最近見たフランス映画2本を紹介。
まず、ラップ界の大スターでアイドルであるという27歳のネクフーと、大御所カトリーヌ・ドヌーヴが、すべての差を乗り越えて心を通わせる話だという『Tout nous sépare (すべてが私たちを分かつ)』というスリラー。
ドヌーヴは未亡人で夫の後を継ぎぐ港湾の工場の経営者、その娘のダイアン・クルーガー(41歳)は、事故のせいでケロイドや障害が残り母の家に住みながらドラッグ中毒になり売人ルドルフと付き合っているが彼に暴力を振るわれた時にパニックで彼を殴って殺してしまう。
ルドルフはベン(ネクフー)ともう一人の三人組で麻薬のディーラーやら、夜中に犬を盗み出して闘犬の試合に出すなどの軽犯罪を繰り返しているが、元締めにあたるギャングから大金を払うよう脅されていた。
この3人組の描き方が、短いのにその関係性がよく分かってうまい。
よくできている。
ベンは犬が戦いに負けて噛まれて死んだことに涙するセンシブルな男だ。
ベンを演じるのが27歳のネクフー。ギリシァ人の父とスコットランド人の母の間にフランスで生まれたという国際派だ。ダイアン・クルーガーもドイツ出身の国際派。
で、クルーガー演ずる娘が愛人を殺してしまったことを聞いて俄然母性本能に突き動かされて隠蔽を試みるドヌーヴ。
真相を知って恐喝にやってくるベン。
ドヌーヴがベンに金を少しずつ渡す間に奇妙な心の通い合いが生まれる。
ギャングに襲われるベンを匿って猟銃を構えるドヌーヴ。
すでにベンも、彼女のアドレナリンで肥大した母性本能に守られる存在となっている。
ベンは、それに、どうやって答えるのだろうか…。
という話で、一応スリラー映画とあるが、世代を超えた人間模様という映画かと思って観に行ったら、先日の『アウトレイジ』でも見ないですんだような暴力シーンが満載で、まいった。闘犬のシーンも目を覆ってしまう。
それにしてもドヌーヴ、若い時もポランスキーの『反撥』なんていうのに出た時点からただものではないという感じだったけれど、それでも70代になっても次々と難しい役に挑戦するのには脱帽する。
実はこの人とは昔プライヴェートでやや不快なことがあって、個人的にはあまり好きではなかったのだけれど、そして、今となっては昔の氷の美貌の面影がなく体型もぶ厚く重くなった姿に、なんとなく哀れもそそられていたのだけれど、この映画の彼女、なんだかめちゃくちゃで現実感がないけれどすごくかっこいい。
彼女より若い登場人物たちが軒並みに、卑怯、悪徳、堕落、強がり、鬱、自暴自棄、などの弱さの中であがいているのに、彼女だけが、強い。
恐ろしさのあまりに吐いたりしているのだけれど、もちろん暴力も振るわないのだけれど、とにかく、強くて、カタルシスを覚える。
これを母性本能で説明してしまうのは安易なシナリオだと思うが、ドヌーヴがそれを演じるからこそ爽快感が出ている。
テーマとしては、「それがどうした」みたいでインパクトのない映画だったのだけれど、今更ドヌーヴのファンになってしまいそうな不思議な一作だった。