村崎芙蓉子さんのこと
婦人公論の1332号(2011/10/7)に、村崎芙蓉子さんのことが載っていた。(ルポルタージュ『時代を創る女たち』島崎今日子)
村崎さんは、50代くらいの頃に、医者らしくも熟女らしくもなく、軽々とギャル風で楽しそうな人としてやはり女性誌に紹介されていた記憶がある。 76 歳になる今も、そのかわいらしさも元気の良さも変わらないのだが、それよりも、こういう記述に驚いた。 新婚時代の彼女が語る「夫婦の非対称性」だ。ある日曜に、台所で慣れない包丁を使い昼ごはんの支度をしていると、背中に視線を感じて振り返った。庭でゴルフの練習をしていた夫(高名な精神科医)が、愛おしげに妻を見ていたのだ。 ここで、村崎さんは、 「一瞬冷水をかけられたようにゾッとした」 と言うのだ。 「家事をする妻の姿を素敵だなと思っていたのでしょう。でも、そのときの私は読みたい文献があって、内心イライラしながらキュウリを刻んでいて、心の中はそんな美しいものではなかった。夫の視線に、2人のギャップを一瞬のうちに感じてしまったんです」 と彼女は語る。 すごいなあ。 彼女の時代のキャリアウーマン、エリートであればある程、それでもよき主婦でよき母であるスーパーウーマンでなければ周囲から偏見の目で見られただろう。 そんなお偉い女先生には家事はつとまらないとか、ご主人や子供の世話はできないとか。 で、キャリアを目指す人は、家庭生活を犠牲にするか、あるいは、家庭までもうまく切り盛りできるパーフェクトな自分に酔うか、どちらもできずにぼろぼろになるか、というのがよくあるパターンだったろうと思う。 村崎さんは医師という専門職で、実の両親と同居で、夫はエリートコースで、美人で、人生を楽しんでいる感じだから、日曜日には敢えてキッチンに向かう自分に自己満足を感じていたとしてもおかしくない。 だから、その自分を愛おしそうに見つめる夫の視線を感じるのも、 「私って、キャリアもあって、同時に、愛されキャラで、すてき」 と位置づけても不思議ではなかったと思う。 それが 「冷水をかけられた」 と感じたというのだ。 キャリアのある男は日曜に庭でゴルフの練習をするのが絵になっていて、キャリアのある妻は日曜にキュウリを刻んでいるのが絵になる。 夫はそのパターンを受け入れているから、そんな妻の姿を「いとおしい」と見ているのだ。加害者意識があるわけではない。 しかし、かいがいしく働く妻を愛おしく見るということはそのまま、家事をしないで文献を読む妻を苦々しく見るということにつながるわけである。 村崎さんは無意識にそれを回避してキュウリを刻んだ。 村崎さんは、自分の息子たちを「夫のような男には育てない」と一心不乱に教育して、息子はめでたく家庭的に育ったらしい。女の子がいればそのニュアンスは変わったのだろうか。 私は日本のキャリア女性の家庭における非対称性のことなど日本にいた頃もあまり考えたことはなかったが、むしろ、ここ数年、「普通の主婦」のブログが簡単に読めるようになって、地域にもよるのだろうが、家庭とか子育てとかいうシーンでは旧態依然というか、村崎さんが昭和の時代に体験したのと大して変わらない光景が普通に繰り広げられているのを目にして驚いている。 昭和の時代に村崎さんが「冷水をかけられた」ようにゾッとした夫婦の非対称性などは今でも同じ感じで再生産されている。 フランスでももちろんいろんなパターンがあるだろうが、少なくとも、お隣と比べるとか子供のクラスメートのお母さんと比べるとか、雑誌に出てくるカリスマ主婦と比べるとか、そういう発想はない。姑同士が「うちの嫁は・・・」と品評するすることはないし、男同士が「うちのやつは・・・」と言い合うこともない。 人にはそれぞれ得手不得手や好き嫌いもあるから、男と女に限らず、共同生活をするには、互いの得手不得手や好き嫌いが補完し合うような人同士が暮らすのが一番平和だろう。 うまくそういう相手と巡り合うのはどの国でも難しい。 けれども、うまく巡り合った場合に、「理想の家庭」のパターンについて先入観や同調圧力があるような国や社会においては、その平和が「外圧」によって脅かされるかもしれない。 それが多分、日本の一番の問題だ。
by mariastella
| 2011-11-08 03:29
| フェミニズム
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