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L'art de croire             竹下節子ブログ

パラリンピックのディスクール

パラリンピックの報道のされ方にいつもなんとなく違和感を抱いていた。

それを言うならオリンピックの報道にも満載の感動ストーリーやナショナリズムぶりにも違和感があるのだが、そちらについては割と簡単に表明できるのでフラストレーションがない。

「一切関心がない、」と切り捨てても別に非難されない。

でも、パラリンピックに関しては、なんとなくタブーがあって、違和感の正体を自分でも探れない部分があった。

ラジオで、「パラ」というネーミングが悪い、ギリシャ語のパラは、「副」というかサイドというか、本流ではない感じでよくない、という人がいた。思わず聞き耳を立てた。

「障碍者」のパフォーマンスは「本」オリンピックのアスリートよりもすごい、これは「パラ」ではなく、「超人オリンピック」と呼ぶべきだ、というのだった。

私の漠然と思っているのとちょっと違った。

夜のテレビニュースではパラリンピックの発祥地イギリスではパラリンピックのテレビ中継の数がフランスよりもずっと多い、アスリートのスポット映像もたくさんある、手話だけのコマーシャル(字幕が出る)も登場した、それに比べてフランスは意識が低い、みたいな感じでイギリスの映像がいろいろ紹介されていた。

あるアスリートが、競技場のトラックに立って、おもむろに義足を外す。そして片足ですごい勢いでぴょんぴょん跳ねて、高跳びのバーを超えるものがあった。

信じられない。

自分と比べるのも意味がないが、私が両足で走ってももちろんああいうパフォーマンスはできない。

パラリンピックの発祥が、障碍者のリハビリからきていること、他人との競争ではなくて、「自分の限界に挑戦してそれを超える」ところに意義があるのだ、「人間ってすごい」というところがその意義なのだとしたら、確かに超人オリンピックともいえる。

でもそれをやはり国別、選手別に競い合っているわけだから、かなり無理がある。

障碍の「現状」は似ていても、それが生まれつき、幼いころ、事故、病気、もともとのアスリートが事故にあった、など、いろいろなケースがあるだろうから、比べて競い合う方がそもそも無理だ。

新学期でトリオの練習を再開したので、仲間たちの意見を聞くと、もともと感受性が似ているうえ、長年アンサンブルを組んで三つ子のようにつながっているだけあって、みな私と同じような違和感を抱いていた。
でもみな少しずつ違う。

最大の違和感は、パラリンピックが「超人」というか、結局、「努力物語」はオリンピックと同じでも、違いは感動が「障碍者でも健常者を超えるパフォーマンスができるすごさ」とセットになっているところだ。

問題は、(例外的な)障碍者が(普通の)健常者を超えるすごさを認識させることではない。

世間には(普通の)障碍者が、普通の生活をするのにハンディとなるような仕組みがたくさんある。

バリアフリーになっていないことや視覚障害者や盲導犬のためのセキュリティの問題点など、数えればきりがないのに、それを見て見ぬふりをして、特別な能力のある障碍者のパフォーマンスばかりをはやしたてたりすることが我慢できない、と仲間の一人はいった。

もう一つは知的障碍者の存在だ。
パラリンピックでの「限界の挑戦」の感動は、結局、身体障碍者が身体障碍を乗り越えて「身体の強さ」を獲得し、「可能性」を広げる物語であって、知的障碍者の場所はない。
もっとも、ある種の発達障害(アスペルガーなど)の人が身体障碍も持つときは、規則正しい苦しい訓練に耐えるので、すばらしい結果に到達することがある。
「普通の人」なら苦しいといやになり、くじけて、プレッシャーにつぶされたり逃避したりあきらめたり絶望したりするところで、ある種の人は「空気を読まぬ」まま確固として努力を続けるからだ。

同じ才能があるならアスペルガーの人の方が遠いところにまで到達する可能性が大きい。
これは「当事者」と共に話し合ったものである。

私たちはパラリンピックにまつわるディスクールの中にある偽善や倒錯について話した。

もちろん個々のアスリートに対する批判などは一筋もない。驚嘆し尊敬するばかりだし、力ももらえる。

この乖離こそが、これを話題にすることの難しさを形成している。

個人的に言えば、脳梗塞などでいったん半身不随になった学者などが不屈の意思でリハビリして、指一本でキイボードを打ちながらすばらしい仕事を続ける、というようなケースの方が、感動し力づけられる。
頭さえはっきりしているなら、体がかなり弱っても、年をとっても、自分のできるだけのことをしたいと思うし、そういう風に過ごしている先人を見ると心から尊敬する。勇気や希望ももらえる。
多田 富雄さんのケースなどはその最たるものだった。

私にとってはパラリンピックで繰り広げられる超人の技から得られるものよりも強烈だ。

また、そういう「限界を超える」超人にはなれなくて、いったん倒れたらそのまま弱って亡くなった人、両親を含めて、そのような身近な多くの人からも、別の意味でいろいろな気づきをもらえる。
力以外の生き方、この世での生き方以外の生き方、などについてもだ。

人間は自分自身だけをとってみても、一生のいろいろな時点で心身状態が多様だし、周りの人もみんな「違う」のに、その「違い方」のとらえ方の恣意性になかなか気づかない。

私と縁のない「スポーツの祭典」のようなものが、そういうことを、考えさせてくれる。
by mariastella | 2016-09-10 23:32 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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