ヴァティカンという組織が存続してくれていてよかったなあ、と時々思うことがある。特にトップとなる教皇が例外的人物である時には、世界の危機を救ってくれる。
有名なのはポーランドのソリダノスクを鼓舞して冷戦終結に大きな役割を果たしたヨハネ・パウロ2世だが、
76歳で教皇になって「つなぎ」だと思われていたのに、5年間(1958-63)で第ニヴァティカン公会議をはじめたヨハネ23世もその一人だ。
1962年のキューバ危機で、あわや第3次大戦の勃発かと思われたときに水面下で大いに動いたのがこの人だったらしい(むろん彼だけの功績ではないが)。
時のアメリカ大統領は初めてのカトリック大統領であるアイルランド系のケネディで、彼が教皇にじきじき交渉を頼んだという。
ケネディは選挙運動中、ヴァティカンの決定よりもアメリカ国益を優先するかとプロテスタント陣営から何度も問われた。
実は、ケネディは、ヴァティカンにアメリカを救ってもらったわけだ。
もちろんそのことは、政治的判断で伏せられたままだった。
キューバが伝統的にカトリック国であったことは言わずもがなの話である。幸運が重なった。
フランスにとっても、この教皇が救い主となったことがあるらしい。
1944年、自由フランスのリーダーで敬虔なカトリックだったド・ゴール将軍がヴァティカンを訪れた。親独ヴィシィ政権下のフランス司教をやめさせてほしいというためだった。
しかし、当時のヴァティカンには占領フランスの大使が正式に赴任していたし、フランスにはヴァティカンの大使がいる。当時のピウス12世には直接には何もできなかった。フランス司教の任命はヴァティカン大使の管轄だ。
ともかく、この時、新大使として送り込まれたのがジュゼッペ・ロンカリ、後のヨハネ23世であった。
彼の才覚によって、フランスの司教や司祭たちは差し替えられ、戦後、対独協力などの矢面に立つことを逃れられたという。
ヴァティカンというと各種の陰謀論ではまるで闇の暗殺集団のように扱われていたりするのだが、その外交力や調停力、ネットワークの力、伝統の持つ権威、聖霊トップダウンの素早さ、意外なフットワークの軽さなどで、キリスト教ベースの世界史にポジティヴな役割を果たしてきたことは間違いがないようだ。
Bernard Lecomte『Les derniers secrets du Vatican』
ISBN : 2262034109
Éditeur : Librairie Académique Perrin (2012)