14日、歌舞伎座公演の夜の部に行った。
彦山権現誓助剱(ちかいのすけだち)の杉坂墓所と毛谷村
そして幕間なし2時間の幻想神空海。これは新作歌舞伎。
前日のお能ベースのシュメール神話に続いて、この新作歌舞伎では唐が舞台で、楊貴妃伝説、冥界との関係、よみがえり、不老など、共通するテーマがあったので非常に興味深かった。
過去の物語を突然和服の竹本義太夫が劇中劇として語りだすなど、人やモノ、時代、時間、空間すべての区別が曖昧であり、音楽を生かした斬新な演出でそれを操る手際も共通している。
空席がけっこうあったのには驚いた。今回が初演の新作歌舞伎を敬遠した常連がいるのかもしれない。
彦山では、ヒーローの六助役の仁左衛門の表情の豊かさが抜群だった。
眉を下げて温厚そうな顔をするのが誰かに似てると思ったら『マイ・インターン』のロバート・デ・ニーロにものすごく似ている。
彼の表情の豊かさを見ているだけで楽しい。子役が大活躍だが、仁左衛門の温かさ、頼もしさが安心感、信頼感を与えているのだろう。
次の空海ものは歌舞伎という枠を超えている。
最初に若き空海役の染五郎が登場したときは、あまりにも、宝塚の男役を思わせてびっくりした。
その後も最後まで、染五郎はたたずまいも、声もセリフ回しも宝塚そのものだった。これが伝統歌舞伎の台詞だったら気がつかなかっただろうけれど。
もちろんこれはケチをつけているのでなく、今回宝塚に行けなかったので得をした気分だということだ。
実は空海が唐から戻ってきて神護寺に来た1200年記念の時に、最初京劇を上演するという企画があって、唐での空海を主人公にしたシナリオを書かないかという提案をされたことがある。橘逸勢との冒険を考えていたのだけれど、そのころすでにこの夢枕獏さんの作品があったことを知らなかった。
白楽天や楊貴妃まで動員するなんてすごい想像力だ。結局その企画は実現しなかったのだけれど、いろいろ考えたことがあるので感慨深い。
今回の演出は「武具馬具が揃ったところで、巨大な玩具箱をひっくり返す」と演出家が書いている言葉がぴったりだ。回り舞台も駆使し、仕掛けもたくさんあって、「見世物」の楽しさがある。
それに比べると、確かに昨日の安田さんの舞台は「神事」に近かった。
歌舞伎のひと月近い公演と違って1回性の能舞台とのメンタリティの違いがそこで顕著になる。
(といっても、安田さんなら、予算と手段があればよろこんで「巨大な玩具箱をひっくり返」しそうな気もするけれど…)