韓国のカトリックは不思議だ
フランシスコ教皇が8月中旬に韓国へ行ったことで、韓国のカトリック事情についての記事がたくさん出て、韓国の若いカトリック信徒や聖職者たちのインタビュー記事をいろいろ読んだ。
私のこれまでの韓国のカトリックについての知識は、長崎の修道会などと交流が深そうで、長崎への巡礼が多いこと、 70年代から80年代にかけての秋田の涙の聖母への巡礼がたくさんあったこと、 それに付随して80年代にナジュの聖母像が血の涙を流して大騒ぎになったこと(これについてはかなりくわしく調べたし、今もyoutubeで動画が見られるはずだ)、 などの他は、中公新書の『韓国とキリスト教』(浅見雅一、安廷苑)によって得た知識が主体だった。 でも、フィリピンはまあわかるとして、どうして日本とすぐそばの韓国のような国でこのようにキリスト教が盛んになっていったのかは謎のままだった。 統一教会のようなキリスト教カルトの興隆の理由も不可解だった。 上記の本でも書かれているが、抗日インテリが日本から弾圧されていたキリスト教を取り入れたとか、朝鮮戦争におけるアメリカへの恩義と憧憬だとか、韓国人の選民思想だとか、「恨」の感情とかなどのいくつかの要因がありそうだ。 韓国のカトリックの特徴は1784年中国でフランス人イエズス会宣教師に洗礼を受けた最初のカトリック信者(儒教に不満を抱いていた若い知識人)が国に帰って自己流で布教、実践し始めたということだ。 で、韓国のカトリック教会は今が最高潮であるらしい。 ソウルには240の小教区があって、320人の神学生がいて、毎年30人の司祭が叙階されるという。 1960年代終わりには30万人だった信者が今は実に500万人以上で、カトリック教会は政治的にも軍事政権時代に民主主義の牙城としての実績があったらしい。 うーん。とにかく司祭が多く誕生するのであまってしまい、教区を担当させてもらえない。助祭として何年も過ごすか、宣教師になる。 1000人以上の宣教師が世界中に派遣されている。 どちらにしても、若い司祭が教区を受け持つとしても、自分より年上の信者に神「父」としてふるまうことは難しい。宣教師になった方が力を発揮できる。 他にも、インタビューを受けた宣教師や司祭たちがあげる問題点は少なくない。 儒教の長幼の序列が根強いので、ヒエラルキーが固定して神の前の「みな兄弟」という思想が根付かない。 天の父のイメージは厳父である。 平等主義的な聖書の翻訳はイエスに敬語を使う新訳に変えられる。 聖書の中のイエスは子供に話すように教えを説く。 祈りの中で信者はイエスに最大限の敬語を使う。 ユダヤ=ギリシャ=ラテン文化から来た概念にぴったりする韓国語はなく、神学生はテキストを丸暗記する。 信者は数とヴァイタリティはあるが質はなく、「自分たちの家族のためにだけ」祈っている。 等々…。 なかなか考えさせられる状況だ。 ある神父は韓国人のカトリック熱は4つの理由があるという。 1.韓国社会が急激に変化したので人々は内的な平和を求めている。 2.南北の分離は大きな苦しみであり、人々は救世主に解決を祈っている。 3.韓国人はもともととても宗教的だ。 4.韓国人は殉教者の勇気に感動している。(1846年に26歳で殉教した最初の韓国人司祭アンドレ・キムは国民的ヒーローらしい。教皇も今回124人の殉教者の列福を司式した。) 日本でも長崎の殉教者の列聖があったけれど、韓国のカトリック殉教者にかける思いは確かに半端ではないようだ。何しろ、殉教の巡礼地の記念館では殉教者の苦しみを追体験するために首枷をはめてもらったり、十字架に縛られて棒でたたかれたり膝を砕かれる真似をしたりすることができる。 まあ、アメリカにもキリストの受難のテーマパークがあったりフィリピンでも復活祭に十字架につけてもらう人がいたり、世界各地で十字架を背負って歩く人がいたりするのだから、そのヴァリエーションかもしれないが、少なくとも日本的な感覚ではない。 日本だとキリスト教が「欧米の宗教だ」というイメージもあり、十六世紀以来の「帝国主義」の侵略と結びつけられた歴史があるし、今でもそういう偏見はある。一方、戦後の非宗教的な日本社会で韓国の統一教会が広がった歴史もある。 イエズス会のフランスシスコ教皇は日本に宣教師として行くことが夢だったそうだ。 隠れキリシタンの歴史に感動したからだと言う。 来年はその隠れキリシタンが長崎でパリ外国宣教師のプチジャン神父のところに現われた「信徒発見」150年記念のセレモニーがある。 フランシスコ教皇は、ひょっとして本当は来年日本に行きたかったのかもしれないなと、ちらっと思う。
by mariastella
| 2014-08-31 02:37
| 宗教
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