ブリュッセルのテロの話
せっかく春になって天気もいいのに、朝からブリュッセルのテロのニュースで気が重くなった。
夜のパリ10区のカフェテラスやバタクラン・ホールは、自分が普段行かないところなので実感がなかったけれど、ブリュッセルは空港の出発ロビーや都心のメトロということで、こちらの方が身近に感じられて怖い。 テレビで「なぜブリッセルなのか」という質問に対して解説があったもののうちいくつかが興味深かった。 1/ 四日前にパリのテロの実行犯がブリュッセルのモレンベークでようやく逮捕されたのでその報復か、という質問と、 2/ フランスの方が空爆しているし、政教分離でイスラム・スカーフを学校で禁じたり公共の場所で顔を隠すベールを禁じたりする法律を作っているし、狙われるのは分かるが、なぜそうではないベルギーなのか、という質問。 私は、ブリュッセルにはEUの本部があるからヨーロッパ全体に対するシンボリックな攻撃なのだろうなと思ったが、次のように説明する人がいた。 今回のテロも実はフランス用に用意されていたものだ。自分たちの「地元」を狙うより、パリに遠出をした方が効果的だ。 しかし先週、モレンベークのアジトが発見されて2人が死に1人逮捕、1人逃亡という事態になったので、パリにまで出かける人員やロジスティックが足りなくなった。 態勢立て直しをする時間がないし、逮捕された1人から他の者も割り出されるかもしれない、それなら、手近なブリュッセル、しかも手荷物検査されない空港ホールやメトロが簡単だ、と作戦変更した。 もう一つの質問について、フランスは政教分離の国で、現実はともかく表向きは一貫して移民の統合政策をとっているから、民族や宗教別の共同体が形成されにくい。現実にゲットー化している地域というのは、民族や宗教別というより、経済格差の方が問題だ。 ところがイギリスやベルギーは王家の宗教が決まっているという点で政教分離の国ではないし、その分、他の宗教が共同体を作って棲み分けることにも寛大で、実際多くの共同体がある。ベルギーなど国自体がフラマン語派とフランス語のワロン派が反目していて、棲み分けていたりする。 で、共同体の結束の強いところでは反社会的行為があってもその共同体の「仲間や家族を守る」という結束や暗黙のルールがある。その意味ではギャングやカルトに近いものもある。 そこにイスラム原理主義がつけ込んで根を張った。 テロリストをかくまうのも、主義に賛同しているというより「地域共同体の仲間」だからだ。 テロの温床にもなる。 しかし、イギリスは監視カメラの数、諜報機関の発達、島国の条件などで、テロの実行は簡単ではない。 それに比べて、ベルギーはものすごく狙いやすいというのだ。 ふーん、そう言われればそんな気もする。 ヨーロッパからシリアに行って軍事訓練を受ける若者で一番多いのがマグレブ系を中心としたフランス人で、人口の比率でいうと一番多いのがベルギー人(特にモロッコ系)だ。その彼らは、シリアで出会い、同じフランス語を話すのでなかよくなる。 それぞれの国ではマイナーな共同体にとじこめられていたのに、外国に行き、他の国の同じような立場の仲間ができ、しかも国を超えた「神」という聖なる「普遍」も手に入れることができた。 で、ヨーロッパに戻ってからは、ベルギーとフランスを行ったり来たり、共通の「聖戦」のために気分も昂揚する。 ベルギーでつるんでフランスでテロという形も整った。 なるほど。 もちろんそれだけではない。 パリのテロの実行犯にはイラク人もシリア人もいた。 去年だけでも100万人を超えるヨーロッパへの難民のうち、英米仏露の空爆に追われてきた人たちもいるし、2千人か3千人くらいは、ISのシンパであると思われるという。 現在イラク、シリアでの支配地域を減らしつつあるISは、いろいろな形でテロを展開できる。 アルカイダによる過去のアメリカでの同時多発テロのような派手なものは目指していない。 遠いし。 手ごろなヨーロッパがそばにあるし、洗脳できる若者もたくさんいるから。 と、こういう分析を聞いていると、やりきれない。 でも、70年代には極左のテロがあり、その後はアルジェリア系のテロがあり、その後は・・・・と、厳密にいえばテロのリスクが消えた時代などフランスにはなかった、という解説もあって、そういえばそうかもしれない、とも思う。 これらのことを吟味していると、最近考えている自分の新説がますます当たっているような気がしてきた。 今何をしたらいいのかについてもだんだんと見えてきた。 テロにも天災にも遭わないで生き延びることができれば、やることがたくさんある。
by mariastella
| 2016-03-23 08:07
| 雑感
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