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L'art de croire             竹下節子ブログ

民族浄化、キプロス、政教分離

ミャンマーでは、ビルマのビン・ラディンと言われる過激な僧の扇動で、マイノリティであるイスラム教徒の殺害が勃発している。

イラクやエジプトの独裁政権が倒れた後ではマイノリティのキリスト教徒が迫害されテロの対象になり続けている。シリアの内戦地域でも同様だ。

ミャンマーの方はあまり報道されない。アウン・サン・スーチーも口先では批判はしているが積極的な対策をとらない。圧倒的な数の仏教徒たちが大切な選挙民であるからだ。

またミャンマーのムスリムはほとんどがインド系やインドからの移民なので、「民族浄化」の色彩もある。

軍事独裁政権のタガが外れると自由になった人々は異種を排除し始めるのだろうか。

中近東のキリスト教徒は、イスラム教が成立する前にキリスト教徒だったのだから、厳密には「民族浄化」ではないが異種である「欧米」とキリスト教を共有していることで、「敵」と見なされているところがある。

こういう事情を見ていると、たとえ一見どんなに不自然で人為的でも、今の地球では、どの国家も厳格に「政教分離」を進めていくしか平和の道がないように見える。


たとえばキプロス共和国の場合を見てみよう。

ここはギリシャ語を話す正教徒の国で、「キリスト教」圏なのだが、15世紀にオスマントルコに征服されたし、その後20世紀に大英帝国に併合され1959年に独立したがイギリス連邦加盟国の一員という位置にある。

ユーロ圏であり、ギリシャと同じく深刻な経済危機にあり、失業率は15%に上り、EUからの援助を受ける代わりに過酷な緊縮財政を強いられている。

ところが、この国のキプロス正教の大主教は大金持ちだ。

正教つながりでモスクワとも強固なラインでつながっている。

政府に介入して財務大臣を更迭することなども堂々と行われている。

地元ビール・ブランドの大株主であり、国で第三の銀行(Hellenic bank)の株も29%を持っている。国に次いで第一の大地主でもあり、少なからぬ土地を国に貸して賃貸料をとっている。もちろん貧しい子供の給食を提供するなどの慈善事業もしているのだが、クリソストモス主教がまず第一級のビジネスマンであることは間違いがない。

なぜ、経済が破綻している国で教会がこんなに豊かなのかというと…

ニコシア大学のテオパヌス経済学教授によれば、オスマントルコの支配下で、キプロス正教の主教が政治的にオスマントルコとの交渉相手になったので、島の住民たちはオスマントルコに奪われることを恐れてこぞって財産を教会に寄付した、その結果、教会に富が集中したという。

そもそも、15世紀にオスマントルコの攻撃を受けた時、正教は、まずローマ教皇にSOSを発信した。その時ローマ教皇は、正教がカトリックの支配下に入るという条件なら援軍を送ると言ったので、結局援軍は来なかったという。

だから、キプロスがオスマントルコ支配下の時代を通じてギリシャ人の文化、正教の文化を保存できたのは、100%、正教会のおかげだという認識が今のキプロスの基盤にあるわけだ。

第一、1959年の独立時の大統領は、大主教のマカリオス三世で、この人は再選され続けて、ギリシャ介入の一時期を除いて1977年に死ぬまで終身大統領職にいた。

独立した時にはトルコ人もいたのだが、1974年に南北に分断されて、今ヨーロッパ連合の一員であるキプロス共和国は、ほぼギリシャ人の単一民族国家となっている(移民には同じ正教のルーマニア人やブルガリア人の他にパキスタン人やフィリッピン人もいる)。

「民族浄化」は南北分断で解決したわけだ。

このキプロスの話(Figaro 2013/6/21)を読んでいると、政教分離とは何かということをつくづく考えさせられる。

キプロスの歴史から民族と宗教と政治を分けることはできない。

そして、実際、ほとんどの国が、近代的な意味での国家として成り立つまでに多かれ少なかれ「民族浄化」という隠れた(時にはあからさまな)誘惑に導かれて、政治とマジョリティ宗教の癒着の歴史を歩んできたのだろうと思う。

それでも、政治体制が、敢えて「歴史」や「伝統」を否定してでも、自覚をもった「政教分離」へと向かった国だけが、本物の普遍的な共生への道を開いてきた。

強権支配による見せかけの平和などではないし、カリスマ的リーダーへの盲目的信頼でもない。

マイノリティの抑圧や排除や、歴史的に貸し借りのある国同士の憎悪や敵対心などの多くの罠を避けながら、また絶えず是正しながら、少しずつ、少しずつ、この地球で平和な共生の場所を広げていくには、「正しい政教分離」がどうしても必要なのだ。
by mariastella | 2013-06-28 01:42 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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