「赤いキリスト」チェ・ゲバラの回想10月9日は、チェ・ゲバラが死んでちょうど50年目だった。 1ドルが360円の固定為替で、パスポートも一回限定みたいな半世紀前の日本の高校生だった私に、ボリビアで殺されたゲリラのニュースがあれほど衝撃的だったのはいったいなぜだろう。 今ちょうど、「神、金、革命」の執筆を再開して、「革命から、神、金」へと回収されていった例としてゲバラのことを書いていたので、あらためて感慨を覚えた。 あの頃すでにキューバが徹底してゲバラを神格化するのに成功していたということだろうか。いやあの時点ではまだ「英雄」だった。 共産主義国家となったキューバといえども、カトリック文化は浸みわたっている。 ゲバラがイエス・キリストと同じ30代(39歳)で殺されたことではじめて、革命の「英雄」から、「殉教者」「殉教聖人」への格上げ、いや、その死に顔の映像が「イエス・キリスト」にそっくりだ(ゲバラがスモーカーになったのもイエスのように髭をはやしたのも、ゲリラ戦中にジャングルでの蚊の攻撃を防ぐためだったと言われる)というので、ゲバラのキリスト(=メシア、救世主)化の路線ができたのだと思う。 その時点ではまさかフィデル・カストロもゲバラと同世代(2歳年上)の自分が90歳まで生き延びて共産圏の崩壊を目にしたりローマ法王の調停を歓迎したりするなどとは思っても見なかっただろう。 革命の勇士を「神」と祀りあげるためにいろいろな演出がなされた。 そして、ラテンアメリカの「神」と、「死者の祭」は切り離すことができない。 で、ゲバラの「聖遺物」探索がはじまった。 ゲバラの遺体から両腕が切り離されて25cmのガラス瓶にホルマリン漬けされたという話にもすでに「聖遺物」幻想がある。(その聖遺物は1969年にボリビアの内務大臣からデスマスクと共にジャーナリストに託されてキューバに届いたという。石膏のデスマスクには髭や髪がついていた。) キューバとボリビアの国交が回復した時に、キューバは歴史学者をボリビアの大使館に送って、ゲバラの腕時計や愛用のカップなどを見つけてキューバに送らせた。 ゲバラの異名は「赤いキリスト」である。 ボリビアはと言えば、独立後のボリビア革命によってインディオの権利を認めたりしていたのに、何度も何度も覆った。要するに、錫鉱山や天然ガスなどの資源をめぐって、アメリカが「傀儡政権」を通して利益をひとり占めしようとしたからだ。 ゲバラはCIAの指示でボリビア軍に殺された。 イエスの頃のユダ王国がローマ帝国の属国だったことと重ね合わせて、CIAがローマ帝国で、ボリビア軍がユダヤの既得権益者にあたると形容された所以だ。 今からちょうど20年前にゲバラの遺体がボリビアの空港滑走路脇で発掘されたという話にも怪しい部分がたくさんある。 ハバナの法医学者が調査隊を率いたこと、TVが賞金までかけて大騒ぎした後、「発掘」は結局秘密裏に行われ、3日間はメディアに伏せられ、アルゼンチン人の法医学者はその後にしかチェックできなかった。 しかも、DNA検査がされていない。遺体に両手がなかったこと、骨がホルマリンで変色していたこと、歯や眼窩の形でゲバラだと断定された。 発掘の責任者はボリビア人だが、もとキューバのボリビア大使でカストロ議長と親しい人物だった。 遺体は大々的にキューバのメモリアルホールに埋葬された。 他にもいろいろある。その「怪しさ」は、十字軍時代の「聖遺物」ブームと共通するあやしさだ。殉教者の「聖遺物」がブームとなったのは、それを手に入れた修道院や教会が巡礼地となって「経済効果」があったからだ。 古代ローマ世界の殉教者たちの「聖遺骨」が、ヨーロッパ中で崇敬されたように、ゲバラは故郷のアルゼンチンから切り離されて、聖遺物を基盤とする普遍的なイコンとなった。 ゲバラの肖像は、Tシャツ、キーホルダー、ありとあらゆるグッズとなっている。 カトリック世界で、今でも十字架やロザリオや各種聖人のカード、聖遺物(墓の土など)が配されたメダル、ペンダントトップが人気だ。「信者」でなくともアクセサリーとして、あるいは単なるお守りグッズとしてそれを身につける人もたくさんいる。同じように、「聖ゲバラ」グッズを購入する人たちはゲリラでも革命家でもない。 ゲバラは神格化され、すべての「神」のように、グッズに姿を変えた。 ゲバラのキーホルダーを購入する人は、ゲリラなんかにならない。 お守り十字架を購入する人は、自分や自分たちのためにお願い事をする。 ゲバラは五人の子供に手紙を残している。 「(…)君たちの父は、考えに従って行動し、信念に忠実な男だった。 良き革命家として大きくなりなさい。(…) 世界のいかなるところで誰に対してなされる不正に対しても、君たちの最も深いところで、感じることができるようにしなさい。それこそが革命家の最も美しい長所なのだから」 ナザレのイエスが福音書の中で言い残したことと変わらない。 自分はイエス・キリストではない、十字架にかけられるよりも武器を取って敵と戦う、とゲバラは言っていた。 「世界のあらゆるところで繰り広げられる不正を解消するために行動を起こす共感の力」の大切さを訴え、それが革命家の最も美しい長所だという部分はイエスと変わらない。イエスの行動も、剣をとって戦う「革命家」よりももっと「危険」だと見なされたからこそ、捕らえられて殺されたのだろう。 時代が変わっても、 不正と戦い、弱者を護るために強者に立ち向かう人は、 殺された後で多くの人の罪悪感を刺激して、 「英雄」「聖人」「神」 と仕立て上げられることで「毒気」を抜かれ、 偶像(アイドル)崇拝のグッズとなって経済を活性化するのかもしれない。 ゲバラの死にあれほど衝撃を受けた半世紀前の高校生の心の「最も深いところ」に合ったものをもう一度見つめたい。
by mariastella
| 2017-10-10 02:18
| 雑感
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