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L'art de croire             竹下節子ブログ

クラシック・バレーにおける足の外旋について。

先日の夜、マレ地区のダンスセンター(CENTRE DE DANSE DU MARAIS)で、外に開く足のポジションについての実演付きの講演会があった。

http://www.paristango.com/l-en-dehors,-des-indes-a-l-occident-samedi-4-fevrier-20h-n214.html。

クラシック・バレーの五つのポジションに見られる、左右の足先をそれぞれ外側の真横に180度開くやり方の起源と意味を探るというものだ。

インド舞踊の Sharmila Sharma をゲストに、紀元前1800年のプロト・シヴァ神のその浮き彫りなどを手がかりに、外向き足(日本語ではむしろ「外また」に近いが」のルーツを探る。

その後で、ポーランドのバレリーナDaria Dadun-Gordonが男女7人の生徒のレッスンを、バーなしでセンターで実演した。

ものすごく興味があった。

けれども、ここまで面白いテーマをここまで面白いアイディアで掘り下げながら、ここまで、視点がずれているのは驚きでもある。

何しろ、クラシック・バレーの直接の祖先であるバロック・バレーについての文献を誰も読んでいないのだ。ピエール・ラモーが外向きの足についてバランスとの関係で書き残したこともスルーされているし、クラシック・バレー以前は「娯楽の宮廷バレー」と切り捨てられているのだ。

Katharina Kanterの仮説は次のようなものだ。

外向き足は、人類が車輪を発見したのと同じような革命的な発見だ。輪を転がすことで移動を獲得したように、外向きの足によって、人間は体の自由を獲得した。
インドではダンスはスピリチュアルな分野であり、インドの舞踊の型はそのままヴェーダの象徴である。外向き足こそが人を他者に向かわせ、超越者に向かわせる。

ヨーロッパで始めてダンサーの外向き足が彫刻によって現れたのは1480年で、Erasmus Grasser の婚宴で踊る男と、 Veito Stossの踊るダビデ王で、両者とも、不自然なくらい強調して交差させた足と脚を見せるために服の裾をわざわざからげている。インドからシルク・ロードを渡ってイベリア半島まで来ていたモール人のダンサーたちが東欧に移動したからだ。

その外向き足をますます発展させ、表現の限界を追及したのがクラシック・バレーだと言う。

ただし、最近のクラシック・バレーはそのスピリチュアルな意味を忘れてただの静的なポジションとして強制するので、職業病のように体の故障が出てくるようになった。バーにつかまって片足ずつ鍛えるのは、本来の動きから見て不自然だ。最初からセンターで体重を両足に感じながら腰や足や脚を開き、外旋する訓練をしなくてはならない。

とまあ、こういう概要だ。

別の人が、人体の骨格模型を持ってきて、骨盤と脚の付き方を説明し、人間が快適な四足から後足だけで立ち上がった時からすこし外向きのほうが安定がよくなった、と言った。

インド舞踊のダンサーは、インド舞踊では両足先の角度は90度にしかならないし、動きの受容の時にそうなるのであって、準備のためではない、と言ったのだが・・・。

インド由来という仮説の方は、パワーポイントも駆使して詳しく説明されて、論文掲載した小冊子も配られた。

なんというか・・・

インドから、何ですぐに1480年に飛ぶんだろう。

バロック時代に流行したサラバンドでさえメキシコ経由のスペイン由来だという説がある

(http://setukotakeshita.com/page7.html#c)

のに、シルク・ロードまで持ち出してインド起源とは。

それに、霊長類は四足歩行というより、四本の腕、四つの手で枝をつかんで木の上を移動して生活していたものが主だから、むしろ、後ろの腕と手で直立するようになったと言えるはずだ。

四肢で枝をつかんで体を支えるとすると、股は外向きでひざから先は内向きという姿勢だって考えられる。
日本舞踊の女舞の足運びが内股なのは日本人なら知っている。
体の安定はひたすら腰にある。

外向きの足が人間を解放してスピリチュアルに向かうだとか表現がどうとかいうのも大いに疑問だ。
披露されたインド舞踊でも、視線や腕や手指や上半身の動きが十分に表現力を発揮している。脚や足を見せない日本舞踊だって表現の強度というのは変わらない。

脚を180度開脚して振り上げたり跳んだりするのは、普通の人にはできない「名人芸」に近いが、それがエスカレートしてきたのは、踊りが産業として発展してきたからで、観客から対価を得るためには、「普通」の人には不可能な技を披露する必要があった。そのために、有名なバレエ学校では、解剖学的に、もともと極端な開脚が可能な骨格や筋肉の付き方の子供だけを受け入れるようになったほどだ。

インド舞踊のダンサーは、インド舞踊の学校で毎日朝6時半から夕方6時半まで練習したが、最初の2時間はヨガで、午後は音楽や歌もやる総合的なものだった、自分の先生は74歳でまだ現役だ、体に無理をかけないからだ、と言っていた。この考え方もバロック・バレーに近い。

残念なのは、インド舞踊のデモンストレーションについてきた生徒(若いフランス人女性)が、体もどてっとして動きも切れが悪かったことだ。生徒の絶対数が少ないだろうから無理はない。

それに比べれば、クラシック・バレーの実演をした7人の生徒は、いずれも、ほれぼれするようなきれいな体で、もちろん脚も足も180度らくらく開いて、全身しなやかな若者ばかりだった。

それだけ見ていたら、エキゾチシズムは別として、なんとなくクラシックバレーのほうがインド舞踊よりプロフェッショナルで難易度が高く上等な気がしてくる。

クラシック・バレー界の人たちばかりのバイアスがかかりすぎだ。

ただ、クラシック・バレーを子供の時に8年間やって、バロック・バレーをこの15年ほどやっていて、最近またクラシックをやり直し始めた自分(体は昔から硬いほうで、今はなおさら動きが悪い)の実感がひとつある。

あの、延々と繰り返されるバーでの基礎訓練や、姿勢の細部をああしろこうしろと矯正されることを子供時代に何年もやっていたら、一種のアディクションに陥るということだ。

その証拠に、バロックバレーに夢中で、その良さや、エスプリに共感しまくっているこの私が、何十年ぶりかでクラシックバレーのバーでのレッスンに復帰したら、とたんに、脳から明らかに快感物質が放出されるのを感じた。ぎりぎりの限界まで足を曲げたり伸ばしたりすることで快感スイッチが入るのだ。
だから、寒い日も暑い日も風邪ひいて咳き込む日も必ず踊りに行く。

身体の良好感を追求するバロックとは真逆なことを平気でやっているわけだ。

ある意味で恐ろしいが、今は別に体を痛めるほどの完璧志向はないから、ちょっと変わった健康法程度でちょうどいい落しどころになっているのだろう。

最近、私のピアノの生徒でバレーを熱心にやっている少女が両足首腱鞘炎の診断を下されて泣いていた。痛くてもレッスンをやめたくないのは、すでにアディクションになっているからだ。そうなると「自衛本能」などは狂う。親がその辺を理解していないと、扱いは難しい。
by mariastella | 2012-02-10 07:38 | 踊り
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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