「島」の学会発表ではじめて知った印象的なもう一つの「島」の話がある。
フランスとスペインの国境にある河の中州であるフェザン島(なぜか
日本語のwikipediaではフェザント島となっている)だ。
いろいろな歴史的経緯があるのだけれど、この島は、ともかく17世紀以来、半年ごとに国籍が変わるという状態が安定的に続いている。
もっとも、今のEUの定義では、ヨーロッパにおける「島」とは1平方キロメートル以上の広さで、50人以上が定住していて、ヨーロッパ大陸と1平方キロメートル以上の水面で隔てられていて、なおかつヨーロッパの国の首都を含んでいない場所、だそうだ。つまり、例えば、マルタ共和国の首都があるマルタ島は「島」ではない。
おもしろいのは、このフェザン島は基本的に無人島なのに、スペインとフランスの間で何かお祭りごとがあるごとに、人口の浮き橋や仮劇場が作られてきたことだ。
イベントスペースはフランスとスペインに区分けされていたが、行き来は可能で、たいていはスペインの兵士らがフランス側、特に食堂にやってきたという。
フランス側の対岸バイヨンヌはハムで有名だし、ワインやチーズもフランスのテーブルの方が魅力的だったのだろう。
いろいろな条約はもちろん、王女の交換(それぞれの王の妹ガ相手方の王妃として嫁ぐなど)やルイ14世とスペイン王女の見合いなど、この島で行われた。
両岸から船が同時に出発して同時に着くように演出され、祭りには、遊覧船のようなものが繰り出され、海の怪物やクジラの造りものが河面をにぎわせて、クジラは潮の代わりにワインを噴き上げた。
ルイ14世はベルサイユ宮殿でも人工島の祭典を企画したように、「島」は手ごろなユートピアの表現だった。
で、ともかく、17世紀以来この「半年」ごとの所有権の交代というのが、今も、続いている。
小さな「島」だ。
でも、戦争を繰り返したフランスとスペインの和解の象徴としてこの島が、選ばれた。
分割するのでもなく、奪ったり支配したり譲渡したりするのでもない、祝祭の場所として。
尖閣諸島だとか竹島問題だとか北方領土だとか、島国日本と隣国の間にも、もとは無人島であったにもかかわらず、紛争の種となっている島がいろいろあり、威嚇や憎悪や緊張の対象になっている。
フェザン島の歴史を知ると、当事者同士が望みさえすればユートピアだって実現できるのだ、と思わずにはいられない。