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L'art de croire             竹下節子ブログ

Cavalliのオペラ『Egisto』


Opéra Comiqueで、 Francesco Cavalliのオペラ『Egisto』を観た。

http://www.opera-comique.com/fr/egisto/egisto.html

これまで、Monteverdi以降Vivaldiまでのイタリア・オペラの流れにあまり関心を持っていなかったことにあらためて気づく。

このオペラは知り合いの Benjamin Lazarの演出で、前にVincent Dumestreと組んだ『Cadmus et Hermione』が楽しめたから、ダンスがないことを承知で観にいった。

でも、照明がすべてろうそくで、主に下からの明かりなので、舞台がすごく暗く、神秘的なのを通り越して閉塞感があった。スパイラルな回り舞台も、バロック風に過剰なのか簡素なのか分からない半端な観がある。

日本の演劇も好きなバンジャマンのイメージでは、前作は歌舞伎、今回は能の雰囲気だったのかもしれない。でも、実際は、初めての商業オペラともいえるCavalliの上演は、大衆受けする大胆さを狙ったものだから、歌舞伎風でもよかったのにと思う。

Cavalli はMonteverdiの弟子で、ヴェネツィアに1637年、はじめてできた商業劇場 Teatro San Cassianoで活躍した。そこは700人収容で、Opéra Comiqueは1200人だから、それにあわせてオーケストラの規模も変えたという。17世紀の照明はもちろんろうそくだったろうが、もっとパストラルな明るさを目指していたのではなかろうか。Cavalli が今のテクノロジーを使えたら、もっと派手な演出をしていたと思う。

ヴェネチアは共和国だったので、王の賛美や教会への気兼ねもなく、台本の中の神々はコミカルに描かれている。司祭が女装して歌うキャラまで定着していた。このオペラにも出てくる。

favola drammaticaはその後、ナポリに根付き、ベルカント・オペラが誕生するので、それはやはりイタリア語のディクションと関係がある。リュリーがフランスに来てフランス・オペラを注文されて、フランスの演劇に通いつめて生まれたフランスオペラとの大きな違いがすでに分かる。

1年に6ヶ月も続いたというヴェネチアのカーニヴァルでメセナたちは競い合ってあらゆるアートをプロデュースしたのだから、オペラにバレーがついていないはずはない。
ところが、イタリアでは、オペラに挿入されるバレーは、ダンス教師とダンサーたちが、曲と振り付けをもって出張出演していたらしい。だから、オペラの総譜や台本にはバレーの指示が残っていない。

絶対王政に支えられた専用劇場に専用バレー団を置くようになったフランスとは根本的に違う。

Cavalliの曲にはわずかにダンス曲風の場所があるが、大半は、歌を支える通奏低音だ。けれども、リュ-ト、チェンバロ、バロックギター、テオルブ、ハープなどの弦をはじくタイプの楽器が活躍して独特のソフトで官能的な雰囲気を出していた。

タイトル・ロールのエジストはバリトンのMarc Mauillonで、この人が、もう一人のテノールと同様、姿も美しくて、演技もうまい。大衆に受けたので当時は必ず組み入れられたらしい「狂乱の場」(Folie)での迫力はなかなかのものだった。ヴェネチアの人たちはここで大いに叫んだり拍手したりしたのだろう。

前日に、国立図書館のカサノヴァ展で、18世紀のヴェネチアの雰囲気に浸ったので、そこからさらに100年さかのぼる不思議な感覚だった。18世紀にサドがカストラートへのイタリア人の熱狂を理解できなかったように、 たった1世紀でイタリア・オペラとフランス・オペラは完全に別の方向に進化したのだなあ、とあらためて感慨を覚える。

イタリア風の、産業としては「民主化」して名人芸に走ったオペラと違って、フランスは国の主導で総合芸術としての洗練をひたすら追及した。そのフランス・バロックのもっとも華美なダンス曲を、はじく弦楽器だけで再構成する私たちトリオの活動は、まったく古びないし、新しい意味を持つと思う。

今朝は、新たに、Luc Marchandの『 La flatteuse』(おべっか使い)と、Mr de Buryの『Chaconne』を練習した。チェンバロ曲にハーモニーを加えて、そのままオーケストラでも弾けるように編曲しなおして、3つのギターで弾いているので、ミオンのオペラのバレー曲と同じように華麗になる。

リュック・マルシャンの小曲の、旅に誘うような感じはデュフリーのロンドとも似ている。ビュリーの方は、小さな驚きの連続で、両方ともわくわくするフレンチ・エレガンスの華だ。デュフリーのシャコンヌやロワイエのパサカリアとあわせて、シャコンヌとパサカリアの美学について解説する、踊りつきと演奏だけの2つのヴァージョンを並べるコンサートをやってみたい。
by mariastella | 2012-02-08 06:28 | 音楽
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