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L'art de croire             竹下節子ブログ

ルコワントル将軍と石原莞爾

前に、マクロンとぶつかって辞職した参謀総長の後任となったルコワントル陸軍将について少し書いた。

動画で見るとこんな感じの人だ。


彼の最近のインタビューを聞いて、ますます人柄に感心した。

今のフランス軍がアフリカを中心に派兵されているのが引揚げると縮小もできるのではないかという話について、自分たちは何よりも、フランスやフランス人を護ったり救ったりするためにいるので、我々がいるということ自体が「戦争」に対する抑止力でありたい、というのが一番大切なことだ、という。

この人の経歴からいってもとっても説得力がある。

交番があってお巡りさんがいることで、住民が安心して暮らせる、みたいな「抑止力」。

軍隊というより、それこそ「自衛隊」、レスキュー隊みたいなイメージだ。

この人からこう言われると、軍隊、軍人、一律に敵視、廃絶すべきという気にはならない。

「専守防衛」というのは、言葉の遊びでなく自覚、覚悟のある人に率いられている場合には、納得できる。

無責任なシビリアンの政治家なんかよりよほど信頼がおける。

といっても、「軍人」が、タカ派になると恐ろしい。

一年半くらい前、ナポレオンの戦争や日本におけるナポレオンの評価について調べていた時に、石原莞爾の最終戦争論を読んだのだけれど(結局、著書『ナポレオンと神』では使わなかったが)、この人が、日本がアメリカとの戦争に突入する前(1940)にハイテンションで訴えていた最終戦争論って、今から見ると、当たっているところと、予想よりもっとひどくなっているところがあって背筋が冷たくなる。

大量破壊兵器こそが「抑止力」になるというのだが、それで「世界が統一される」なんていうことにはならない。
北朝鮮だろうが、中国だろうが、ロシアだろうが、「独裁に近い権力者を頂き核兵器を持つ国」が今や現実にあるわけだ。
石原の、「弱肉強食の論理」ありきの恐ろしい論文を、戦前のものだと笑うことなどできない。結論部分を少しコピペする。(ここで全文読めます)

>>>>今の世の中でも、もしもピストル以上の飛び道具を全部なくしたならば、選挙のときには恐らく政党は演壇に立って言論戦なんかやりません。言論では勝負が遅い。必ず腕力を用いることになります。しかし警察はピストルを持っている。兵隊さんは機関銃を持っている。いかに剣道、柔道の大家でも、これではダメだ。だから甚だ迂遠な方法であるが、言論戦で選挙を争っているのです。兵器の発達が世の中を泰平にしているのです。この次の、すごい決戦戦争で、人類はもうとても戦争をやることはできないということになる。そこで初めて世界の人類が長くあこがれていた本当の平和に到着するのであります。 要するに世界の一地方を根拠とする武力が、全世界の至るところに対し迅速にその威力を発揮し、抵抗するものを屈伏し得るようになれば、世界は自然に統一することとなります。それから破壊の兵器も今度の欧州大戦で使っているようなものでは、まだ問題になりません。もっと徹底的な、一発あたると何万人もがペチャンコにやられるところの、私どもには想像もされないような大威力のものができねばなりません。(…)

破壊兵器は最も新鋭なもの、例えば今日戦争になって次の朝、夜が明けて見ると敵国の首府や主要都市は徹底的に破壊されている。その代り大阪も、東京も、北京も、上海も、廃墟になっておりましょう。すべてが吹き飛んでしまう……。それぐらいの破壊力のものであろうと思います。そうなると戦争は短期間に終る。それ精神総動員だ、総力戦だなどと騒いでいる間は最終戦争は来ない。そんななまぬるいのは持久戦争時代のことで、決戦戦争では問題にならない。この次の決戦戦争では降ると見て笠取るひまもなくやっつけてしまうのです。このような決戦兵器を創造して、この惨状にどこまでも堪え得る者が最後の優者であります。<<<<


こんな「最後の優者」になんかなりたくない。
こんな「トンでも」の人に煽られていた時代などとっくに過ぎたと笑えない。

軍のトップに立つような人こそ、平和を希求する自制心と犠牲精神の権化のような人であってほしい。

by mariastella | 2018-03-20 06:40 | フランス
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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