![]() |
![]() |
フランスのテロ事件 その3
思えば9・11の時も、家族がNYにいたりして、いろいろな情報が入ってきたが、今回のパリのテロも、当然だけれどかなりコアな情報も入るので、いろいろ考えさせられる。
昨日は、まだ人質事件が解決していない時点でコンセルヴァトワールでの室内楽の初練習に行った。 ピアノとヴァイオリンとヴィオラのトリオで、一週間の名前がついているテレマンの組曲みたいなのを次々に初見していったのだけれど、「金曜日」のイントロダクションが特に気に入った。 はじめはテロの犠牲者のために「レクイエム」を弾こうかとヴァイオリニストのジャンが言いだしていたのだが、テレマンの美しく楽しい曲に癒された。 ピアノ(実際は通奏低音部分)を弾いたコリンヌは、その時にシャルリーのテロリストが立てこもり中だった町から車で10分のところに住んでいて、途中で娘から経過を知らせる電話がきたりしたのでみんな落ち着かなかったのだ。 コリンヌの夫(クラリネット奏者)は昔19区の小学校で音楽を教えていたことがあって、今回のテロで車を運転するなどいろいろ協力したという18歳の青年(テロリストの義弟)のことをよく覚えているという。少年が絶対に歌を歌わず、縦笛を吹くことも拒否したからだ。 今回のテロリストたちの少年時代を知る人の証言で、みんなごく普通の少年(あるいは普通のチンピラ、普通の不良)だった、というようなものが流れているけれど、今から8年前にはもうテロリストたちは筋金入りのイスラム過激派に変貌していたのだから、この義弟もしっかり洗脳していて「育てて」いたのかもしれない。音楽を禁止するというのもイスラム過激派にはあるからだ。 室内楽の練習から戻って、行く前に書いていた記事をアップし、ひとりの生徒のレッスンを済ませてテレビをつけたら、テロリストたちが全員殺されていた。 パリの北郊外の印刷所で人質になっていたと言われていた26歳の男性は実はずっと隠れていてテロリストたちは彼の存在に気づかなかったそうだ。 で、その男性は携帯電話を通していろいろな情報を警察や特殊部隊に流していたと言う。 ヴァンセンヌのユダヤ人用食品スーパーに立てこもった別のテロリストも、ある人に電話した後で切るのを忘れてしまい、その人から通報された警察に通話中のままの電話を通して中の様子を逐次知られていたという。 印刷所に押入ったテロリストは「民間人は殺さない」と言ったそうだ。 シャルリー・エブドのテロ現場で隠れていて助かった人も、乱射が終わった後でテロリストが「これで全部か」と言った後、女性が生きているのを見て「女は殺さない」と言ったのを聞いている。 なんだか、やくざが親分から 「堅気の者には手を出さないように」 と言い含められているように、これは無差別テロなどではなくて 「標的を絞って処刑し、関係のない民間人は巻き込まない」 という立派な聖戦だと洗脳されている落ち着いた確信犯だと想像できる。 木曜日には女性警官が殺されたが、警官は警官というだけで立派な標的になる。 ユダヤ人向けスーパーではすぐに人質数人を殺害した模様だが、ユダヤ人は「パレスティナの報復」ということで「民間人」には入れてもらえないのだろう。 特殊部隊の突撃は、二ヶ所でほとんど同時に行われた。ヴァンセンヌの犯人がテロリスト兄弟を逃がすことを要求していたから、ばらばらに突撃することはできない。 実際は、兄弟たちは武器をもって出てきて攻撃したので殺され、ヴァンセンヌではそれを受けてすぐ突撃に入ったそうだが、その時間は犯人が祈っていた時間だと聞いた。 それは偶然ではなくて、印刷所から打って出たテロリスト兄弟は、祈りの時間だからこそ、武器を取って撃たれる「聖戦の殉死」にさらに箔がつくと見なしていたのかもしれない。 こういうディティールはすべて、カルト系テロリストを思わせる。 はじまりは社会からドロップアウトしたただの「不良」でも、軍隊の武器を手にして訓練して「戦いの大義」を叩き込まれると冷徹な「プロ」のテロリストになるという例だ。 自爆テロなら、覚醒剤とかを使ってとか、あるいは絶望してなど、異常な精神状態で突撃するというイメージもあるけれど、この手の「洗脳」されて自分たちの大義や正義を信じ切っているテロリストというのは怖いものがなく落ち着いているというのがおそろしい。 うちの家族の一人はパリの軍の病院で医学教育についての講座に出席していたのだが、出席者の半分以上がスマホに釘付けで、そのまま救急医として呼び出されて退席した人もいたそうで異様な雰囲気だったらしい。 最も影響を受けたのはやはり義妹で、各宗教界代表として緊急に大統領に呼び出された姿が水曜のテレビにもう映っていた。 今年の3月には仏教者連合の代表を辞める予定なのに災難だ。 木曜にはパリのモスクで宗教界代表が共通コメントを出して正午の黙祷をいっしょにしたのだがそれにももちろん出席した。 あちこちのモスクが攻撃されていて、テロリストと一般のイスラム教徒を混同しないようとフランスのムスリムは必死に呼びかけている。 それでも共同声明を考える時にはそれなりに難航したそうだ。 前にも書いたが、シャルリー・エブドがムスリムだけでなくあらゆる宗教(仏教は別だけど)を過激に冒涜していたというわだかまりが底に残っている。 文化的、歴史的に「共和国の敵」とされた過去のあるカトリックはもちろんだが、もともとそのカトリックを否定することで生まれたプロテスタントの方は、冒涜されたという傷が少ない。で、プロテスタント代表が、黙祷の時に例の「Je suis Charlie(私はシャルリー)」というバッジを全員つけようと提案したそうだ。 しかし、シャルリー・エブドに傷つけられてきたカトリックだのムスリムだのの心情を察し、余計なテンションを招くことは避けようと義妹が言ったので却下されたという。 百万人の人出が予想される日曜の「共和国行進」にも当然参加しなくてはならない。 日曜朝の公共放送の宗教番組でもこの宗教界代表が集まって話すことになっている。 日曜、大統領だけではなくドイツやイギリスやイタリアの首脳も参加している間はさすがに警備がマキシマムだろうが、それが終わったら速攻で帰宅すると言っている。 「出家」によって瞑想三昧の生活を目指していたはずの義妹にとって皮肉な、大忙しの毎日である。
by mariastella
| 2015-01-10 08:38
| フランス
|
![]() |
以前の記事
2022年 05月
2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月
カテゴリ
全体
雑感 宗教 フランス語 音楽 演劇 アート 踊り 猫 フランス 本 映画 哲学 陰謀論と終末論 お知らせ フェミニズム つぶやき フリーメイスン 歴史 ジャンヌ・ダルク スピリチュアル マックス・ジャコブ 死生観 沖縄 時事 ムッシュー・ムーシュ 人生 思い出 教育 グルメ 未分類
検索
タグ
フランス(885)
時事(479) カトリック(344) 宗教(334) 本(160) 歴史(151) アート(132) 政治(108) 映画(95) フランス映画(79) 音楽(69) コロナ(64) 哲学(58) フランス語(48) 死生観(40) フェミニズム(31) 猫(28) ウィーン(27) エコロジー(26) ムッシュー・ムーシュ(20)
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||