L'art de croire             竹下節子ブログ

『マドモワゼル・パラディ』とメスメルと心霊治療

日本に行く前に片づけることがいろいろあることと、ストの影響などで、多分観に行けないけれど、興味のある映画が先週封切られた。


オーストリアのバルバラ・アルベルト(Barbara Albert,バーバラ・アルバート)監督作品で、『マドモワゼル・パラディ』という、実話をもとにした作品だ。


1777年のウィーンに、2歳の頃から徐々に視力を失った18歳の全盲の女性ピアニストが超絶技巧で社交界をにぎわせていた。この女性が、「動物磁気」による治療で有名なフランツ・アントン・メスメルによって視力を一時的に回復したが、それと共に、ピアノの腕前が落ちたという話だ。

メスメルはドイツの医師でババリアのイエズス会の大学で神学の学位を取り、ウィーンで法学と医学を学んだ。カトリックのハプスブルク家のウィーンと相性がいい。

1768年、ウィーンで裕福な貴族未亡人と結婚して、音楽家たちのメセナになった。ハイドン、グリュック、モーツアルトらが出入りした。


「動物磁気」理論を立ち上げて、体の中に電位差を作って流れを促し病気を治すようになった。はじめは鉄分を服用させた後で体に磁石をあてるという方法をとっていたが、やがて、手をそっとかざしたり、触れたりするだけで治療するようになった。いわゆる催眠術療法の始まりとも言われている。

カトリックのエグゾシスト(悪魔祓師のタイトルを持つ司祭)ヨーゼフ・ガスネールによる治療に関する意見をミュンヘンの科学アカデミーに対して科学的でないと報告し、自分の治療の科学的根拠を主張した。

それでも、後に、メスメルの治療を受けて、回心体験をして信仰に入った人がいるエピソードからも、少なくとも「心身症」に対するメスメルの治療とエグゾシストの悪魔祓いへのリアクションには共通点があるのかもしれない。

このメスメルの生きたウィーンでは、貴族の娘マリア・テレジア・フォン・パラディスが、サロン・コンサートで注目を集めていた。

もちろん、彼女の目が不自由で楽譜も鍵盤も見えないのに驚くべき記憶力と技巧で楽器を弾くという「見世物性」もあったことは想像に難くない。

で、彼女が満17歳だった1876年の末から数ヶ月、メスメルが、何度も彼女に動物磁気治療を施したという。福音書にあるイエスの奇跡の治療と違って、目に手を触れるだけで一気に物が見えるというのではなく、何度も一対一のセッションを重ねたらしい。

そして、一時的に視力が回復したことでマリア・テレジアは動揺し、ピアノの技巧を失い、結局、メスメルの治療を打ち切ったという。

映画はその間のドラマを、バロック後期のウィーンのサロンを華麗に再現しているそうだ。主役のマリア・テレジアはルーマニアの女優で、迫真の演技だそうだ。



メスメルは自分でも楽器演奏ができて、特に、クリスタルのガラスボールを半音ごとに並べたグラスアルモニカという楽器演奏を治療に使ったという。

このクリスタルの独特の音が、脳神経の何かに作用するらしく、赤ん坊が死んだり、精神不安定になったりする人が続出するということで「悪魔の楽器」としてウィーンで禁じられたのにメスメルが使い続けていたということで、彼は追放される。(記事の終わりに視聴できます)


その後、革命前夜のパリの社交界で大成功するのだけれど、その頃にはもう一対一の治療より、集団催眠のようなショーになっていて、いわゆるヒステリー症状も起きた。

メスメルは一応当時の医学の学位も持っていた医師だったが、今では完全にオカルトの分野にカテゴライズされている。

それでも、ユゴー、ゴーチェ、ネルヴァル、ジョルジュ・サンド、バルザックなどというロマン派の大作家たちがこの「メスメリズム」に大きな影響を受けた。

革命とナポレオン戦争を経た19世紀ロマン派文学や音楽において、フランス文化人やブルジョワは「民族性」に向かうことなく秘教的(エゾテリック)なものに向かい、心霊術や心霊治療は一種のサロン・スノビズムの中に一定の位置を占め続けてきたのだ。

いまメスメルについて日本語で検索してみたら、なんと、このメスメリズムについて、

>>>明治時代に日本に伝わり、日本の伝統的テクニックと融合して昭和初期まで大流行した。この一連の民間療法は霊術と呼ばれた。新宗教では「手当て」「手かざし」「浄霊」などと呼ばれる。<<<

と書いてあった。いろいろな「霊能者」の霊力の証ともされる「手かざし」はメスメリズムとのハイブリッドだったのか。

一対一の心霊治療、これを私は8年近く前にフランスでも日本でも渡り歩いた。


ブログ『たかが、肩』20109月から12月にかけて、いろいろな「実験」について報告している。


それをするようになった動機とスタンスはここここ

いろいろあるが、

フランスの手かざしバイオ・エネルギー治療については

一回目二回目

日本の心霊治療の典型はここここ


いやあ、今読み返すと、実にいろんなことを試したけれど、その当時はなぜかメスメリズムのことなど考えもしなかった。

ましてやメスメリズムと日本の心霊治療とがつながっているなどとは。

(続く)

これはメスメルが治療の一環に演奏したというグラスアルモニカの再現。



これを聴くと心身症状が現れる人が続出し、悪魔の楽器として禁止されていたのが復活した。クリスタルの響きも悪くないが、指を濡らしてこするという弾き方が官能的だ。




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by mariastella | 2018-04-14 00:05 | 映画
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