとぴんと来ないと思うが、これをやると、重心をどんなに左右に移動させても、肩や体からずらせても、すごく安定感がある。
弾力を途切らせないこと、それが重要だ。
最近読んだ『言語』6月号の「リズムを科学する」特集の記事はどれも非常に刺激的だったが、『身体技能の習得に見られるリズム』(藤波努-北陸先端科学技術大学院大学)の中で、九谷焼の菊練利という手法において、体重のかけ方が、これに似ているのがおもしろかった。粘土は重くて固いのであるが、
「熟練者は前傾時だけでなく戻し動作の時にも土を練っていたのである」(p30)。
初心者は前傾する時に体重をかけて土をこね、、戻る時は何もしないが、熟練者は、戻る時に、腕をもう一押しして、その反発力で体を起こすと同時に土を練るのである。
すごくよく分かる。
体重と重力をいかに利用するかというのがすべての身体技能に共通している。楽器演奏だと体重は腕の重さだったり手の重さだったり指の重さだったりするが、少なくともそれを意識化しないと無駄が多くなる。一回の動作ごとに小さな死が通過するのだ。