未知動物と神
『無神論』の発売が5月はじめってことになりそうだと編集者から連絡をいただいた。
楽しみ。 久しぶりに日本の単行本を2冊読んでいたら、そのうち1冊の書き方が、何だか、『無神論』を書いていた間の私の気分とそっくりだったので笑ってしまった。 高野秀行さんの『アジア未知動物紀行』(講談社) この中のいくつかのフレーズの未知動物とか幻の動物とかを「神」に置き換えて引用してみよう。 ・・・・・・・・・ 神について語る人のタイプ。 1、神の存在を信じており、興味がある。 2、神の存在を信じておらず、興味もない。 3、神の存在を信じていないが、興味がある。 4、神の存在を信じているが、興味はない。 彼らは彼らなりの納得の仕方で神を受け入れている。神はどうやら理屈で説明するものでなく、「感知」するものらしい。 神は人を選ぶ。人もまた神を選ぶ。飾り気のない人にはシンプルな神が似合っている。 あまりに神について深く考えすぎた挙げ句、「理解」するより「戦慄」したくなってきた。そっちのほうが「ほんとうのこと」に近づくようにも思える。神を神のまま放り出したっていいじゃないか。 ・・・・・・・・・ 著者が、未知生物の目撃者(これは見神者みたいなもの?)に話を聞くと、みんな認識が違うのに、それぞれ同じものについて語っていると信じているらしい。 著者が科学的精神によって未知生物を検証しようとすればするほど、その姿はぼやけてくる。 それなのに、それに立ち会った人たちには、目撃談を聞く著者のその真剣さによって、未知生物の実在性が鮮やかになってくるらしい。いつもゆるやかに揺れる存在、存在と意味とが乖離することもある。 著者は、遠野物語の柳田國男が現場に行って検証しようとせず、ただ記録して不思議な話をそのまま人々に提供したが、その後、怪現象を民俗学的に研究してそれらを歴史的精神史的に解釈し、「怪」を武装解除してその力を無化していったのに対して、自分の道は逆のような気がするという。 はじめは、科学的なアプローチと民族学的理解を目指したのに、「未知を解明したい」欲求と「未知を未知のまま放り出したい」という欲求の間を揺れ動くのだ。 この感覚ってすごく親近感がある。「科学」とか「論理」とか「証拠」とか「実在」とかいや、「真実」なんていう枠すら超えたところに、なにか「ほんとうにたいせつなもの」との出会いがある気がするのだ。 仮説を立ててその妥当性を検証するとか、方法論的厳密さとか、トラサビリティとか、多様性とか、パラダイムの変換などというこ難しそうなことを煙に巻いて、それでも残る何かがありそうだ。 もう1冊は、『やっぱり人は分かり合えない』(中島義道/小浜逸郎)PHP新書。 これは、還暦を過ぎた男性文化人のガールズ・トークみたいな本だ。 すごく日本的だと驚いた。エリート同士で、自分は引きこもりだの落ちこぼれだの、普通人だの生活者だの競って言い合ってる様子は、たとえばフランスのエリート哲学者同士ではあり得ない展開である。何もガールズ・トークが悪いわけじゃないけど、空しいより、つらい気分もした。こういう人たちが生い立ちや本音だのをわざわざ自分たちで掘り下げてあげつらうのはもったいないなあ。じゃあ、読まなきゃ、と言われそうだけど。 小浜さんが、「多くの人にとって信念の対象となるものは存在としての権利を保証される」というのを西洋哲学の認識論の到達点というのも、なんだか、西洋哲学の神の存在論の手のひらから出てない気がする。 誰かが「聖母の処女懐胎を信じる」と言明するのはすでに「信念」と「真なる知識」の対立がはじまっているからですでに懐疑の芽が含まれているとか、未来への時間軸の立て方が普遍的だというのも、例が処女受胎だからよけいに、キリスト教全盛時代にも「信仰告白」は根幹だったのだから、妙な気がした。キリスト教の聖人信仰における非時間軸性や、典礼における循環時間もあるし、もっと複合的だと思うのだけれど。 「自由とは法則の否定を意味する」とか、「幸福」や「快」や場合によっては「善」も、えらく「欲求充足」と関連して自明のように語られているところは私とまったくスタンスが違うが、この二人はけっこう分かり合ってるじゃないかと思う。 このお二人と、高野秀行さんは、全く別種のタイプだ。 そして、ジャングルとかで絶対冒険したくないインドア派のこの私が、冒険家の高野さんのメンタリティの方に、ずっと近い感じがするのはおもしろい。
by mariastella
| 2010-02-04 04:01
| 本
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