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L'art de croire             竹下節子ブログ

フランス大統領選の特殊性とガエル・ジロー

フランスにおける大統領選の意味の変遷について書いた記事を読んだ(La Vie No 3738)。

私の実感とぴったりだったので以下に要約して紹介する。

まず、大統領選はフランスにおける真の国家的典礼である。

この典礼によって大統領は世俗宗教の司祭となり、フランスのプロジェクトを告げる預言者となり、「絶対」幻想にある国家の王となる。

ところが、以前の7年任期が今世紀に入って5年に短縮されて以来、そして特にこの10年の2人の大統領、ヒステリックで多動的なサルコジとその反動のように「ノーマル」さを強調した凡庸なオランドの時代に「大統領」の権威は綻びを見せてきた。しかも、二大政党がアメリカにならった予備戦で、党候補の立候補者同士を戦わせて大騒ぎすることで、党候補はますますオーラを失った。

その結果、「共和国」普遍宗教に対して、不可知論者、懐疑論者が増加することになった。
(過去にカトリック教会や王政の権威から人々が離れていくのと似ている)

グローバリゼーションの中で、国の主権はダメージを受け、流動的社会、自己中心主義文化の中で「フランスのプロジェクト」は溶解した。第五共和国の神秘的なサイクルはただの政治問題になり、一部の活動家が必死で船をこいでいる周りで、選挙人はばらばらに浮かんでいる。

この状況を救おうと、有力候補たちはメガ宗教のようなマーケティングを駆使して、ミーティングに多くの熱狂的な支持者を集め、右派だろうと左派だろうと国家が大声で歌われ、国旗が振り回される。 

人々は、何をどうしたいかのかは分からないまま、何かをしたいことだけは分かっている。
保守と革新という今までの二分法ではなく、人々の期待が4人、5人という候補に分散したのは、人々が主権者は自分たちだということを思い出したからだろうか。

マクロンは新しい階級のオプティミズムを体現し、メランションは大衆の声を聞き取れるようにしてみせた。フィヨンは隠れたフランスを覚醒させようとする。

フランス人は、自分たちの声を聞いてフランスを運転する大統領を求めているので、自分たちの代わりに考える大統領を求めているのではない。共和国の「超越」は、個々の選挙公約ではなく未来のプロジェクトの投影を求めている。
フランスとは普遍の同義語だった。投票所では、個人の利害を超えた実存的な選択がなされる。

フランス人であることは何なのかを語ることができるのはいったい誰だろうか?

以上だ。

というわけだが、決選投票にはマリーヌ・ル・ペンとエマニュエル・マクロンが残った。

このままいくと、マクロン優位は間違いない。
けれどもマクロンのやり方はすでに、ネオリベラルの既成路線を走っている。
社会党の活動はすでに、金融機関に支えられていた。

マルチナショナルな金融機関が政治活動と癒着した新自由主義体制は限界に達しつつある。
このままいくと2008年を超える経済危機が起こると警告する経済学者は少なくない。

国際金融機関のトップにいたような人が「回心」したり「転向」したりして「反体制」に向かっている。

IMFを批判する側に回ったアメリカのスティグリッツ、
財界グループのトップであったのに、国際金融資本サイドと袂を分かつことになったイギリスの元金融庁長官アデア・ターナー、
そして、最近フランス語に訳されたターナーの『債務、さもなくば悪魔』の序文を書いたのがフランスのガエル・ジローだ。

最後のこの人は私好みのユニークな経歴を持つ。まだ47歳。
アンリ四世校から高等師範学校、ポリテクニック、などエリート校を次々と経て、経済学者、応用数学博士などとなり、ヨーロッパ銀行の顧問としてばりばり活躍していたのに、突然すべてを捨てて研究生活に入った。。
そして、2004年、34歳、受難のイエスとほぼ同じ年、イエズス会に入ったのだ。
(マクロンがロスチャイルド銀行を離れて大統領の秘書としてエリゼ宮に入ったのも同じ年齢だった。)

あるリセの生徒向けに『渇きへの道』という戯曲も書いている。
現代に生きるイグナチオ青年が、経済的な野心を棄てて魂の道を回復する物語だ。
これを書いた2013年にガエル・ジローは叙階された。そしてすぐに『金融の幻想』という金融界の内部告発本を発表している。
今は国立科学研究センターの経済部門やフランス開発局のトップの座にある。
今やドグマ化している新自由主義〈やみくもな規制緩和や国家の撤退、市場効率主義など)のエラーを認めて改革しない限り、危険なポピュリズムの拡大と戦争の悲劇は免れない、というジローの言葉は広くリスペクトされている。

日本でも有名になったトマ・ピケティともいろいろな意見の交換をしているが、アフリカなどの「現場」を知らないピケティに対して、理論だけでなく実際も知り尽くしているジローの分析は説得力がある。(続く)
by mariastella | 2017-04-27 16:11 | フランス
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