まずは
GoogleのDom Robert画像検索で出てくるものを見てほしい。
神を信じる者にとっては、祈りであり、信じない者にとっては幸福と生命への讃歌であると言われているタペストリーの画像だ。1907年生まれで90歳で亡くなったドン・ロベールはトゥールーズの近くのベネディクト会修道院で60年を過ごした修道僧で神父だ。
この人はもともと絵が好きで、パリの装飾美術学院で学んでいたが、召命を得て修道院に入り、水彩で聖典の装飾細密画などを描いていた。1941年にタペストリー製作者に見込まれてタペストリーの下絵を描くように依頼される。もとになるデッサンを下絵に拡大したのもドン・ロベール自身だ。動植物のデッサンはすべてまず精密な観察に基づいて描かれたものだという。
自然を目にして描くことはすべて神の創造を追いかけることだと意識していたそうだ。
もしも自分が修道僧でなかったらアーティストでもなかった、と言っていたように彼のアートと信仰は切っても切り離せないがそれはライフ・スタイルの話でもあった。修道院での規則的な暮らしが精神を自由に解きはなってくれるのだそうだ。
クリュニー美術館の「一角獣と貴婦人」のタペストリーにちりばめられた動植物も有名だけれど、ドン・のそれは、シンプルで喜びに満ちていて、ある意味とてもバロックだ。直線や左右対称や安定がなくて曲線的で常に動いている。けれども強迫的なところもないし内向的なところもなく、自意識もなければもちろん商業的な思惑もない。あらゆる種類の美術批評の射程外にあった。
最晩年の写真を見ても戸外で楽しそうだ。
今年から、ドン・ロベールの作品の美術館が由緒あるソレーズの修道院(学問教育センターにもなっている)で公開されている。
アート作品を見て「癒される」という言葉を使うのはあまり好きではないのだけれど、ドン・ロベールのタペストリーを見ていると、とりあえずありがとうと言いたくなる。