ナウル共和国の哀しみ « L’îl’e dévastée »(La Découverte) de Luc Folliet
金さえあれば一国の繁栄と幸福は実現できるのか、というテーマについて、以前『不思議の国サウジアラビア』(文春新書)に書いたことがある。その時はまだ、9・11テロの前で、イスラム原理主義についての警告的なことは書けないという事情があったこともあるが、あるローカルな地域に、突然資本主義先進国の必要とする資源が発見され、そのことで国が豊かになり、後進国の搾取にもまわり、国民は、働くことを忘れてしまうという構図の不思議である。
労働とは、人間の自然に組み込まれた活動なのか、あるいは、その必要がなくなれば、人は、無為に突入してまうのだろうか。 サウジアラビアに行った時は、ナウル共和国のことを知らなかった。 サウジアラビアにとっての石油がナウルの燐鉱石である。 ナウルは21キロ平方のインド洋の島だが、ヴァチカン市国やモナコに次いで小さな独立国だ。 1968年に独立した後で、農薬などに必要な燐鉱石の輸出国となって、70年代には国民一人当たりの年間生産では2万ドルと世界一リッチな国になったそうだ。13000人の島民が医療を受ける時などに滞在できるように国は、オーストラリアなどに土地や建物を買い漁った。もちろん税金もなし、電気代も無料、ナウル国民の家の掃除は国が雇った中国人家政婦がする。食料輸入率は120%、調理済みの食事が家々にデリバリーされた。国の建てたビルが林立し、オペラ座ができ、TV局もできた。 島の慣習や伝統行事や伝統産業はなくなり、言葉も英語が席巻し、死亡原因の第一は糖尿病合併症となった。 しかし、20世紀末には、その燐鉱石がほぼ枯渇する。生き残りのために、オーストラリアのアフガニスタン難民を受け入れたり、税金天国にして世界の400の銀行をヴァーチャルに受け入れたりするが、国は破産状態、荒廃を極めているという。最大の問題は、誰も働いたことがないということである。燐鉱石以外の産業もない。 国はあわてて、若い女性をフィジー島に研修にやって料理や家事を習わせたり、伝統織物のノウハウを再教育したり、男性には船の作り方や、漁の仕方、耕作の仕方を教えているそうだ。 Vinci Clodumar という、国営ナウル航空、ナウル燐鉱石コーポレーションの元トップで、法務、厚生、教育、財務、労働大臣を歴任して今国連大使である人による対策は、先進国の最新のテクノロジーを用いて、より深いところにある燐鉱石の採掘を可能にすることらしく、それによると後30年分は、「過去の栄光」を再現できる埋蔵量があるらしい。 そんなのでいいのか、ナウルの人。 一度、男女の分業が消滅したこと、全員が有閑階級になったこと、人は簡単に伝統を手離すこと、長期的な展望を忘れること、そしてそれらを可能にしていた「資源」がなくなると、目指されるのは「貧しくても幸せだった」遠い過去への復帰か、「あのリッチだった」近い過去の夢をもう一度かのどちらかになるのか。 人は、得たものや失ったものを通して何かを学ばないのか。 単純労働から解放されて余暇を手に入れた時に、ここぞとばかり哲学したり精神世界を深めたり芸術的な飛躍があったりとかしないのか。 サウジアラビアがまだ何とかなっているのは国の大きさ、イスラム教の求心力、石油の力、その他の地政学的な要素のおかげなんだろうか。 ちなみにナウルは、過去にオーストラリアやニュージーランドやイギリスなどの支配を受けているので、「キリスト教国」(3分の2がプロテスタントで残りがカトリックだそうだ)である。第二次大戦中は4年ほど日本に占領されていたこともある。 ナウルには軍隊もない。 小国というのは、いろんな生存戦略があるけれど、ナウルを見ていると、なにか悲しくなる。近頃、こんな風に暗い気分にさせられたのは、ハイチと中央アフリカだ。意味はそれぞれ違うのだが。 このようなカルチャーショックの後では、日本とフランスなんか、親戚みたいなものである。
by mariastella
| 2009-07-06 00:57
| 雑感
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