人気ブログランキング | 話題のタグを見る

L'art de croire             竹下節子ブログ

中南米のカップル事情

サイトの掲示板で、ヴェルデFさんという方が、

>>2005年頃、メキシコの日系企業の工場で働いていたとき、メキシコ人工場労働者200名増員する為の採用契約で、Casado(a), Soltero(a)のほかに、Union Libreと申告している人が複数おりました。メキシコ国におけるUnion Libreの法律的意味はそのとき一応調べましたが(…)<<<

と書いていらっしゃったので私もメキシコのUnion Libre(free union)(日本風にいうと事実婚や同棲?)について検索してみたら驚いた。

私のイメージではラテンアメリカはカトリックの影響が強いカトリック文化圏だから法律婚はもちろん教会での結婚が主流だろうと思っていたからだ。事実は、この500年来、ラテン・アメリカは、事実婚や「婚外子」の割合が、西欧由来の文化圏では突出して多い地域だったのだ。

それについて明快に解説する論文も見つけて読んだ。(今世紀のデータはないが。)

中南米でも、メキシコ、ペルー、ボリビアなど先住民インディオの分布が多いところと、人口密度がもともと低かったところとでは、スペイン人の入植者と西アフリカからの黒人奴隷に対する人口の割合が違う。そのバランスによって、結婚事情も違ってきた。

スペイン政府は、もともと、スペイン人とインディオの結婚を推奨していた。スペインの男と資産を持つインディオの娘の結婚の政治的、経済的価値を鑑みたからだ。当時、スペイン人の入植者の男女比は10対1だったので、必要に迫られたともいえる。
ところが、「奴隷」である黒人女性との結婚は禁止されていた。資産価値がない。
黒人奴隷の男女比は2対1だったそうだ。なんとなく労働力になる男の方が多いと思っていたけれど、「家事労働」や男たちを支える女が必要だったのだろうか。だから、黒人の方がインディオよりも女性が「余っていた」わけで、結婚が禁止されていても黒人女性といっしょになるスペイン人が少なくなかった。
また、インディオ女性といっしょになる場合でも、入植者の多くはスペインに妻子を残していたから、そもそも法律的にも宗教的にも結婚はできない。
だから、この時代、中南米の非婚カップルの割合は、スペイン本国の4倍にも上ったという。
そのスペインですら、レコンキスタでカトリックを回復したばかりの当時、英独仏などの国に比べると非婚カップルの数がずっと多かったのだそうだ。

宗教改革の時代でもあり、1563年にカトリック教会がトリエンテの公会議で、カトリックの婚姻制度を厳正化した。
けれども、中南米ははるかに遠い。
前述したような状況もあって、中南米の非婚カップル事情は「お目こぼし」となったのだ。「結婚しないで家庭をつくる」ということが、そもそものはじめから広がり受け入れられたわけである。

もちろん結婚した人たちもいる。先住民はもともと生活に宗教の「典礼」が浸透していたから、それがカトリックにとって換わるのも抵抗がなかった。

ところが、1980年代までアルゼンチンやブラジルでは「離婚」が法制化されていなかったように、一度結婚して別れた場合、二度目の結婚は当然ながら「事実婚」でしかない。ますます非婚カップルが増える。

統計の数値などが出てきたのは1950年頃からだが、今の「非婚カップル」のプロフィールは、若く、低学歴、低収入というというものらしい。別れる率も多く、逆に生活が安定して年齢が上がってから「結婚」を選ぶこともある。

カトリック教会も、昔はともかく、いまでも離婚自体は難しくても、カップルのどちらにも結婚歴がなければ非婚自体にはクレームがつかない。当然、別れて何度別の人とカップルを形成しても、「離婚」ということにはならない。子供の洗礼や教育にも支障がない。
今や、「お目こぼし」はカトリック教会の本場だったヨーロッパにも広がっている。
今の教皇がアルゼンチンの出身であるという意味もあらたに考えさせられる。

しかし、メキシコと同じくインディオの数が多かったグアテマラなど、1950年の時点でカップルの70%が非婚だったなどというのを見ると驚きを禁じ得ない。(20世紀末では40%に減っている。内戦もあったから事情はさらに複合的だけれど。)

いろいろなことを考えさせてもらった。

(ユニオン・リーブルというのは日本語で何というのかと思ってグーグル翻訳を検索したら「出来合い」と出てきた…)


by mariastella | 2017-05-18 06:49 | 雑感
<< ニコラ・ユロー環境相の意味、マ... マクロン内閣はやっぱり… ジェ... >>



竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

by mariastella
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
カテゴリ
検索
タグ
最新の記事
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧