ヴァイオレントな映画のインプットはやめようと決めてるはずなのに、Johnnie To 監督の 『 Vengeance 』を観にいってしまった。 先のカンヌで、監督のJohnnie Toと主演のJohnny Hallydayの組み合わせが二人のジョニーということで話題になったこともあるし、年代的なことや、他のシチュエーションでも個人的に親近感を持つ事情があったので。
すると、もう、バリバリのヴァイオレンス・シーン満載で、子供が殺されるというシーンまである。
こういう「暗黒街の殺し屋どうしの対決」みたいな映画で、アジアが舞台でアジア人が出てくると、70年代にたっぷり見た東映系やくざ映画を反射的に思い出す。あそこではしょっちゅう県警とのいざこざがあったが、マカオや香港には警察いないんですか、というくらいの拳銃撃ち放題。
新宿を舞台にしたようなマフィアの抗争ものなどは見たことがないので分らないが、こういうシチュエーションなのだろうか。(そういうのは『シティハンター』のコミックでしか見たことがない。)
で、66歳の初老の疲れ気味のフランス男が、しなやかな肉体の中国人の殺し屋たちと組んで、夫と子供たちを惨殺された娘の願う復讐に乗り出すのだが、シナリオにいろいろひねりがあって、それこそコミック的な部分があり、つっこみどころも多く、ドラマとしては、迫力がない。街の傘のシーンやゴミ集積場の戦闘シーンなど空間の演出はさすがでシュールな感じもして綺麗なのだけれど。
驚いたのは、英語でしゃべっていた主人公が、香港の海岸で、突然、跪いて両手を組み、フランス語で、「主の祈り」の最初の所を唱えて「私を救ってください」と神に祈るシーンだ。
そのうちに主人公の脳内幻想のように家族の姿が海から現れて、彼を「復讐」に向わせる。
その少し前に、彼はすべての記憶を喪失して、
「復讐? 復讐って何?」
と、彼のために最初の復讐を代行した殺し屋たちに言うのである。
この手の映画で発せられるこのひと言の新鮮さが、いかにもオリジナルで、面白い。
考えてみれば、この男は、復讐の念に燃えたとか駆り立てられたという感じではなく、最初から、それを演じているというか、頭の中で常に再構成しながら組み立てているので、その乖離ぶりが不条理である。
そして最後は「神」まで動員して、エモーショナルではない復讐、情動のない復讐、だから当然カタルシスもない復讐を完遂するのだ。
フランス人主演ということで、40年前のメルヴィル―アランドロンの『サムライ』のオマージュとも言われるのだが、全体に、ハードボイルドのパロディのようでもある。
「憎しみと乖離した復讐劇」というオリジナルぶりで味のある作品だった。