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L'art de croire             竹下節子ブログ

Le botulisme

7月の帰国時に、あるNPOに依頼されて陰謀論のリテラシーについて講義をすることになりそうだ。

 1998年に、ノストラダムスの予言についてのリテラシーについて、朝日カルチャーセンターで連続講義したのを思い出した。1999年の7の月は遠くなったが、21世紀になって、終末論は影をひそめたかというわけではなく、当時とは比較にならないほどに、インタネット世界が広がっているせいで、端末機の前で孤独に恐怖に駆られる人も飛躍的に増えるわけで、ある意味、深刻になっている。

 今度出す『無神論』にも書いたが、科学主義や合理主義が一見デフォルトになっているかのような今の時代なのに、トンでも論というのはますます盛んで、冷静に考えれば絶対ありえないような陰謀論などもむしろ巧妙、悪質になり、マーケッティングによって何でもできるというか、個人は昔より脆弱になっている気もする。

 体と心がしばしば乖離するように、合理主義や現実主義と、救済願望や不安も別個に共存しするのだろうか。
 一番不愉快なのは、「情報」とか「知識」とかが権力と結びついたり、弱者の支配の道具になることだ。

 「秘密の智恵」は選ばれた仲間にしか教えられないとか、警告だけはしてやるが、その理由付けは普通人の理解を超えるからしない、とか、検証のできないような「権威」を持ってきてそれを楯にして「真実」を振り回すとか、安全や健康若さや美や長命は金で買えるとか、コーチングや、自己管理や自助努力で達成できるとか、そういう言説が私はすごく嫌いだ。

 昔から陰謀説も終末論による脅しも存在した。ニューエイジによって増幅し、その後グローバル化し、今はそれがネオリベラリズムと結びついてますます複雑になっている。
 それを読み解くリテラシーは、究極的には、自己肥大から背を向けて身近な弱者と連帯するアンテナを調整するだけでいいのだが、一度懐疑や恐怖にとらわれたら、そこからの脱出が容易に自己目的化するのは、誰でも体験することである。

 2012年問題の読み解きについて頼まれていた仕事も、終末論と陰謀論の切っても切れない似た語り口をまたささやかながら分析したいので、講義の準備とともに進めるかもしれない。

 私にそう思わせたのは、昨日(2月8日)のニュースで、あのBHL(人気哲学者)が、botulisme の犠牲になったと認めたことを知ったからである。ノルマリアンのくせに、ノルマリアン伝統のcanular(意図的な嘘)に引っかかったわけだ。
 『イマニュエル・カントの性生活』という偽書(Jean-Baptiste Botul )からまじめに引用してしまった本が2月10日に出るそうで、それをすっぱ抜かれ、明後日のLe Point誌でBHL自身が釈明というか、騙されたことを認めたコラムを書いてるらしい。

 まあ、モノを書く仕事をしている者として、ちょっとひやりとしないでもない出来事である。
 しかし、以前にダヴィンチコードがらみで書いたことがあるように、ヨーロッパ、特にフランスにおける「偽書」のメンタリティは独特のものがあり、エリートの芸として成り立っているのに、それが一人歩きしてアメリカあたりでおおまじめに あげつらわれたりする。

 逆に言えば、偽書であってもそれがどうした、という部分もある。それが人のお役に立ってみんな幸せとか、みんな楽しんだとか、真実にはいろんなレベルがあるとか、結果オーライというのはいいのだが、BHLのようなインテリがまともに脚をすくわれては、かなりまずい。

 まあ、今度のことは、ちょっとした笑い話だが、BHLだからこそ、こうして明らかにされたわけで、たとえば普通の人が偽書やあやしい言説を真に受けてそれが、増殖され、脅しのツールになったり、「売れるものが正しいもの」みたいになると、どこかでほんとの犠牲者が出るかもしれない。
 
 来月からジャンヌ・ダルクについての連載をはじめるのだが、ジャンヌ・ダルクをめぐる言説ですら、ノストラダムスをめぐる言説と変わらないというか、同じような「流言」定着の構造があって、ちょっとショックでもある。

 もっとも、人々を結びつける神話や大きな物語というものもこの世にはたくさんある。その要素にあやしいものがあるとか嘘があるとか、証明できないとかいう反論だけでは切って捨てることのできない「意味」を担い続けてきた物語もあるのだ。それを利用する権力者や、自分の都合のいい神話をつくって支配のツールとする権力者もいるから、評価はますます難しくなる。しかし、偽書や流言やトンでも話をどのようにかわしていけばよいかという智恵も、古今東西の事例からきっと学ぶことができる、と、ひとまず「信じる」ことにしよう。

 

 
by mariastella | 2010-02-09 23:51 | 陰謀論と終末論
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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