フランスのライシテと仏教徒
私の義妹はフランス仏教連合の代表者の一人で、今、特に、仏教の僧侶の社会保障や年金についての問題を扱っている。
その関係で、仏教連合が、内務省からBertrand Gaume、外務省からOlivier Poupardとを招いて9月に話し合った時の記録を最近読んだ。 Bertrand Gaume は、Bureau Central des Cultes, ministère de l’Intérieur, de l'Outre-mer et des Collectivités territoriales の長官である。 フランスのライシテについてあらためて考える。 フランスのライシテは、 信じることと信じないことの自由を保証すること、、 国の中立性、 各宗教に序列を認めないこと、 宗教活動に干渉しないこと(公共の秩序を乱さない限り) からなっている。 他のヨーロッパ国と大きく違っているのは、国がある宗教を「公式に認定することはない」ところだ。 宗教は特殊なアソシアシオンの一種 Association cultuelleとして認められると、税制優遇などを獲得するが、「宗教」として認められるわけではない。 しかし国はそれらのアソシアシオンの活動や、個人の信教を「援助する」ことが想定されている。 「宗教」としては認定されていないので、そのような援助を求めて各種アソシアシオンが宗教の名で国と対話するには、フランス仏教連合のような「代表組織」を別に作らなければならない。 個人の信教を援助するとは、どういうことだろう。 たとえば、国は特定宗教者に給料を支払ってはならないのだが、そこに例外があることによって、はっきり分る。 つまり、 - Pour les personnes, empêchées de se rendre dans les lieux de culte de leur choix du fait de la maladie, de contraintes scolaires ou universitaires, de leur engagement sous les drapeaux ou d’une privation temporaire de liberté, l’État a prévu de rémunérer sur fonds publics des aumôniers pour assurer la liberté de religion dans les hôpitaux, les établissements scolaires et universitaires, les prisons, les armées. Le symbole de cet alinéa 2 de la loi de 1905 mérite d’être souligné. Il est la synthèse de cet équilibre entre la liberté de conscience, le libre exercice des cultes et la séparation des Églises et de l’État. Il renvoie directement aux textes fondateurs de la République (cf. art.10 de la déclaration des Droits de l’Homme et du citoyen de 1789) 病気や刑務所や軍隊や学業の場所にいるせいで地域の宗教の行事に参加することができない人のためにそれらの場所に、国が金を出して常駐の宗教者を雇うことができる。 これが国立のリセや大学に常駐するカトリック司祭や従軍司祭や公立病院に必ずチャペルがあることなどを説明している。 だから、理論的には、仏教徒でもイスラム教徒でも、病床で、宗教者にセレモニーを頼んでくれということができる。 実際は、それが、たった一人や極少数や例外的であったり、要するに、国が常駐の宗教者に金を払うほどの正当性がない時は「ボランティアで来い」ということになっている。 だから、事実上、ほとんど、カトリックの司祭が占めている。どんな軍艦にも常駐の司祭がいる。 Olivier Poupard の方は、 Conseiller pour les affaires religieuses (CAR) で、このポストはフランスの公務員で唯一「宗教」の言葉がつくポストだ。 外務相にこのポストが生まれたのも、初めは、もちろんカトリックがらみ、キリスト教がらみだった。 1920年に、依然としてナポレオンのコンコルダ体制のまま、1905年のライシテ法に組み込まれなかった l’Alsace-Moselleが、フランスに戻ってきたこと、 そして、 シリアとレバノンに対するフランスの委任統治の必要上である。 この二つの国では、「オリエントのキリスト教徒」の保護が、フランスの影響力の行使とセットとなっていたので、その対策が必要だった。 最後に、1904年以来絶縁していたヴァチカンとの国交回復という課題に向けての準備である。 だから、最初のLouis Canetが26年もポストについていたように、「キリスト教の専門家」が想定されていた。 外交の専門家がこのポストにつくようになったのは1993年以来で、アフガニスタンの戦争やイランのホメイニ革命などの後である。 今は、 CAR は、フランスの宗教指導者が外国を公式訪問するときにその国の情報を与えたり、その国の大使館に便宜や保護を求めたり、逆に外国から宗教の指導者がフランスに来る時にあれこれのオーガナイズや国との橋渡しをする。 そういうアシスタンスのポストなのだ。フランス的な特化の仕方である。 またフランスに神学などの勉強に来る外国人にも、ヴィザの取得手続きなどをアシストする。 その目的は、はっきりしていて、 「フランス語のプロモート」だそうだ。 なるほど。 ローマに並んで、カトリック神学の一大中心地だったパリなどの持つ「歴史的強さ」を、「フランスとフランス語の影響力の保全」のために利用しているのだ。 そんなわけで、「文化価値は高いが、初期の戦闘的ライシテの後遺症で貧乏な」フランスのカトリック教会を、国がそれなりに戦略的にアシストしているわけである。 なかなか奥が深い。 で、宗教者専門の社会保障制度も、元がカトリックの司祭用にできているものだから、独身の男が前提で、配偶者をカバーしないし、妊娠や出産に関する保護もない。 他の宗派の妻帯司祭や女性司祭にとっては不備だし、瞑想が活動の中心というタイプの仏教宗派や、一切の経済活動をせず布施だけで生きる宗派や、教育や文化の伝達は関連アソシアシオンに任せている宗派にとってなど、いろいろな不備がある。2000年以来、フランスに3ヶ月以上暮らす人はみなどこかの社会保険に積立金を払うことが義務付けられているのだが、宗教者用のCAVIMACは月々の支払いが410ユーロ、4万円以上だから、無収入の宗教者にはとても払えない。(仕事をしている宗教者は雇い主が一般社会保険に支払っている。) フランス仏教連合は、カトリック離脱から生まれたライシテが諸宗教に平等に保証するばかりでなくアシストもしてくれるはずの制度に切り込んでいる途中だ。 旧植民地国の移民などが多いムスリムと違って、「フランス人の仏教徒」は、元インテリ左翼という感じの人が多い。フランスの法やソシアルに対する意識も高い。ライシテについてはもちろんだ。そういうインテリが、チベットの亡命僧などの権利を守るために奔走している。 2010年、CAVIMACに積み立てている宗教者は、 仏教徒 が79 人、 イスラム教が 86人、 正教徒が 77人 、 エホヴァの証人が 715 人 だそうだ。 この数字をどう見るのだろう。 よく見るとかなり、驚くべき数字だ。 フランスのライシテの実態を別の角度からのぞく窓にも、なる。
by mariastella
| 2010-11-24 01:46
| 宗教
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