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L'art de croire             竹下節子ブログ

聖体の祭日

6/3の日曜ミサは、日本のカトリックでは「キリストの聖体の祭日」というのだそうだ。

フランスでは簡単に「la Fête-Dieu、つまり、「神祭り」などと普通に呼ばれる。

もちろん聖体の祝日、 Fête du Saint-Sacrement, とかラテン語の神の体、キリストの体、Corpus Domini, Corpus Christiとも呼ばれる。


本来は復活祭後60日とか、三位一体祭の後の木曜とかの「移動祝祭日」の一種だ。ポルトガルやブラジルやポーランドのようなカトリック国は公休の祭日のまま残っているけれど、フランスなどは、復活祭やキリスト昇天祭、聖母被昇天祭などは移動祭日のままだけれど「聖体の日」は祭日ではないのでそれに近い日曜日に設定されている。日本でもそのようだ。

ことの起こりは、「聖体パン(ホスティア)」が本当にキリストの体になるなんて、と疑いを抱いた司祭たちの前で、いろいろな奇跡が起こったことの記念だ。聖体パンが突然肉片に変わったとか、血が滴り落ちたとかいう「奇跡」は、カトリック世界のフォークロアとしてはあちこちにある。韓国の血の涙を流すナジュの聖母像で有名になったジュリアさんの口の中であら不思議、小麦と水の後聖体が肉片に変わったというパフォーマンスは20世紀末にも盛んに拡散されていた。

「聖体」を口にする、というのは文字通り考えたらかなり倒錯的なカニバリズムっぽいイメージなので、プロテスタントがそれはシンボリックな意味ですよ、と言ったのは無理がない。「奇跡」のフォークロアを動員してまで「化体」にこだわるカトリック教会も、派手なパフォーマンスを規制している。無酵母パンが肉に「化ける」必要はないので、キリストが自分の体を無酵母パンに託したのだから、「見かけ」は関係がないはずだからだ。

ともかく、フランスのような「カトリック文化圏」の国では、神学的、教義的、フォークロアとの習合の歴史などを別にして、5月の「聖母月」に「母の日」を、6月の「聖体の月」に父の日を、一番気候のいい時期に、家庭や共同体のお祭りを続けてきたわけだ。

で、前の記事で書いた上野さんとは正反対でフォークロリックな祭りも民間信仰も神秘も奇跡も好きな私はもちろんこの「聖体祭」に出かけた。

ルヴェリエール神父がどう話すか聞きたかったこともある。

思えば、私は楽器演奏の生徒たちに、

聴き手は「物理的な音」を聴くのではない、すべての聴覚体験は視覚と同じで脳による再構成なのだから、演奏者の「意図」も込みで聴いている、音が出る前、響く間、消えた後、その全てにどういう意図をこめるかによってそれに応じて聴いてくれるのだ、

と、いつも言っている。

それで「実験」をすると、はっきり違いが分かるのでみんな感心してくれる。

それと同じで、どんな芝居でも小説でも、鑑賞する方は、俳優や監督や書き手の意図や、本気、やる気、なりきり方、伝え方、を、「内容」といっしょに受けとめる。

伝える側の熱意やら意図を受けとめ共有することができれば、「ファクト」の信憑性などは問題にならない。

SFでも、アニメでも、神話でも、命の琴線に触れることがある。

で、「ビュット・ショーモン被昇天のノートルダム」のルヴェリエール師の説教が楽しみだった。

この教会、ラテン語(フランス語の対訳が表示されるとはいえ)の歌も増えて、跪いて口で聖体拝領する人も少なくないし、なんだか、だんだん原理主義っぽくなって、外国に来ているみたいな気もしないでもない。

でもルヴェリエール師の話が興味深いのは、彼が「信じている」からだ。


「ご聖体」を掲げ、「ご聖体」を語る人の「信仰」が、名演奏者の奏でる音楽のように聴こえる。「ご聖体」が楽器で、ルヴェリエール師の「信仰」が弾き手であるかのようだ。

で、どんどん「伝統」主義っぽくなる彼は、子供たちにバラの花びらを撒かせて、祭壇から教会前の広場まで超短い距離をしっかり「聖体行列」をして、それから聖体器を持って教会の屋根のテラスに上がり、町すべてを「祝福」した。

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地面にバラの花びらが見える。祭壇の前で向こうでひざまずいているのがルヴェリエール師。


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お天気がよくてよかったね。

ラマダン期間中とはいえ、何の検査もなく、「聖体」をもって出たり入ったり、道行く人も、日本なら「あ、今日はここのお寺でなんかやってるな」という感じの「普通のパリの下町」のリラックス感にほっとさせられた。

 

6/13「父の日」にはミサの後に無料で昼食会があり、10歳以下の子供にはベビーシッターがつき、10-15歳には映画の上映付きだそうだ。「アルファ」の人たちが食事を担当だという。

 彼の求心力がますます強くなっているのが分かる。

 肝心の「説教」はどうだったかというと…(続く)


by mariastella | 2018-06-09 00:05 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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