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L'art de croire             竹下節子ブログ

天にまします

半年ぶりに東京に行ったら、メトロの行き先に「スカイツリー方面」などという表示があって、東京スカイツリーが新名所になっているのを実感した。

工事中にあんな大地震があったりして、そんな不自然に高いところにわざわざ登る人がいるんだろうかと思っていたのだが、そうでもないらしい。むしろ地震にも耐えたというので安全性に確信がもてたのか、津波の画像を見過ぎて、高いところに避難したら命が助かった、という漠然とした刷りこみができたんだろうか。

新名所スカイツリーをめぐるやたらに楽観的な日本のいろいろな記事をフランスで読んで、違和感がありまくりだったのだけれど、ずっと東京に住む知り合いにも「あんな高いところには怖くて昇れない。途中でエレベーターが泊まったら、と思うと…」と言う人もいたので、やはり人それぞれなのだろう。

しかも、この東京スカイツリーというネーミングが私にはすごくチープに聞こえる。20世紀末テイストというか…。公募によって募った名前から候補を挙げて投票で選んだという話だが、カタカナ語がむしろ中途半端な気がするのだ。

思えば、エッフェル塔をモデルにした東京タワーにしても、エッフェル塔はTour Eiffel と設計者の名前が堂々と冠された名前で呼ばれているが、パリ・タワーでもないし、エッフェル・トゥールでもない。東京タワーは東京塔ではない。

英語のtower も tree も、
カタカナ語のタワーやツリーにすると語感がかなり変わってしまう単語だ。

もっとも、ネットで検索してみると、東京タワーの名前の公募も1位は「昭和塔」で、東京塔」が9位、「東京タワー」が13位だったとある。決定は投票でなく、名称審査会で徳川夢声の強い推薦で「東京タワー」に決定したそうだ(東京スカイツリーの名称案で最も多かったのは「大江戸タワー」だったという)。

フランスが1998年のサッカー・ワールドカップのために建設したスタジアムの名前を公募した時、いろいろな案があったが結局「stade de France」(フランス・スタジアム)という平凡なものになった時の気分も思い出される。ワールドカップはナショナリズムを煽るからさもありなんだけれど。

タワーの名称で「日本語」としてもっとかっこいいものはないかなあと思うが、それなら、大阪の「通天閣」は壮大で格調があってすばらしい名前だ。

フランス語では高層ビルのことを「gratte ciel」というのだが、これは空を引っ掻くもの、みたいなニュアンスでなんだかかえって卑小だ。「通天」というのは素敵だ。儒学者による命名らしい。

しかも、「空」でなくて「天」。

フランス語の空はcielだが、「天にましますわれらが父よ」という神の住む場所の「天」はその複数形のcieux と言う。地球の周りに複数の天球が重なって動いていると考えられていた頃のイメージだろうか。firmament という詩的な言い方もある。天空という感じか。

フランスの薬局には一回ずつの使い捨て目薬しか売っていないので私は日本でビタミン入りの疲れ目用の目薬を時々買って帰る。

その中に「サンテ ド ウsante de u」というシリーズが昔からあって、目の健康という意味のフランス語だということだった。なるほどsanté de yeux ということらしいが、yeux はリエゾンするのでsanté d’yeux なのか。santé des yeux なら「サンテ・デ・ズー」 に近くなるし、目が単数ならoeil となって発音も違う。

実際は、会社名の参天製薬との語呂合わせなのだろう。と言っても参天製薬の参天はフランス語の 健康santé に由来するわけではない。

「参天」という商号の由来は儒教の経典四書の中庸にある「天地の化育を賛く可ければ、即ち以って天地と参となる可し」(本来聖人は万物の秩序と原理(天)と人間社会(地)の調和を助ける)から来ているそうだ。「天機に参与する」ということで、本来自然に備わっている治癒力を助ける薬を標榜しているらしく、堅実でありかつなかなか壮大なネーミングだ。

フランス語のcielが複数形で「神のまします場所」になるように、英語もheavensとか skies とか複数形にできる。スカイツリーであっさりsky とだけ言ってしまうのも、いまひとつありがたさがない。

まあ、バベルの塔のようにどっしりし過ぎても神の怒りをかって崩れてしまうのだから、軽い感じのスカイツリーの方が耐震性とか免震性があって、神の怒りも耐神とか免神でかわしてしまえるのかもしれない。
by mariastella | 2012-11-27 07:39 | フランス語
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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