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L'art de croire             竹下節子ブログ

テロリスト勧誘システム

以下は昨日の記事の補足です。

移民の子弟ではないいわゆる「普通のフランス人青年」がジハディストになる経緯について質問を受けたので書いておく。

これはたちの悪いカルト勧誘と全く同じだ。

まず、毎週教会に行くようなブルジョワ家庭の子弟。
親が子供の自由を尊重する場合はたいていの子供は堅信礼の後で教会に行かなくなる。中にはスカウト活動やボランティアなどを続ける子もいる。(このタイプはカルトにはまらない)

まじめなタイプの子供で、親や教会活動の偽善を見抜いて憎むようになる子もいる。
日曜だけミサに行ってもそれは社交のためで、実際はみな弱者を踏みつけて勝ち組であることに満足しているではないか、という類だ。罪悪感もある。(リスクグループその1)

次に、、基本ブルジョワやインテリ家庭でキリスト教の教養もあるのに68年五月革命世代で宗教から離れ無神論を掲げ、子供に宗教教育を一切しない場合、子供たちはやはり親の享楽的な生活や自由な生活のエゴイズムに反発するケースがある。(リスクグループ2)

1の子供たちはカトリックには失望しているので仏教、他のマイナー宗教、各種カルト団体に向かう場合がある。2の場合はそれ以外にカトリック原理主義グループに接近することがある。

そういった「自分さがし」や「親への反発」「不公平で偽善的な社会への不満」などの過程にある青年たちに触手を伸ばすのがカルトの勧誘だ。

青年たちが何を求めているかについてカルトが有する「マーケティング」の力は半端なものではない。
カルト的でない宗教にはまった場合は実害はない。旧仏領インドシナの仏教徒コミュニティはフランスにたくさんあるが、別に彼らは帝国主義を責めることをアイデンティティにしていない。

他のカルトグループも、若者を洗脳して社会から分断したり奴隷化することがあるが、多くは一部の指導者の富の蓄積に寄与させるもので、基本的人権の侵害、財産権の侵害以外に他者への危害を推奨することはない(それはそれで十分問題だが)。もちろんオウム真理教のように教祖のキャラクターによってはテロに向かうグループもある。

さて、そういうベースがある「先進国」でISは勧誘を始める。

ひとりのフランス人をシリアに送ることに成功した勧誘者はその度に15000ユーロの報奨金を得る。

勧誘のプロによる勧誘の方法はひたすら「愛の宗教イスラム」である。

偽善的な親、弱者をくいものにするエゴイスティックな社会、堕落、などに失望している青年、自分の未来像を描けない青年はその愛の宗教に救われる。イスラム教徒になる。フランス国内ではそれ一筋だ。

その後で人々の命が危険にさらされているシリアに旅立つ。ここまでが勧誘者の仕事で報奨金を得る。

現地で戦火で廃墟となった町を見、学校にも行けず武器を取って戦わざるを得ない孤児を見、悪の権化である英米や悪魔に魅入られた祖国フランスによる空爆(テロだと言われる)を見る。

そこではじめて「狂信」の次のステージである「怒り」に導かれる。
「怒り」のステージから、戦い、報復、悪人の殲滅のジハードのステージに行く頃は洗脳が完成しきっている。

中には「こんなはずではなかった」とISから出ようとする者ももちろんいるけれど、あっさりと殺される。

これが、「普通のフランス人」をテロリストに仕立てるプロセスで、それ自体はよくできたカルトと変わらない。

違うのは彼らには武器や石油があり、石油資本の大国から提供される潤沢な資金があるということだ。

フランスにいる段階で洗脳を解いたり、カルトにねらわれやすい潜在的な層に対して、彼らが必要としているものを民主的、互助的な世界で提供したりしなくてはならない。空爆など続けていては洗脳の手伝いをしているようなものだ。

イラク侵攻やリビア侵攻の失敗から西側大国が何も学んでいないことは、驚くべきだと思っていたが、彼らには、1990年代からの中東政策の失敗体験よりも、いまだにナチス・ドイツに勝利した成功体験の方が大きいということが分かってきた。

悪魔であるヒトラーを倒すためにはスターリンとさえ手を組んだじゃないか、という成功体験が、シリア国軍と組んだりロシアやトルコやイランと組んでともかく戦力でまさることでヒトラーならぬISを壊滅させることができるという感覚がどこかにある。

戦争による成功体験の方が戦争による失敗体験よりも使い勝手がよく、それで莫大な利益を得る者がいるということなのだろう。

金曜はすべての家庭が三色旗を掲げて、などと言われているが、私の周囲はもちろんゼロだし、批判も多いことを付け加えておく。

また非常事態宣言による裁判所の条令なしの家宅捜索でレストランに突然捜索が入りドアを壊すなどした映像が防犯カメラに映ったのを一般TVも大きく扱った。その謝罪やそのような被害は完全に賠償すると政府は言っている。メディアの自由が残されているというのは本当に大切だ。
by mariastella | 2015-11-27 00:08
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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