カルティエ財団で見るアルタヴァスト・ペレシャン
アルタヴァスト・ペレシャンの短編映画『住民(1970)』をカルティエ財団30年記念展で観た。
モノクロの本源的な力と強靭さと危うさをこれほど味わわせてくれる作品はない。 個体のアップと激しく動く群像が交互に畳みかけられ、光と闇や音と沈黙も含めたモンタージュの完璧な技巧が全面に出ているにも関わらず、情動を揺すぶられる。目に見えている世界の解体や脱構築がこれほど抒情的なのもめずらしい。 8分58秒で「生命」を何度もパターンにまで落とし込んでまた爆発させる手腕は化学実験みたいだ。音も一体となっていて、「プレローマ」の中に引き込まれる。寝椅子に座って鑑賞できるので、視座も変わるし体重の感じ方も変わる。 この映画のオマージュとして構成されたインスタレーションが周りにあり、フランシス・ベーコンなどいかにも、という作品も配されているが、なんといっても、デヴィット・リンチとパティ・スミスの存在感が濃い。 世の中にはこういう強烈な個性とエネルギーを持つ人たちがいて絵も映画も演劇も文学も音楽も何でもこなしてしまうんだなあと感心するが疲れもする。両者とももう60代終わりなのに、ずっと最前線でとんがった活躍をしているというのがすごい。 ペレシャンのオマージュが地下部分で、一階部分は建物全体を素材にした光のインスタレーションとなっていて時々落ちてくる水滴をセンサー付き移動バケツ・ロボットがまわって受けるなど遊びの要素が大きいし、鑑賞者が作品の内側に包まれる形で作品の一部をなしていることの規模が大きいので楽しい。 もともとこの建物は透明性、外と中の境界を取り外すみたいなコンセプトでできていて、通りから前庭を区切る巨大な透明の壁が、ゴシック大聖堂のように建物本体から伸びている梁で支えられているし、あちこちが「丸見え」状態なのだ。今回はその建物の一階の半分の透明の壁に特殊フィルムを貼り付けて「半透明性」の強度が少しずつ移り変わるようになっている。 カルティエ財団現代美術館は、パリの大通りに面したところにあるのに、「庭」を散策することができるので、規模も性格も趣向も文化も文脈も全く違うのだけれど私にとっては東京の根津美術館と同じ感じの、時々その「場所」に行きたい小美術館だ。 根津美術館の庭はよくできた日本庭園で、あちこちから集められた仏像や灯篭などが配されている。カルティエの庭は、建物の周りを囲んで20年前に設計された小さなものだけれど、いわゆる幾何学的なフランス庭園のコンセプトではなく、生物学的多様性を意識して造られているので、いろいろな珍しい鳥や虫も集まるようになったミクロコスモスになっている。 そこに、シャトーブリアンが1823年に自邸に植えた大きな杉が移植してあったり、言葉遊びの植樹(6本のイチイでdes six ifs= décisif「決定的」)や、現代彫刻がそこかしこにある。 私のお気に入りは、その6本のイチイのそばにあるブロンズ製の大きな倒木で、あまりにもリアルに溶け込んでいる。でもよく見ると、折れた部分に緑色の手の平が刻まれていてそこで雨水を受けて下に流すようになっている(建物に向かって右側。ここを訪れる時はだから日中で雨が降っていない時、でも雨が上って薄日が差してきた頃が一番いいかとも思う)。 ここでは日本のアーティストもよく登場してその中では北野武展に行ったことがあるが、建物自体のコンセプトを生かしたという点では今回のものが一番効果的だったと思う。 ショップには、これまでの展覧会のアーティストを記念する横尾忠則による肖像画作品とともに、『シャルリーエブド』テロで犠牲になったヴォランスキーのデッサン原画16点も展示されていた。アーティストがテロの標的となって殺されたことの意味をあらためて思う。
by mariastella
| 2015-02-25 05:55
| アート
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