6月1日からサン・ジョヴァンニ・ロトンドでカプチン会のパードレ・ピオの遺体の一般公開が無期限で行われることになった。
アッシジの聖フランチェスコに次いでイタリアでの人気ナンバーワンといわれるこの聖人は、ヨハネ=パウロ二世によって2002年に列聖されたが、今やyoutubeでも簡単に目にできるその派手な聖痕をはじめとして、生前から続く奇跡の数々のせいで、見方によってはうさんくささと紙一重のところにいる人だ。
それでもこの手の人はいわゆる「聖人伝」の中では少なくないのだけれど、1968年没という新しさからインパクトが大きい。
2008年から2009年かけて、すでに
17ヶ月間の遺体公開があって、多くの人がつめかけた。
500万人の巡礼者の中にはベネディクト16世もいた。
今回は、聖フランチェスコの名を教皇名に選んだフランシスコ教皇の訪問が待たれている(カプチン会はフランシスコ会の一派)。
で、よく知られていることだが、2008年の公開のために蝋人形の技術の高いイギリスの職人による手で彩色されたシリコンのマスクが顔にかけられている。
すごくよくできているので、この種の聖人の「腐らない遺体」を前にする人たちの何割かはそれが素顔だと思っているはずだ。パリの「奇跡のメダイのチャペル」で公開されている聖女カタリナ・ラブレーの「腐らない遺体」の前で祈る人やヌヴェールにあるルルドの聖女べルナデッタの美しい顔に感激する人の中にもそれが素顔だと信じている人が必ず一定数はいるからだ。
列福に先立つ聖遺物検案という手続きのために最初に棺を開けた時には腐っていなくても、体毛が抜けていたり、肌が黒ずんできたりするので、最終的には公開用に修復されるわけである。
カタリナ・ラブレと並んで安置されている聖女ルイーズ・ド・マリヤックとか聖ヴァンサン・ド・ポール(ヴィンセンシオ・ア・パウロ)だとか、リジューの聖女テレーズだとかのような大聖人たちも、透明棺の中に横たわっている姿の前で巡礼者が熱心に祈っているのだが、遺骨は蝋人形の下に納まっているのだろう。
そう思うとやはりドラマティックなのはカスシアの聖女リタの姿で、彼女には決してシリコンのマスクがかけられなかったし、これからもかけられないだろう。
リタについては『聖女の条件』(中央公論新社)以来あまり書いていないけれど、パードレ・ピオと並ぶ「濃い聖人」であることは間違いがない。
そういえば、パードレ・ピオの3年前に調布で亡くなって12年後にやはり眠ったままのような姿を見せたチマッティ神父(尊者)もいるけれど、調布サレジオ神学院地下聖堂に安置されて取次ぎを願う人々が訪れている棺は、透明ではなくて石棺である。
仏舎利や三種の神器と同じで聖なるものはあえて「見せない」方が日本的なのかもしれない。