連載中の「フランスとイスラム」はまだまだ延々と続くのだけれど、このところおもしろいニュースがありすぎるので少し寄り道。
その一つは、ただいまフランス大統領選キャンペーン中の極右FNの党首マリーヌ・ル・ペンがレバノンを訪問して、火曜日にベイルートのモスクでスンニー派のトップであるグラン・ムフティと会見する前に、スカーフで頭を覆うことを拒否したニュースだ。
彼女はエジプトで2015年5月にやはりスンニー派のトップと会見した時にもイスラム・スカーフを強要されなかったことを根拠にして拒絶した。
彼女は前日にそのことを伝えてあり、返事がなかったので問題ないと思った、と言い、ムフティの側はスカーフ着用は義務であることを伝えてあると言い、くいちがっている。
レバノンはもともと中東の真ん中に、英仏が「キリスト教の飛び地、緩衝地帯」として人工的に国境線を引いた国だが、今はイスラム勢力の方が強い。
ル・ペンは、公立学校や役所だけではなく公共の場所でのユダヤの帽子のキッパやイスラムスカーフの着用禁止の法律を提唱しているぐらいだから、彼女のこの「毅然とした態度」には、FNの支持者からは好意的に受け止められた。「フランスと全世界の女性に向けた自由と解放の素晴らしいメッセージだ」と、マリーヌの右腕であるフロリアン・フィリポがすぐにTweetした。
マリーヌは、自分はイスラムに偏見を持っているわけではない、イスラム過激派と戦うだけだ、グラン・ムフティへのリスペクトの気持ちは変わらない、と弁解した。
ううーん、わざわざイスラム圏の国に出かけて行ってしかもその宗教施設でそこのトップに会うのだから、向こうの習慣をリスペクトするのは当然だという気もする。ただし、仏教寺院で靴を脱げといわれれば、男女とも同じだし、床を汚さないという礼儀もあるからマリーヌも従ったと思う。モスクで女性だけが髪を覆うことは、衛生上の理由も考えられない。
このことについての私の個人的感想については前にわりと詳しく書いたことがある。
そちらの記事をまず読んでほしい。
数年前にプラハのシナゴーグでの体験から感じた本音だ。
私は前にマリーヌ・ル・ペンだけは、「女性政治家」のステレオタイプに入れられない特異な存在だということも
書いたことがある。
しかし、確かに、モスクの中では、彼女は「政治家」である前に「女性」認定されるのであり、向こうが求めるそのアイデンティティに課せられる規則を受け入れないのなら、拒否される。
いや、ニュアンスは少し違うかもしれない。ヴェールを被ることを拒否したのはマリーヌで、彼女はかぶり物のない頭のまま突破しようとして排除されたのではなく自分から出て行った。
この段階では彼女は別にフランスの外交官でもないし、いわゆる公式訪問というわけでもない。
だから、彼女のとった行動自体は日頃の主張と整合性がある。
こういうケースを想定してわざと仕掛けた、というよりは、かぶり物のない頭でモスクの指導者と会見している写真をねらっていたのかもしれない。
後日談をもう少し観察していきたい。