元日のウィーンフィルの新年コンサートをTVで聴いて、はじめてグスターボ・ドゥダメルの指揮を見た。
もうウィーンフィルとは何度も共演しているとはいえ、35歳の若いベネズエラ人と、「老舗」ウィーンフィルの面々の取り合わせは不思議な感興を呼び覚ます。
ドゥダメルは、ベネズエラの音楽教育システム「エル・システマ」の出身者で、ロサンジェルス・フィルの音楽監督となった今も、積極的に故郷の子供たちのために献身しているそうだ。
とても楽しそうで、エル・システマのユース・オーケストラを振るときも、ウィーンフィルを振るときも、同じ自然体というのがいい。
アメリカ型の新自由主義に反旗を翻すベネズエラの音楽政策の勝利というのも気持ちがいい。
ベネズエラの音楽にキューバの医学。
どちらも人間を育て、癒す。
ドゥダメルを愛する人たちはその生き方そのものも愛しているのだ。
エル・システマには「ホワイトハンド」コーラスというのがあって、肉体的・精神的障害を持つ子供たちと白い手袋をした手の動きで歌う聴覚障害・聾唖の子供たちがからなる合唱団だそうだ。
どんなものかと思っていたが、ドゥダメルを見ていると、その意味が分かる。
指揮するドゥダメルが、振付師に似ているからだ。
特に、時々、両手をおろして、まるでタクトを振るのをやめてしまったかのように見えるとき、彼が、オーケストラと一緒に「踊っている」こと、「指揮は振付けなのだ」ということが分かる。
「ジェスチャーによるコーラス」との距離は近い。
というより、内的な振付なしの音楽なんて考えられない。
以前に、聴覚障碍者のために、全身に振動で音楽を伝える活動をしていた方とお話したことがあったけれど、音楽を発する側も全知覚、全人間的なものだと分かる。
音楽とダンスの関係についてあらためてヒントを得ることができた。