『シェルブールの雨傘』
9月に4日間だけシャトレー座でやった『シェルブールの雨傘』劇場版がテレビで放映された。
3月ごろまでネットでも視聴できるのでリンクを貼っておく。 『シェルブールの雨傘』といえば、少女時代に字幕付きで何度か見たので、フランス語は聞いていたはずだったが、脳内では日本語の言語野にストックされていたらしく、最初にフランス語が聞こえてきたとき、なぜか、日本語ものがフランス語に訳されているような妙な感じがした。 しかしストーリーが進むにつれて、映画のあのシーンこのシーンが想起されて二重写しになる。 多くの日本人にとって、フランスでは1月6日に食べる「王のガレット」というパイがあって、仕込まれた陶器片が当たった人は冠をかぶるという習慣を初めて知ることになる映画でもあった。蒼白のカトリーヌ・ドヌーヴの金髪に金色の冠が置かれるのが印象的だった。 今度の舞台でもちゃんと再現されていた。 ところが、もっぱらそういうノスタルジックな鑑賞になるかと思っていたのだけれど、すぐに、本格的に引き込まれた。 今思うと、舞台となる1950年代終わりのフランスでは、婚外子が半数を超える今なら未婚の娘が妊娠してもスキャンダルにもならないけれど、即パニックで世間体が問題になっていたこと、68年5月革命を経て1970年代半ばにやっと妊娠中絶が合法化したこと、50年代終わりはフランスがアルジェリアで最後の植民地戦争をしていたこと、徴兵制が完全に廃止されたのは21世紀に入ってからのこと、などと、確かに隔世の感がある。 母一人娘一人の母子家庭で17歳の娘ジュヌヴィエーヴが恋をし、恋人が兵役でアルジェリアに発った後に妊娠が発覚し、戦況が悪い中、無事に帰ると確信できない恋人を待てずに、母の経済的苦境をも救ってくれる富裕な宝石商と結婚する。 最後はクリスマス前の夜に、幼女を連れたジュヌヴィエーヴがやはり男の子の父となっている元恋人のガソリンスタンドに立ち寄る、というストーリーも、まあよくある話の部類で、取り立ててドラマティックなものではない。 それなのに、登場人物の演技力が半端なものではない。 ヒロインはなんと、ジュヌヴィエーヴと同じ年、17歳のマリー・オペールで、前に『サウンド・オブ・ミュージック』の子役をやった時に見たことがあるのだが、とにかく理想のジュヌヴィエーヴ役だった。ノスタルジーがふっとぶほど胸に迫るリアリティがある。 母親役が、フランスの誇るオペラ歌手ナタリー・ドゥセというのは評判になっていた。 彼女にこの程度のミュージカルではもったいないのではないか、と思っていたが、すごい演技力で、この母親の人生、時代の背景、娘への愛と葛藤など、完璧に表現されている。 この母親の陰影に富んだ堅固な存在感があるからこそジュヌヴィエーヴの無邪気さ、はかなさ、ひたむきさ、弱さなどが引き立つ。 恋人のギイ役のヴァンサン・ニクロだけが、姿も歌も演技もいいのだが、アラフォーとなった今は、さすがに実際の17歳のマリー・オペールの傍に立つとやけに老けて見える。 そして何よりぜいたくなのは、作曲者のミシェル・ルグランと、モノクロで描いたイラストで効果的な舞台装置を造ってしまったイラストレーターのサンペ(今もバリバリの現役だ)という82歳のコンビがこの若者たちの悲恋物語を支えていることだ。 あの有名なシェルブールの雨傘のテーマがオーケストレーションされてさまざまなシーンで様々なニュアンスでたっぷりながれ、ジャズのスィングが効果的にはさまれ、それらをミシェル・ルグランが楽しそうに指揮していた。 最後に客席にいたサンペにも盛大な拍手が送られた。 この人たちの感性のみずみずしさには脱帽する。 ミシェル・ルグランは、もう30年以上前のセザール賞の授賞式で、舞台でピアノの即興演奏をしたことがすごく印象に残っている。 このミシェル・ルグランは9月シャトレー座での4日間の公演の2日後に、モナコで、40年前から付き合いのあるマーシャ・メリルと結婚したそうだ。 マーシャ・メリルはロシア革命で亡命したウクライナ貴族の末裔で、昨年だったか、プーチンの申し出たロシアパスポートをきっぱり拒絶している。 もちろん結婚歴も離婚歴もある2人だが、モナコで結婚した2日後、パリの聖アレクサンドル・ネフスキー・カテドラルでロシア正教の結婚式を挙げている。 若々しい。
by mariastella
| 2014-12-21 21:01
| 演劇
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