11月後半から新しい仕事に専念するつもりで、少しの間、テーマとは別の本を読む贅沢を味わった。この本はシリーズで、いつも最高に面白い。
なんでもネットで検索できる時代でも、圧倒的に豊かで整理された上質の情報が編集されているこのような本を読むのは至福の時だ。
“Hisoire des émotions” (Seuil) の
1巻と
2巻だ。
情動、感動というものの文化史という感じで、ヨーロッパにおいて人間の感動表現がいつどうして生まれて受容され展開されて行ったかが豊富な図版と共に紹介される。
ぱらぱらと読んでいるだけでも発見の連続で楽しいが、私が真っ先に読んだのは、もちろん、第一巻で、Gilles Cantagrel というバッハ研究者でバロック音楽学者の受け持つ項目『L'émotion musicale à l'âge baroque』(バロック時代の音楽的情動)というやつだ。
16世紀までは、神へ捧げる賛歌は中世の神学と同じで完璧な秩序によって高みへ上ろうとしたポリフォニーで、そこには人間的な「情動」がなかったが、ギリシャ演劇の復活の試みと共に「人間の情動の演出」が生まれていった経緯が語られる。
音楽がディスクールになること、作曲者と演奏家のレトリックとロゴスが聴衆のパトスを喚起することなど、これまでに何度も読み、弾き、聴いてきたことではあるが、非常に明快にまとめられていて分かりやすい。
音楽がディスクールになることと、ダンスがディスクールになることの関係をもっとパラレルに考えてみたい。