キプロス島のベネディクト16世
6月はじめにB16がキプロス島を訪れた時、ニコシアで、Nazim Haqqani 師 というスーフィーの神秘家と会った時の写真を見たのだが、周りの人々がすごく和やかにこやかで心温まった。キプロスだからトルコ系のスーフィーということだろうか。本物の神秘主義者というのは、何かみな故郷が同じという気がする。神秘主義者たちが宗教間対話の鍵になるんじゃないだろうか。
キプロスはもちろん東方教会がマジョリティだが、カトリックも少しいるし、フィリピン移民もいる。B16は彼らを招いてアラブ語、ギリシア語、ラテン語をミックスしたミサを挙げた。 緊張の高まっている中近東などイスラム世界で生きるキリスト教徒たち、特に聖職者や修道者らのコミュニティが危険を回避して引き上げないで踏みとどまるようにと、教皇は呼びかけた。 1996年にアルジェリアのトラピスト修道士たちが、イスラム過激派から強迫されていたのに踏みとどまって地域の奉仕を続けた末、全員拉致されて惨殺された事件を扱った映画が今年のカンヌ映画祭で話題になったが、そのことを思い出してしまった。その地に残ると命が危ないと分っているのに絶対残れというのは普通の国の外務相だとかが、危険地域の自国民に避難勧告を出して、勝手に残って誘拐されたら自己責任だからね、とかいって逃げたりするのと対照的だ。 で、教皇の言うのは、キリスト教がマイノリティで試練に会っている場所にこそ残って、キリストの希望の証しを見せ続けなくてはいけない、と言う。それは、キリスト教徒のためだけでなく、その地域に住むすべての人々のためだそうだ。確かにそういう地帯では、ムスリムである地域住民であれば身が安全というわけではない。彼らはずっと命の危険にさらされている。そんなところに「福音」を伝えに来た宣教師なんかが、さっさと「安全地帯」に逃げ帰ったとしたら、「人は愛し合える」という証言の重みは消えうせるだろう。 最近、南アのワールドカップがらみで、黒人地区に留まってアパルトヘイトと戦ってきた白人キリスト教司祭たちの話をいろいろ読む機会があって、感動していた。 アパルトヘイトをキリスト教的に正当化していたのは、旧約聖書のノアの泥酔のエピソードで、父の裸を見た息子ハムが黒人の先祖だと言われていて、「奴隷の奴隷となり兄たちに仕えよ」とノアから呪われた部分らしい。 このテーマについてはシスティナ天井画の解釈をめぐってあれこれ考えてきたのだが、まあ、普通に考えて、泥酔して裸で寝たノアさんがそれを見つけた息子を一方的に呪うなんて・・・と、ひどい話だと思うんだけど、キリストの受肉によって旧約のいろんな律法とかの意味がラディカルに変わったはずのキリスト教で、アパルトヘイトの正当化にそんな口実が使われていたんだなあ。 知らなかった。まあ、そういうふうに正当化する必要があったということは、キリスト教内部で、アパルトヘイトの人種差別はキリスト教に見て間違っているという異議申し立てがあったからこそなんだろう。実際、白人の司祭だの修道士だのの中に、当時もちろん違法であったのに勇敢に黒人地域に住み、彼らと共に人種差別撤廃のため、自由のために戦った人たちがいたわけだ。 その一人のJacques Amyot d'Invilleの書いているものを読むと、ずいぶん危険な生き方をしてきたのに全然悲愴ではなく、「明るいのが一番」という感じなのだ。 ユーモアの感覚を養い、積極的にオプティムズムを育てようと言う。 そして、ニーチェがキリスト教徒について言ったことを常に考えなきゃいけないという。それは、 「私が彼らの救い主を信じるようになるためには、救い主の弟子たち自身がもっと救われた様子をしていないとだめだ!」 と言うものだ。 愛を説いたり、救いや希望を説く者、「福音」を説く者が、深刻な顔をして、危機に際して真っ先に逃げ出したりしたら、確かに、救われてるようには見えないなあ。 よく、拷問されて磔にされた殉教者なんかが、「パライゾ、パライゾ」とか叫んで恍惚として死んでいくイメージがあって、ああいうのは狂信で病的で不健康じゃないかと思っていたけど、一理あるかもしれない。 そして、神秘家とか、悟った人とかって、確かにいつもニコニコしてたりする。 私は何かと悲観的な人なのだが、よし、ちょっとは喜びに向うように生きてみよう。
by mariastella
| 2010-06-16 23:39
| 宗教
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