L'art de croire             竹下節子ブログ

ハンガリー選挙とカトリック

ハンガリーの総選挙で移民拒否の右派が大勝して、オルバン首相の三期続投が決まった。
なんだかポーランドと同じ雰囲気だ。
難民を入れないために国境にを封鎖することを厭わない。

この二つの国の共通点は、

冷戦以後のEU加盟国で、西側自由主義の歴史が浅いこと、
冷戦中は、もと東方正教文化圏の国からなる無神論共産国の社会主義陣営の中で、歴史的にローマ・カトリック文化圏の国だったことだ。

そのことに起因して、この二国では、冷戦中にも動乱があり、ポーランドのヨハネ=パウロ二世の働きかけもあって、共産圏崩壊のきっかけを作った。

そんな二国だから、今でも、カトリック国アイデンティティは強いのに、どうして、宗教に関係なく移民を受け入れよ、と熱弁をふるう現ローマ法王の言葉を 受け入れないのだろう。

一方、伝統的なカトリック文化圏の国でありながらヨーロッパでも珍しいくらいに徹底した政教分離を掲げ、左翼無神論がイデオロギーになっているようなフランスの方が、移民政策に熱心でキリスト教社会主義の流れをくむ社会民主主義の伝統が生きていて、 現教皇にも好意的だ。

フランスでの問題は、同性婚、代理出産、安楽死などの、死生観のカテゴリーにおいて、カトリック教会との齟齬を埋められないことだ。

それでも、4/9に、フランス司教会議(フランスにおけるカトリックの最高決定組織)の開会に招かれたマクロン大統領が、国と教会の新しい絆を、というような表現をした。
国が非宗教でも、社会が非宗教であるわけではなく、今でも社会のマジョリティ宗教であるカトリック世界と政府が「対話」していくことの必要性は当然だ。

でも、例の左翼無神論の極左だとかその流れのフランスのフリーメイスンの代表であるグラントリアンなどが、このマクロンのスピーチ(実は1時間近くあって全部聞くとまともなことしか言っていない。マクロンはバカではない)に対して、カトリックへの迎合=共和国政教分離の裏切りだと言って、ツイッターで即 、炎上させた。

思うに、宗教も、非宗教も、無神論も、個人の アイデンティティの一部をなすのはしょうがないとしても、国や、国民や 国籍のアイデンティティにしてはいけない。

ポーランドもハンガリーも、無神論共産圏に組み込まれてしまった時代には、カトリックであるというアイデンティティが、「自由世界」と繋がるよすがでもあったし、個人の良心を守る砦でもあったのだろう。その場合には、カトリックはまさに「普遍」を体現していた。

けれども、いったん冷戦が終わると、周りはすでに神なき拝金主義の競争社会になっていた。これらの国のカトリックは、ナショナル・アイデンティティとなって残る。

無神論の共産主義を乗り越えて、ようやく自由と繁栄のスタートラインに着いたというのに、遠くの異文化圏からやってくる無産難民などに自国の安全や経済を 脅かされてはならない、と、守りの体制になり閉鎖的になる。

世界とつながる窓であったカトリックが、内側のナショナル・アイデンティティになったのだ。

クラクフの司教(後のヨハネ・パウロ二世)でもない限り、これらの国の「普通のカトリック信徒」たちは、冷戦時代に第二ヴァチカン公会議でカトリックが刷新された現実とも縁遠く生きてきた。

ましてや、アルゼンチン出身のフランシスコ教皇の言葉をなるほどその通りだと聴く用意がない。

カトリック教会自身が国の政教分離政策に関わって、共和国主義こそキリスト教のルーツだという自覚を持って、絶えず無神論イデオロギーと対峙することを余儀なくされているフランスのカトリック教会とは、普遍主義に対する覚悟が 違うのだろう。

どんな宗教であれ、宗教を、国の伝統やアイデンティティとして政治化してはならない、とつくづく思う。

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by mariastella | 2018-04-13 00:05 | 雑感
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