脳科学者のJean-pierre Changeux の『Du vrai, du beau, du beau』(Odile Jacob)という本を読んでいる。脳神経の働きから、真善美を語ろうというすごく面白い本だ。
最近『自己組織化に潜むリズムと同定問題』(津田一郎、『言語』6月号)を読んで、なるほど感心したことがたくさんあった。実際は脳の中の細かいことをいくら言われても、リアリティはないので、実感として何かが分るということはないのだが、たとえば、哲学的な問題で全く実感のないテーマに科学の言葉で語られると、はっと納得した気分になる。例をあげると、この論文の中では、木村敏さんの時間論の、人が、少し前の自己と今の自己を同一視することによって自己が統一されるという理論について、その同定の幅が「30ミリ秒」だと説明されるのだが、それが非常に新鮮だ。
Changeux の本は、全編、そんな感じで、脳波のリズムなんかから、真善美の認知や必要性について語ったもので、刺激的だが、学術語などには、私の知らないものが少なくないので、すぐイメージが湧かなかったりする。だから動植物ものや科学ものはできるだけ日本語で読もうと決めているのだが。
たとえば、遺伝子のところで、「”drosophile”の場合」、なんて出てくると、見当つけてみたりするのだが、結局、グーグルで検索することになる。それで、何のことだかは、フランス脳的では理解できるのだが、対応する日本語は分らないので、思考ツールとしてはグレイゾーンが残る(腐りかけた果物なんかにたかっている小蠅なのだが、何でもいいからそれに対応する普通名詞をあてられれば落ち着く)。
私は特に音楽と踊りとの関係に興味を持って、ニューロエステティックと音楽というところのを真っ先に読んだのだが、日本語の本はまったく知らなかったので試しに「神経美学」と直訳してネットで検索したらずばりその名前で研究室ブログや研究書の紹介も出て来た。
この本に、脳は、Harmonie と parcimonie を同時に美しいと感じると書いてあったのだが、これも、適当な日本語訳がなんなのか、日本のこの分野では普通なんと訳されているのか知りたいところである。
ハーモニーは部分と全体との秩序ある関係で、パルシモニーは複雑なものを簡単に表わすことなのだが、内容の簡略とか簡素化ではなく、無限循環小数を点で表わすとかの、表現の簡素化なのだが、何というのだろう。決まった術語があるなら知りたい。