人気ブログランキング | 話題のタグを見る

L'art de croire             竹下節子ブログ

sacrificium

Cecilia Bartoli の新作CD の sacrificium を買って聴いた。

http://www.ceciliabartolionline.com/cms/francais/sacrificium.html

 で試聴もできる。

 このCG合成の写真、うちのトリオの連中は気に入っていたが、私はぞっとした。何とかならないか。
 もちろん、実際のカストラートの体はこういう筋肉質じゃないだろうから、カストラートのふりをしてるわけじゃない。Mは、アンドロギヌスだと言ってたけど、そんな中性的でもない。
 カストラートの伝説、いや、去勢そのものについてミニ百科みたいなのもCDについていて、それはそれで、おもしろいのだが、あらためて分ったのは、カストラートのセクシュアリティの実体は謎に包まれているということだ。宗教的神話的な話は別に目新しくない。

 フランス人一般がカストラートに示した嫌悪については前にマルキ・ド・サドの手紙でも触れた。ナポレオンがイタリアを征服してカストラートを禁止したことことからも、王党派も共和派も、その手の倒錯には同じ禁忌の念を持っていたようだ。ドイツにはけっこうあったことから見ると、必ずしも「ラテン的倒錯」ではない。じゃ、やはり、バロック音楽のメンタリティにおいて、ドイツがイタリアと軌を一にしていた証拠である。

 最近読んだ論文に次のようなものがある。

LOUBINOUX Gérard – La voix entre âme et viscères dans les textes de la
Querelle des Bouffons.

 歌手にはイタリア語がよくて、声楽をやる人はフランス語で歌うと声帯を傷めてしまうというのは今でもよく言われるし、素人耳にもイタリア語の方が母音がはっきりしていて歌いやすそうとか思うかもしれないが、Querelle des Bouffonsの時代には、フランス人はイタリア語の歌を「騒音」扱いしたし、イタリア人はフランス語の歌を「わめき声」扱いしている。それぞれけっこう分析しながら。
 まあ、このカストラートのレパートリーを聴いていると、確かにアクロバットというか、サーカスであり、イタリア語とかいう「言語」の次元じゃなくて、喉、傷めると思う。

 だから去勢という特殊手段に出たんだろうけど。

 今、こういうレパートリーを歌える人は少ないし、セシリア・バルトーリは中でも、普通はもう誰にも歌えないようなレパートリーを掘り起こして力技を披露してるので、どれも珍しいものだ。伴奏もGiovanni Antonini で実にしっかりしているけれど、バルトーリって、怪物だなあ。

  Cadrò, Ma Qual Si Mira   のような、Francesco Araia の曲なんて、初めて聴いた。イタリア人聴衆が熱狂して涙を浮かべてブラヴォーと叫ぶのが聞えてきそうだ。

 私の好み、つまり、基準を、「一日の初めにベッドの上で聴いて、一日の終わりにもベッドの上で聴くとしたら」、というのに定めると、好きなのは、最後の

Antonio Caldara の『アベルの死』のうちの

 Quel Buon Pastor Son Io

 だけど。

 今ちょうど、フランスでは、小児性愛の累犯者が、自ら去勢されることを願っていることについて、フランスでは肉体損傷刑を死刑と拷問と同列で禁じているので、いろいろな意見が飛びかっている。今朝のラジオでロベール・バダンテールがいわゆるホルモン療法などの、可逆性があるものならOKと言っていた。
 医療行為以外の、可逆性のない肉体への介入に関して、フランス人の持つ文化的忌避観と、「フランス式倒錯」との関係は興味深い。これは、ひいては、ユダヤ世界やイスラム世界の割礼やアフリカの女子割礼(フランス国籍を得たアフリカ系女性が毎年フランス国内で家族内で強制的に割礼を受けている)などの、文化的慣習的な肉体介入にどこまで干渉できるのかという深刻な問題にもつながる。

 へミングウェイの短編にも、『God Rest You Merry,Gentlemen』とかいうのがあって、欲望といっても小児性愛とかではない)を自制できない男が医者に去勢を頼んで断られたので自傷した話だった。思春期を過ぎてからの去勢は断種できても性的行動を変化させないという説もあるから、どうなんだろう。
 性的行動がすべて、「脳」の中にあるというのは本当だと思う。

 うちの雄ネコのスピノザは、いろいろ事情があって、まだ無邪気な子猫であった6ヶ月半くらいで去勢したのだが、避妊手術されていないメス猫サリーと暮らしているうちに、サリーが発情するたびに「学習」して、今は、何だか分らないがすっかりサリーの本能を満足させられるようになった。もちろん誰も教えてないし、完全室内飼いだから他のネコを見て覚えたわけでもない。

 ライオンのようにかっこよく、シンプルでやさしい、男の美点をすべて備えたようなやつである。
by mariastella | 2009-10-27 00:03 | 音楽
<< V・I はクリスチャンではなか... 正律弦が欲しい >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
以前の記事
2026年 04月
2026年 03月
2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 04月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧