ガーディアン・エンジェル
サラ・パレツキ―のV.I.ウォーショースキーのシリーズの『ガーディアン・エンジェル』を読んだ。
発表時の順不同で読んでいるが、いままで読んだもののうちで一番構成がしっかりしていて、展開の仕方やディティールや着地点が見事なので、満足させられた。 弁護士のフリーマンがヴィックに、「おいで、ジャンヌ・ダルク。」とやさしくからかうように話すシーンがある。 そういえば、20世紀の初め頃、ロンドンで St.Joan's Political and Social Union というのができて、フランスがそれに加入して国際ジャンヌ・ダルク連盟としたのは少し後だったと思う。 今でもユネスコでもブレインになっている、カトリックのフェミニスト・グループだ。 カトリックが10%しかいないイギリスに今ローマ教皇が初の公式訪問中で、移動だの警備などの費用がかかり過ぎるとして問題になっている。カトリック教会が一部を負担するためにミサ出席を有料にしたり、教皇グッズを売ったりして費用の一部を捻出しようとしているが、30ユーロという高額で、思ったより売れていないらしい。夕方のニュースで、スコットランド入りして女王とも会った教皇が、タータン・チェックのマフラーを肩にかけて車に乗っている姿が映っていた。 話を戻すと、そんなわけで、カトリックのフェミニズムが、ジャンヌ・ダルクをシンボルにしているのはおもしろいと思っていた。それがイギリスで生まれたことも。 ジャンヌ・ダルクはフランスではやはり、イギリス軍を追い出したフランスの救国の少女、というイメージがあるが、その敵であったはずのイギリスでは、20世紀初頭(ジャンヌが列福された後で、聖女となる前)においては、むしろフェミニズムのシンボルだったのか。 そして、20世紀末に近い頃、シカゴの女探偵が「ジャンヌ・ダルク」と呼ばれている。 「戦う女」だからか。 フェミニズムのシンボルだからか。 フランスのフェミニズムにおいては微妙である。 フランスでは20世紀初頭、反カトリックの勢いが強く、フェミニズムの陣営はどちらかというと、左派で反カトリックだったからだ。 フランスのフェミニズムの初期の立役者の女性が目立った場と言えば、フリーメイスンのことに思い至る。フリーメイスンか無政府主義。 アングロサクソンにおけるフェミニズムとカトリックとジャンヌ・ダルクの関係を調べてみたい。 で、この作品でのヴィクは、元夫のWASP系の男や、新しい恋人である黒人刑事や、ラテン・カトリック系の隣人ら、いろいろなタイプの男たちと相変わらず強気の心理的葛藤を繰り返すのだけれど、ユダヤ人女性のロティとも溝ができる。 それによって、それまで男対女というジェンダーの問題だとヴィクが思っていた依存関係への恐怖が、別のニュアンスを持って現れる。 ヴィクやロティのように、強がりで強情な女たちを評して、一見家族の犠牲になっているように見える看護師のキャロルという女性が最後の方でこう言う。 「あなたもロティも分かっていないのね。自分を愛してくれる人に頼るのは悪いことじゃないわ。ほとんよ、ヴィク。」 含蓄のある言葉だ。 頼るのは、単なる依存でなく信頼関係であり、それには愛が前提になるのかもしれない。 誰かを愛したら、その人から頼られたい、と思うのは分かる。「愛する人に頼る」のではない。「愛する人に頼られたい」のだ。 神とか仏とかはそうやって衆生を愛してくれるのかもしれない。 ヴィクやロティは、きっと、「愛したい」のだ。 愛した時に湧き上がってくる「頼ってほしい」という思いは甘美で優しいものだ。 相手が動物であっても。 「愛し愛される」ことのバランスに悩むよりも、 「愛し、頼られる」ことの方が、満足感や平和を確実に得られるのかもしれない。 苦手な相手から頼られてますます嫌になるということはよくあるが、それは向こうから愛されてない証拠だと無意識に感知するからだろうか。 ヴィクは悩み多い女性だが、こういう言葉を配するパレツキ―はさすがだと感心する。
by mariastella
| 2010-09-17 05:39
| 本
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