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L'art de croire             竹下節子ブログ

北朝鮮と日米仏とシビリアン・コントロール

天木直人さんのブログで軍事のシビリアンコントロールについて考えさせられた。

 >>>たったいまNHKの正午のニュースが、岸田防衛大臣が記者団に対し、北朝鮮による今回の弾道ミサイルの発射を踏まえ、きょう30日午前、九州西方から朝鮮半島沖にかけての空域で、航空自衛隊とアメリカ空軍による共同訓練を実施したことを明らかにしたと報じた。(・・・)

  このタイミングで米軍と共同訓練することの危険性はあまりにも大きい。

 北朝鮮が繰り返し言い続けて来た事は、北朝鮮の目と鼻の先で米韓共同訓練をやめろということだ。

 挑発行為を繰り返すから、北朝鮮はミサイル実験を繰り返し、断固戦うという瀬戸際政策を取らざるを得ないのだ。

 米韓と北朝鮮は、あくまでも休戦状態でしかなく、依然として朝鮮戦争を戦っているのだから、米韓が共同軍事演習を重ねる事はまだ理解できる。

 しかし、憲法9条を持った日本が、米韓と北朝鮮の戦いに参加してどうする。

 この日米共同軍事演習は、日本が率先して北朝鮮との戦争に加わるようなものなのだ。

 その違憲性と危険性をいくら強調しても強調し過ぎる事はない。

 しかし、私が衝撃を受けたのはそれだけではない。

 この日米共同軍事演習が大臣不在で決定されたことだ。

 いうまでもなく岸田防衛大臣は防衛大臣になったばかりだ。

 日米共同軍事演習の決定が急に下されたなどという事はあり得ない。

 岸田外相が防衛大臣を兼任する前に決まっていたはずだ。

 防衛大臣を兼任したばなりの岸田大臣は、それを追認して発表したに過ぎない。

 そして2日前までは防衛大臣は稲田大臣だ。

 稲田大臣が防衛省の制服組から相手にされていなかった事は日報疑惑問題の迷走で明らかだ。 
  これを要するに、北朝鮮との戦争につながりかねない日米共同軍事演習の決定が、防衛大臣不在のまま米軍の命令で航空自衛隊との間で進められ、決定されていたと言う事である。

 これ以上ないシビリアンコントロールの逸脱だ。(・・・)

  日本は国民がコントロールできないところで戦争できる国になりつつある。

 はたして野党は8月初めにも行われる日報疑惑に関する国会閉会中審議で、この日米共同軍事演習に関するシビリアンコントロールの逸脱について追及するのだろうか。

 おそらく辞めた後の稲田前防衛相のウソ答弁の追及ばかりに終始するのではないか。

 もしそうだとしたら、この国の政治は国民を守る事は出来ないということだ。

 たとえ間違って野党が政権を取ったとしても、米軍の日本支配は何も変わらない、変えることは出来ない<<<<


というものだ。

これを読んで、まず、先日からのフランスでの大統領と参謀総長との確執、その中で、大統領が首相を通して任命した女性軍事大臣がほとんど一言も発しなかったこと、などの経緯とのあまりの違いに愕然とする。

日本の首相が防衛大学校の卒業式で自分が自衛隊のトップだと強調する姿とマクロンが「ぼくが一番」と肩をいからせる姿は少し似ているけれど、マクロンは少なくとも国民の直接選挙で選ばれている。

それでさえ、ド・ヴィリエ将軍は、文官による軍のコントロールは大統領の独断ではなく議会における討論を経るべきだと言っていた。

生きるか死ぬか、殺すか殺されるかのような「軍事」に関する決定は、まさに人の「命」にかかわるものだから、慎重すぎるほど慎重にしても、ある意味で「瀆聖」である、という直感は、遠くから手を汚さずに司令する人にではなく現場にいる人にこそ働くものだろう。

それに対して、いくら自衛隊は軍隊でないとか戦闘には関わらないとか言っても、アフリカに派遣されたり軍事演習に参加したりする時点で、「自衛隊のトップ」の文官である首相が、ここまで「不在感を隠さない」というのは、例の「日本は主権国ではない」説を裏付けるものなのだろうか。

ネットで読んでいる週刊誌の記事にはこういうものがあった。

週刊新潮8/3号の宮家邦彦さんの『国際問題--鳥の目 虫の目 魚の目』というコラムだ。

彼は、自衛隊派遣現場の日誌など、もともと非公開の性格の情報を公開しないものは必ずしも「隠蔽」ではない、としたうえで、

「文民たる政治家が軍隊を統制することであり、軍事に対する政治の優先を意味する」

という「シビリアンコントロール」の定義に注釈をつける。

>>>真の文民統制とは、防衛省内局を含む文民が自衛隊の一挙手一投足を管理することではなく、自衛官(軍人)に政治責任を負わせてはならないということ。<<<

というのだ。

フランスの場合は、フランス政府の政治的判断による広域派兵に対して圧倒的に予算が足りていない現状に対して参謀総長が異議を唱えたことで大統領と衝突した。

日本とはいろいろな意味でまったく事情は違うけれど、共通しているのは、どの国の政府も、基本は、シビリアンコントロールによって「軍を管理」するのでなく「危機の管理」を優先させるべきだということだろう。

グローバルな時代のリスク・マネージメントは複合的だ。

核兵器を開発して人類を全滅させる潜在力が生まれたり、核エネルギーで地球全体の環境を破壊したり、と、リスクは、昔は考えられなかったような超複雑系になっている。

もはや、「一国の主権が隣国に脅かされる」、などといったナショナルな視座に立ってだけで判断できるようなものではない。

どんなに頭のいいエリートのリーダーがいても、すべてをカバーできない。

歴史学、地政学、経済学、自然科学、社会学を超えたグローバルな集合知が必要とされる。

一人ひとり、あるいは一国、一地域のエゴのレベルの危機管理はもはや意味がないのだ。

でも、今の時代だからこそ、IT技術を介した「正しい(つまりすべての人の尊厳を個々の共同体の利権より優先する)集合知」を築いていける可能性もないではない。

早い話、私がもしも、わずか100年とか150年前に日本の女性として生まれていたら、自分の家族とかご近所とか世間さま以上のものに目を向けていただろうか?

いや、50年前でも、ヨーロッパの情報など「教科書」程度しか知らなかったし、フランスに来たら来たで、日本の情報にうとくなったので、全体の相関性がうまくつかめなかった。だから、むしろ歴史や文献をさかのぼって、「特殊の中の普遍」をさかのぼるような形で比較文化史や宗教史を研究してきたのだ。

でも今は、国立図書館の膨大な資料も、主要大学の博士論文や学術雑誌の論文も、その解説も、毎日の各国ニュースや雑誌記事や市井の人々の反応まで自宅のパソコンの中で読める。

毎日毎日、入ってくるさまざまな情報を「グローバルな危機管理」に向けた有機的な集合知の形成というベクトルをもって篩にかけることも可能だ。

「正しい集合知」の形成がどこれからの世界のような展開を見せるのか、知的な興奮をかきたてられる。

そのためには長生きしたいが、地球にも、長生きしてほしい。


by mariastella | 2017-07-31 00:44 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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