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L'art de croire             竹下節子ブログ

フランシスコ教皇VSドナルド・トランプ

メキシコの、合衆国(テキサス)との国境に近い地帯が、中南米各地から押し寄せる移民やギャング、マフィアの無法地帯になっていることはよく知られている。

それでも世界第2の信者数を誇るカトリック国なので、フランシスコ教皇の訪問のインパクトは大きかった。

カトリックは基本的に「国境」を認めない。

貧しい者、危険にさらされている者がより富める者やより安全な場所に身を寄せるのは当然で、「弱者にキリストを見る」ことこそキリスト教の奥義だからだ。

で、メキシコから帰る便の中で、ドナルド・トランプの難民拒否(メキシコとの国境に壁を作ってメキシコにそれを支払わせると公約)を糾弾し、「橋を築くことなしに壁を作ろうとする者はキリスト者ではない」と、断言した。「投票しろとかしないとかは言わない。ただ彼はキリスト者ではないというだけだ」と。

すると、アンチ・トランプのNYデイリー・ニュースが翌朝の一面で、トランプはアンテクリストだと報じた。

トランプは怒って、

「もしヴァティカンがISに攻撃されたら教皇は後悔し、ドナルド・トランプが大統領になりますようにと祈る、と私は約束する ! 宗教のリーダーが個人の信仰を裁くなどとは恥ずべきことだ」とぶち上げた。

2年前にフランシスコが教皇に選出された時にトランプは「僕と同じように謙虚な人、似ているから好きだ」という感じにツィートしていたのだけれど。

(The new Pope is a humble man, very much like me, which probably explains why I like him so much!)

福音派プロテスタント(共和党有権者の三分の二を占める)でアンチ・カトリックの陣営はヴァティカンの巨大な壁の写真をツィートして揶揄した。


教皇はアメリカでは保守よりも民主党の方に人気があるそうだ。(各67%, 80%、1月の調査)

うーん、ここまでだけでも突っ込みどころが多すぎて何からコメントすべきか分からない。

その上、同日夜のCNNでトランプは突然意見を変えて教皇love053.gifに戻った。

教皇はすばらしい人物で、教皇とやり合いたくない。彼のパーソナリティ、彼が体現するものを愛しているし、その役割をリスペクトする。

みたいなことを言ったのだ。

何が起こったのか?

ちなみにトランプは、父方がドイツからの移民で、母方がスコットランドだそうだ。

プロテスタントのクラシックな「長老派」で、はやりの「福音派」ではない。

自分の信仰についてこういうことを言っている。

I believe in God. I am Christian. I think The Bible is certainly, it is THE book..First Presbyterian Church in Jamaica Queens is where I went to church. I’m a Protestant, I’m a Presbyterian. And you know I’ve had a good relationship with the church over the years. I think religion is a wonderful thing. I think my religion is a wonderful religion.

神や聖書を信じていますよ、と強調することがアメリカでは必要だという20世紀タイプの人かもしれない。

それに比べると、ユダヤ人移民の子孫で無神論者だというバーニー・サンダースは20世紀のアメリカでは考えられなかったような大統領候補だ。

もっとも、無神論者だというだけではまずく、無神論なら「社会主義者」でなくては「政治的公正」が保てない。

キリスト教文化が包含していた社会政策やユニヴァーサルな福祉を、神を捨てて継承したのが「社会主義」だからだ。

アングロサクソン的なプロテスタントが任意の「慈善」の形で囲い込んだ弱者救済を、カトリックのフランシスコ教皇はメイン・メッセージとしている。

教皇ファンとサンダース支持者が重なってもおかしくない。

この選挙戦の行方を見るのは刺激的だ。
by mariastella | 2016-02-20 01:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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