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L'art de croire             竹下節子ブログ

Une Femme Nommée Marie

Robert Hosseinが、ルルドのロザリオのノートルダム大聖堂前で、『マリアという名の女』というメガ・スペクタクルを一回きりの無料公演するというのが、france3のテレビで生中継されたのを観た。

私は1983年に『:Un homme nommé Jésus(イエスという名の男)』をパリの Palais des Sports で観ている。

イエスが四千人の人々にパンを分ける奇跡のシーンでは、使徒たちが客席を走り回ってバゲットのかけらをみなに分けた。そのパンの味が、忘れられない。

ロベール・オッセンは、40歳でカトリックの洗礼を受け、「イエスもの」も何度も演出しているし、「ヨハネ=パウロ二世もの)まで演出している。

息子の一人Aaron Eliacheffはなんとユダヤ教のラビで、仏教徒の息子、イスラム教シンパの息子もいるらしい。宗教好きなアーティストって、フランスじゃけっこうめずらしい。

で、ルルドでのこの芝居は「聖母マリア」ものかと思ったら、一応ベルナデットが出てくるものの、洞窟のマリアに福音書の話をねだって見せてもらう、という形で、これまでの「イエスもの」のヴァリエーションになっている。

ヨルダン河での洗礼に始まり、ヘロデ王とサロメとか、山上の垂訓とか、ラザロを蘇生させるとか、最後の晩餐とか、十字架の道行きなど。

場所がルルドなので、舞台前には車椅子がずらりと並んでいる。

ルルドには、今でも毎年600万人の巡礼者が訪れ、そのうちの1割が「病者」として参加する人だ。

今は聖母被昇天祭が迫っているハイ・シーズンだ。

開演前にインタビューされたオッセンは、この芝居をこの場所で病人のために捧げるのが夢だったというようなことを言って、感極まって涙をためている。

信者かどうかは関係ない、人のために生きている人は神の手に抱かれている、といういつもの言葉を繰り返している。

彼が年とったことに驚いた。精力的なイメージだったのが、もう83歳だそうだ。

イエスの奇跡のシーンで、左右から病人とか障害者役の役者たちが、わらわらと、つまずいたり震えたりしながら舞台に出てくる。

なんだか居心地が悪い。

ユイスマンスがこれを見たらなんて言うだろう。

でもちろん全員が「奇跡の治癒」を得てとび跳ねながら退場する。

うーん。

いいのか、こんなんで。

あまりにも「べた」すぎないか。

オッセンって、ちょっと耄碌したんじゃないか、と思う。

金持ちが天国に行けない、ってきっぱり言われるところは痛快で、「無償で受けたものは無償で与えよ」と言われると、「命」もそうだなあ、とか、選ばれれて語られる福音書の言葉の要所要所には共感もするが、全体としては、どうよ、という感じが抜けない。

しかし例のパンを分けるシーンがあって、中央通路を進んできた使徒や群衆役の役者たちが、「分かち合い」とか言いながら観客にパンを分けて、観客が驚いて、ほほ笑みながら食べているのを見ると、幸せな気になる。

過去の私は金を払って観た客だったが、ルルドではすべてが無償だから、「分かち合い」もじーんとくる。

でも、それ以外は、あまり感情移入できない。

夜がふけてくる。

芝居の最後に、オッセンがナレーションでしめくくる。

「私たちには癒せない。でも私たちは、愛したり、助けたり、分ちあったりすることができる。まだ間に合ううちに。」

と、しわがれた声が響く。

このフレーズはルルドにぴったりだ。

芝居が終わって、それでも、感激して顔をくしゃくしゃにしているおじいさんもいるなあと思って見ていたら、何とそれがオッセンだった。

背が丸くなり、よろよろと立ちあがって、杖をついて、進み、舞台にゆっくり上がってくる。

イエス役が、手を差し伸べている。
オッセンを見ると、俳優がみな泣きそうになっている。

一番感動的なのは、あんただよ、オッセン。

ルルドはそれ自体が芝居の世界のような異界だから、この芝居が一体何を付け加えたのかはよく分からないが、オッセンの信仰が、ひたすら「与える」ことに向けられているのは分かるし、テレビを通してではなく実際にあの場にいたら、感極まって、病気が治る人も出てくるかもしれない?

「マリア」の出番は、イエスの物語の中にはまったくなくて、「看板に偽りあり」という気がするが、「キリスト教的公正」だからこれでいいのかもしれない。

私は自分が年とるにつれて、まだ30代前半であんな死に方をしなくちゃならなかったイエスがかわいそうでたまらなくなり、「あんたのために何かしてあげるから、待ってなさい」と言いたくなる。

釈迦が悟った後、80歳まで教えがぶれなかったのは分かるが、イエスって短い一生(のしかも最後の方)が激しすぎて、「神の子」だし、「子なる神」だし、後で復活するから大丈夫、という気にはなれない。

この芝居で残念だったのはイエスに笑顔がほとんどなかったことだ。

キリスト教の本当にいいところは、自由意思へのオプティミズムだと思うので、それをもっと伝えてほしかった。

「この世は夢幻」とか、「仮の世」とか、「神のお告げが下される」とかいう解決のし方ではなく、何かを求めて、あるいは何を求められているかを探しながら自分でちゃんと生きていく、というメッセージは、この芝居よりも、この芝居をこの場所で実現させたオッセンの姿を通じてよく伝わってくる。

神の手に抱かれている人、少し羨ましい。
by mariastella | 2011-08-14 07:06 | 演劇
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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