« Une famille respectable »Massoud Bakhshi マスード・バクシの『立派な家族』
« Une famille respectable »Massoud Bakhshi
ドキュメンタリー映画作家だったマスード・バクシのフィクション映画第一作で2012年のカンヌで公開された映画『立派な(尊敬に値する)家族』。 イラン映画はどうしていつもこんなにレベルが高いのかと思っていたら、1972年生まれのバクシがおもしろいことを言っていた。 1979年のイスラム革命の後でアメリカ映画の公開がテレビを含めて全面的に禁止されたので、彼らは黒澤やタルコフスキーなどばかり観て育ったと言うのだ。 この映画について、フラッシュバックの手法などが複雑すぎてシナリオについていけないという観客の評価がちらほらとネットの映画評にあったので心配していたのだが、全然問題なかった。 ある意味で、アメリカ映画ばかり観て育った世代のフランス人にはこのようなひねりは難しいということなのだろうか。 話は、15歳でイランを出てヨーロッパで教育を受けて大学教授になったらしいアラシュという主人公が、故郷の大学の招聘を受けて22年ぶりに半年の予定で国に戻るが、兵役免除の書類がないことからパスポートを取り上げられたり、学生にイラン・イラク戦争の記録映画を見せたりして大学当局から警告を受けたり、汚職によって富を築いた父親の死や、異母兄やその妻や息子との関わりの中で陰謀に巻き込まれたりとさまざまな体験をするというものだ。 学生のデモもあり、若者の多い国での自由への渇望は脈打っている。 バクシ自身もイタリアやフランスで学んだ経験があって、その視線は鋭く妥協がない。 ただし、この映画がイランで公開されるかどうかは、当局の許可がいるので確かではない。 しかし、激しい検閲を受けたり20年間の映画制作禁止処置を受けたりする監督などもいる中で、バクシも非難されたが、2013年度のカンヌ映画祭にも出品が決まっているようなので、希望がある。 確かに、直接当局やらイスラム原理主義などを批判するようなシーンはない。ひたすら家族の軋轢や、拝金主義によるモラルの崩壊などが描かれているのだ。 バクシはこの映画をイランの女性たちに捧げると言っている。 実際この映画の中では、主人公の母のおば、母、初恋の相手で異母兄の妻になった義姉、その娘と、女たちは、体制がどう変わろうと、どんな脅迫を受けようと、命を守り常に全人的であろうとする。 それは監督の希望でもあるのだろうが、楽観的すぎる感もある。 監督自身の抱く、男たちへの不信の反動なのだろう。 「不浄」を毛嫌いして、家中を潔癖に掃除しまくる(キッチンの床が水を流せるタイルになっていて、床に直接水を流して丸洗いできるのには驚いた)主婦の姿は、汚職や陰謀など「悪」に対する嫌悪を象徴しているらしい。 でも私にはそれもストレスからくる強迫神経症の痛々しい姿にしか見えない。 ただ、ヨーロッパのキリスト教国でキリスト教は女子供の生活指針としてのツールとして温存しておくという男たちの目線が長いあいだあったのに対して、中東のイスラム教国では、女たちは教義などからずっと自由で強靱な生命力を発しているような気がする。 男たちの方が利権にとらわれて宗教と共依存の関係に陥っているようにも見える。 それにしても、バクシ自身が言っているように、この映画はフィクションとはいっても、ドキュメンタリーを別の手法で表現しただけで、細部はどれもリアルであるらしい。 挿入されるイラン・イラク戦争の報道映画も、町中の祈りの声も、横暴でヴァイオレントでマッチョな父親の家庭内暴力も、女たちの苦しみも、みな、リアルであっても、私の生活実感からあまりにもかけ離れている。 その事実に改めて愕然としながら、それでも彼らとの同時代性をどう共有して自分の生き方にどう反映していくべきかと考えさせられる。そんなふうに思わせてくれる映画は貴重だ。
by mariastella
| 2012-12-29 07:30
| 映画
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