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L'art de croire             竹下節子ブログ

マイノリティをカテゴリー化することの危険について

(リシュリューの猫はお休みです。)

ドイツでは出生証明書に男女の他に性別未定の項目が付け加えられるようになるとラジオで言っていた。
男女の性は胚の早い段階でホルモンの量によって基本の女性形が男性になっていくことで決まるので、その量や期間などによって分化がグラデーションになっているのはよく知られている。

卵子には男女別がないのだ。染色体もいろいろな複合系がある。

実際、両性具有など性別が不確かな子供の誕生は決して少なくない。

これまでは出生時に医師と両親が決定して、手術したリホルモンを投与したりして男女のどちらかに押し込めてきた。

その結果、長じて性同一性障害に悩む人もいる。

ホモセクシュアリティやバイセクシュアリティとして現れることもある。

性的マイノリティの人たちはいつも差別されてきたが、中でも、それと戦うゲイのロビーがいつしか力を持つようになり、今や、同性結婚法などがあちこちで成立しつつある。

もちろん次世代を育てるという社会の存続のためには「男=父」と「女=母」と子供という家族の枠組みは必要なのでそれを囲い込んで社会的に保護するというのは理解できる。

けれども、性的傾向は別に「ホモセクシュアルとそれ以外」の二項のみに分けられるわけではない。

ホモセクシュアル以外に非-性的人間も少なくないし、そもそも人生の長いスパンで見ていけば普通の人が性的存在である期間すらそんなに長くないかもしれない。

また、同性愛嗜好の他に、「社会的に不都合な性的嗜好」はいくらでもあるし、その中には、小児虐待のペドフィリアや屍体損壊のネクロフィリアのような犯罪として取り締まることが必要なものももちろんある。

しかしゲイのロビーが強くなると、解放されて市民権を得られるのはまさにゲイのコミュニティだけなのであって、「その他」の多数者の中に埋もれている性的マイノリティは、まるで存在していないかのようになる。

この世には「同性愛者」と「異性愛で子供を産んで育てるマジョリティ」のどちらか、というくくりになってしまうのだ。

ドイツの新民法では、性別未定の人は、成長してから自分で決定することができるそうだ。こういう曖昧ゾーンを設けて二分法に風穴を開けるのはいいことだと思う。

そもそも、差別されている社会的マイノリティや社会的弱者のうちの特定のグループを擁護するような運動は、全体としては人権尊重が少しずつ拡大されていくのだろうが、弊害もある。

特定のグループの「解放」「勝利」の影で、かえって見えなくなり忘れ去られる弱者も出てくるし、特定のグループがカテゴリー化されるとその内部での多様性が無視されるので、かえってグループ差別を固定化してしまうこともある。同性愛の場合でも、ゲイ・プライドのような派手な運動が着実な成果を上げる一方で、ひっそりと地味に社会に同化して生きることを選択したゲイの人はかえって肩身が狭くなるかもしれない。

そのような例として、アメリカ大陸植民地化の歴史の中で盛んになった黒人奴隷貿易のことをあらためて考えさせられた。

以前にも触れたが、もともと奴隷とは、戦争に負けた国の人間や、同国内でも貧困層の人々を強者が平気で搾取していたわけで、必ずしも肌の色とは関係がない。

旧約聖書の出エジプト記でも神がユダヤ人たちに律法を与えた時、主人の財産としての奴隷の扱いについても詳しく述べている。そこでも、「あなたがヘブライ人である奴隷を買う場合は…」などという記述があるように、「奴隷制度」とは、人種の差と直接結びつかない力関係が基本なのだ。

つまり、人間の社会では古今東西、「強者が弱者をモノとして生殺与奪をほしいままにする」、という形があって、人身売買による奴隷制はそのひとつであるに過ぎない。

実際、新大陸にはヨーロッパの農奴や犯罪者や浮浪者などの社会からはじき出された弱者も多く送りこまれた。その中で黒人が圧倒的に多くなったのは、気候に適応し労働力として最もコストパフォーマンスがよかったからである。

すでに15世紀以来、コーヒー、砂糖、タバコどの嗜好品を手に入れるために1200万人もの黒人奴隷が西アフリカから投入された。奴隷の歴史の中でも最も大規模なものだ。

ところが、もとは「強者」対「弱者」の構造の一部であった黒人の搾取が特化されていくことになる。

黒人は「洗礼を受けていない非キリスト教徒」という異文化的存在でもあったので、現地のインディオたちと同じく「キリスト教徒」対「野蛮人」という図式にシフトし、さらに「白人」対「黒人」という肌の色の差異に落としこまれていったのだ。

しかし、キリスト教は普遍宗教であるから、根本的には肌の色での差別は許容できない。

実際、ヨーロッパの本国においては、植民地における黒人奴隷制度を激しく糾弾する人たちが出てきた。

その非難をかわすために作られたのが1685年の「黒人法」だった。

コルベールが起草しルイ14世がサインした。

アンティーュ、ルイジアナ、ギュイエンヌ、そして今はフランスの海外県となっているモーリス島にレユニオンという植民地全体に適用されたもので60条からなり、財産としての黒人奴隷の扱い方を規定する。


この法文化の目的は、絶対王政の強化にもあった。奴隷の主人である植民者たちは自分たちの権利が制限されたと考えてこの法律に不満を唱えた。

黒人法によると、主人は奴隷を鎖につないでも鞭うってもいいが、傷つけたり拷問したり殺してはいけない。
10年働けば毎週7,5リーヴルの小麦と2リーヴルの塩漬け牛肉、三匹の魚を最低支給しなくてはならない。
しかし、最も大切な条項は、奴隷は洗礼を授けられなくてはならず、カトリックの教えを受け、結婚は司祭によって司式されるなどである。

この「カトリック化」によって、王は「無力な黒人を買って奴隷化する」という非難をかわし、奴隷貿易を、「無教育で野蛮な黒人をカトリックに改宗させる」という文化事業にすりかえようとしたのである。時には当事者自身、本気でそれを信じていたふしもある。

その偽善は19世紀まで続き、1848年に奴隷制が廃止された後も、フランスの帝国主義は「未開の人間を無知から解放する」という名目を掲げていた。

フランスの植民地にはもともとアパルトヘイト政策はなかった。
肌の色による差別という感覚がなかったのだ。
肌の色が同じで洗礼を受けたカトリックであろうと、単に弱者が強者に搾取されていただけだった。

それなのに、その差別が「肌の色」に還元されて批判された時点でこの「黒人法」が出てきたので、「非キリスト教徒を教化する」という正当化がなされたわけである。

結果として、他の多くの弱者が肌の色や宗教に関係なく差別されている事実が不問に付されてしまった。

その後の解放運動も、黒人というカテゴリーの被差別者ばかりがクローズアップされることになる。

中途半端な法律が差別の基準を特定したり、特定されなかった被差別者の権利回復を遅らせてしまったりという例のひとつだろう。

たとえカテゴリー別に少しずつ差別をなくしていくことしかできなくても、「相対的弱者の非差別をなくす」という普遍的な目標を忘れると、社会のひずみは治らない。

(参考Le nouvel Observateur2544/ p60 )
by mariastella | 2013-08-21 08:59 | 歴史
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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