数日前に続いた大雨でフランス南西部に洪水の被害が続出している。
夏が巡礼シーズンのピークとなる
フランス最大の巡礼地、ピレネー山麓のルルドも「水没」した。
今年はピレネーの雪解けが遅かったので水量の増えていたポー河のガーブが氾濫して、有名な奇跡の泉の湧く洞窟にも泥があふれ、聖域は閉じられ、巡礼者や病者も避難させられた。
25000人収容可能の聖ピウス10世大聖堂は地下聖堂になっているので、ほんとうに、浸水というより水没という感じになった。
川岸に近いホテルや記念品売りの店も多大な被害を受けて、泥だらけになった無数の聖母像がニュース映像に流れた。水は引いても、泥が40 cmも溜まり、ひどいところでは1,5mにも達していたという。
奇跡の起こるルルドなんだから、みんな福音書のイエスのように「水の上を歩く」ことができるようになるんじゃないかというジョークも出てきた。
奇跡の聖地なのだから、たとえ他の地域が水没してもここだけは奇跡的に「決壊」しなかった、とうストーリーなら盛り上がると思うのだけれど、そうはならなかった。
でも、「奇跡の聖地のくせにこんな被害にあってしまって…」という失望とか揶揄は不思議に起こらない。
ただ、これからのシーズンに毎日4万人というツーリスト(巡礼者)が来るはずなのにそれが見込めないとなると経済的な被害は甚大だ、という報道はあった。
この町には聖地の周りにはりめぐらされた巡礼者用のホテルやレストランや土産物などの観光産業でハイ・シーズンに働いて冬場はスキー三昧で過ごすなどという人たちも少なくないのだ。
でも、遠いところからもう何か月も前にあるいは一年も前から予約して巡礼に来た人たちは、みなあきらめて帰ったわけではない。
水が引きはじめるとすぐに、公的な災害救助や地元の人たちの活動の他に、巡礼者たちも何百人という規模のボランティア・チームを組んで水を汲みだしたり泥を掻きだしたりの作業を始めたのだ。
地下聖堂の聖具室で泥まみれになった2500もの聖職者用の服も外に出されて放水で洗われた。
その努力が実って、夏至の翌日の22日には洞窟が解禁された。
大蝋燭が再び灯され、ルルドの水を好きなだけ汲める蛇口のコーナーには、水を病者のために持ち帰る人がいつものように列をなした。
もちろん各種施設の被害は甚大なのだが、聖域関係者は、「予定されているすべての巡礼団を受け入れる」とコメントしていた。
それにしても、たった4日で聖母ご出現の洞窟まわりがともかくアクセス可能になったのは、ある意味「奇跡」的である。
同じ地方で被害の大きい他の町の映像では、呆然とする人々の絶望的な姿が繰り返し流れ、再起の見通しはまだたたないというニュースばかりだからだ。
ルルドという場所は巡礼による経済効果だけで動いているのではなくて、天気がいい時にだって移動が不自由な病人や障害者などを全員でサポートしてしまう特殊な場所だから、こういう奇跡の復興ができてしまうのかもしれない。
信仰があろうとなかろうと災害にあうのは同じだが、災害から再起する時には「信仰の力」が発揮されるということなのだろう。
「癒し」という奇跡のほんとうの意味も、きっとそのへんにありそうだ。