「おひとりさま」を少し考えた前に、本を読まないで、「おひとりさまVSひとりの哲学」という山折哲雄さんと上野千鶴子さんの対談本の内容についてアップしたので、先日日本に行った時に買って読んでみた。 このお2人の書いた「おひとり」モノ自体も読んだことがないので何とも言えないが、誰かが書いていたようにもっぱら上野さんが山折さんを論破している、という印象は別に受けなかった。 上野さんは昔風に言うと「つっぱっている」雰囲気で、山折さんは自然体の感じなので、山折さんの方が「上品」に見えてしまう。 例えば上野さんはすぐに「おっさんはいい気なもんだ」と「ムラっと怒」りが湧くというのだけれど、山折さんの方は上野さんを前にして「おばはんはいい気なもんだ」などとは絶対に口にできないだろう。
ただ、上野さんは、本当はいわゆる情にあつい人なんだなあと思う。
自分には「絶対に『この人は自分を見捨てないだろう』という子も孫もいない」 とか、 「わたしは日本では超レアケースの確信犯的おひとりさまなんです。家族を作ることを、自分の意思で選択しなかった。そのことをまったく後悔していません。どうしてかっていうと、誰かと運命共同体になることを一切したくなかったからです。」 とか言っているからだ。
「子や孫は絶対に自分を見捨てない」などと思っている人なんて、それこそ超レアか、彼女の言葉でいえば妄想の部類のような気もする。 そして、家族を作ったからと言って運命共同体になるかどうかだって分からない。 人は、自分の生きる時代や環境と運命共同体にならざるを得ない部分はあるけれど、「運命共同体」になりたいからと言って結婚を決める人がどれだけいるのだろう。 結果的に社会や世間や風土や経済状況や健康状態などいろいろな状況によって「運命共同体」になってしまうカップルだってもちろんいるだろうけれど、それは「結婚」自体の属性ではない。 上野さんはおとうさまの介護や看取りをなさったということだから、そういう義理堅いタイプで、親を「見捨てる」ことなど絶対になかったわけだ。責任感があって、いい人なんだなあと思う。 この世には、親につぶされたり捨てられたり、子供に裏切られたり搾取されたりするケースなんていくらでもあるような気がするのは、上野さんではなく私がよほど「性格悪い」(上野さんが自虐的にあるいはレトリックとして自分を形容する言葉)からかもしれない。
それに、普段は、性的マイノリティをLGBTとくくってロビー活動したりする人を冷ややかに見ている私なのだが、こうシンプルに「おっさん」と「女」に分けて論じられると、「おっさん」アイデンティティのない男や「脳内おっさん」の女や、ジェンダーでカテゴリー分けされたくない人たちはどうなるんだろう、と気になる。
上野さんは、宗教についても筋金入りの無神論で「神秘主義と超越はノーサンキュー」と切って捨てるのだけれど、それはなんとご自分が「棄教徒」だから、「あの世」とか「彼岸」とか「霊」に頼るまいというのがアイデンティの一部なんだそうで、これも驚きだ。 「棄教徒」アイデンティティということは以前に本気で信じていたということだろうか。 「のめりこんでいた新興宗教から抜ける」というようなケースの他には、日本では、「棄教」するほど宗教帰属意識のある人自体が少数派だと思う。
私が『無神論』で書いたようなキリスト教文化圏での「無神論」への回心や反宗教イデオロギーとも少し違う。 日本でそんなイデオロギーを掲げても持って行き場がないような気がする。 この点に関しては、「風土の差」というのは厳然としてあるのではないだろうか。 山折さんのアニミズムと一神教の関係の仮説にも前から異論があるけれど、この本では、むしろ、上野さんっていい人なんだなあという感慨の方が残った。
私も「死に行くとき」は、幸いに事故や災害や犯罪などではなく普通の病気や老衰ならば、プロに普通に苦痛をケアしてもらって看取ってもらえるだけでけっこうで、残る人の愁嘆場もみたくないし上野さんが言う「感動ポルノ」もごめんだと(少なくとも今の時点では思っている)いう点では、まったく彼女と同意見だ。
「神秘」や「超越」については、それ自体を求めるというより、神秘や超越と深く関わったり体現していたり激しく求めたりする「人々」に惹かれる。 神秘も超越も、私にとっては、そういう人々や彼らの営為、残してくれた生き方や証言を通して、ガラスに反射して見える太陽の光やぬくもりの気配のように「ある」貴重なものだ。 そんな「人々」がいる限り、私は決して「おひとりさま」ではないなあと思う。
by mariastella
| 2018-06-08 00:05
| 宗教
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